しかし,最近になって,トキソプラズマ病原虫 (Toxoplasma)に退化した痕跡的な葉緑体が発見されました
(McFadden et al. 1996)。
アピコンプレクサ類の細胞のなかには,核とミトコンドリアのDNA以外におよそ35kbの大きさのDNAがあり,それは核の外側に存在することがしばらく前から明らかになっていました。一方,微細構造の調査から,アピコンプレクサ類の細胞中に複数の膜に包まれた小器官が存在することも知られていましたが,その正体は明らかではありませんでした。この35kbDNAが葉緑体のDNAであり,しかもそれが正体が分からなかった小器官の中に局在することが明らかになりました。つまり,この小器官は退化した葉緑体であることが確かめられたわけです。このことは,マラリア病原虫を含むアピコンプレクサ類はかつて光合成で生活していた生物の子孫であることを示しています。
アピコンプレクサがかつて光合成を営む独立栄養生物であったならば,渦鞭毛藻はすべてが独立栄養生物であった可能性があります。これが真実ならば,現在食作用で生活している渦鞭毛藻は葉緑体を二次的に失った可能性があります。
アルベオラータに属する三つの生物群(繊毛虫,アピコンプレクサ,渦鞭毛藻)はエネルギーの獲得様式(栄養様式)の点から見ると,互いに著しく異なっています。つまり,繊毛虫は水界における代表的な分解者です。対照的にアピコンプレクサは他の生物に寄生して生きています。また渦鞭毛藻のおよそ半数は光合成を行い,水界で独立栄養生活を営んでいます。
Whittakerの5界説で真核生物の三つの生物界(動物界,植物界,菌界)がエネルギー獲得様式の違いによって定義されていたことを考えると,単一の祖先生物から分岐した系統群がこのような著しく異なる栄養様式を選んだことは驚くべきことです。実際には,真核生物の進化では,このような生活様式の変化が頻繁に起こっていたかも知れません。同様な傾向はユーグレノゾアにおいてもみることができます。