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ショウジョウバエのMAPキナーゼカスケード

西田育巧

(名大・院理・生命理学)


 MAPキナーゼ (mitogen-activated protein kinase、MAPK) は、MAPKKK→MAPKK→MAPKというリン酸化のカスケード(MAPKカスケード)によって活性化される。このカスケードは進化において強く保存され、細胞外シグナルやストレスによるシグナルの伝達に重要な役割を果たしている。我々はショウジョウバエD-raf (MAPKKK) の優性抑圧変異の検索から、その下流にDsor1 (MAPKK), rolled (rl, MAPK) を同定し、また、それらの表現型や遺伝的相互作用の解析から、Sev, Tor, DERなど複数の受容体チロシンキナーゼからのシグナル伝達の他、増殖制御にも働くことを示してきた。MAPKカスケードはカセットとして多様なシグナル伝達経路に共通に機能すると考えられるが、シグナルの合流・分岐の仕方が各経路で異なり、これが特異性に寄与していると考えられる。例えば、増殖制御経路では、null表現型はD-rafよりもDsor1の方が強く、Dsor1はD-raf以外からのシグナルも伝達すると予想される。一方、Tor経路ではD-rafとDsor1の表現型は同じで、シグナルの合流・分岐はないと考えられる。基本カスケードであるMAPKカスケードに特異性を付与する新規因子の同定のため、表現型が優性Dsor1変異により抑圧または増強されるP因子挿入変異の検索を行い、各々表現型の異なる幾つかの系統を得た。その一つで被抑圧グループのlaceの穏和な表現型は半致死で複眼・翅・剛毛などの形態異常を伴う。これがスフィンゴ脂質生合成の律速酵素であるserine palmitoyl-transferaseをコードすることから、セラミドを介したシグナル伝達経路との相互作用が予想される。