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鞭毛装置 Flagellar apparatus

紅藻を除く真核藻類の多くには鞭毛をもつ種が含まれます。また生殖のための遊泳細胞を形成します。このような細胞の鞭毛の基部には基底小体 (basal body)とそれに付随する微小管や繊維構造からなる複雑な構造がみられます。これを鞭毛装置 (flagellar apparatus)とよびます。鞭毛装置は多くの藻類群で,次のようなさまざまな細胞活動に関与しています。

鞭毛運動に関与する。
核分裂時に基底小体は中心体として分裂極の形成に関与する。
細胞骨格微小管の形成中心を伴う。
細胞内の主要なオルガネラの配置に関与している。

鞭毛装置は次のような性質をもっています。

紅藻を除くすべての真核藻類に存在するので,綱や門のレベルの比較が可能である。
300をこえる構造タンパク質から構成され,多くの下部構造をもつ。鞭毛装置には100をこえる形態がみられる。
門や綱のレベルで共通の基本構造がみられるが,目,科,属,種の間で異なる点がある。極めて保守的な性質と適度に変異に富む性質をともにあわせもっている。そのためにさまざまな階級の分類のための形態形質として利用できる。
複合的な構造であることから,形質の相同性を高い信頼度で推定できる。

このような性質から,鞭毛装置は真核藻類の系統推定と分類のための最も重要な形態形質になっています。

次の図はさまざまな藻類の代表的な鞭毛装置の模式図です。

緑色藻類(緑藻) 緑色藻類
(シャジクモ藻)
黄金色藻綱 ユーグレナ藻綱

クリプト藻 渦鞭毛藻 ハプト藻


基底小体と鞭毛の世代 Flagellar generation

多くの藻類は2本またはその倍数の4本,8本の鞭毛をもっています。これら複数の鞭毛の間にはなにか特別な関係があるでしょうか?これらは細胞分裂のときに娘細胞にどのようにうけつがれるのでしょうか?それとも,娘細胞が形成されるときに,すべてが新たに形成されるのでしょうか?

最近,そのことに答えが見つかりました。鞭毛は,まず半保存的に娘細胞に伝えられます。つまり2本鞭毛の生物では子供の細胞は1本の鞭毛を親から受け継ぎ,新たに1本を形成することになります。4本鞭毛では2本が親から受け継いだもの,残りの2本が新たに生じたものです。

親から受け継いだ鞭毛と新たに生じた鞭毛は,その種本来の鞭毛が配置されるべき位置に落ちつくわけですが,そのときに,たいへん興味深い現象がみられます。つまり,親から受け継がれた鞭毛が,親の細胞のなかで占めていた位置と子供の細胞で占める位置が変化することが分かったのです。いろいろな藻類で細胞分裂のときの鞭毛の動きが調べられ,その結果,新たに生じた鞭毛は細胞のたびに,細胞内における位置を変え,2本鞭毛の場合は2回目の細胞分裂で,また4本鞭毛の場合は3回目に,そして8本鞭毛の場合は4回目の細胞分裂で,鞭毛装置のある特定の位置に落ちつくことがわかりました。このことは,鞭毛には世代があること,数世代をかけて鞭毛装置のなかで役割が変わっていくことを示しています。別の言い方をすれば,鞭毛は数世代をかけて成熟するということになります。

プラシノ藻 Nephroselmisの場合

黄金色藻 Ochromonas の場合

上のNephroselmisでは,長鞭毛がNo.1の鞭毛,短鞭毛がNo.2の鞭毛です。No.2の鞭毛は次の細胞分裂でNo.1の鞭毛に「昇格」します。

Ochromonasの場合は逆で,短鞭毛がNo.1の鞭毛,長鞭毛がNo.2の鞭毛です。No.2の鞭毛は次の細胞分裂でNo.1の鞭毛に「昇格」します。