O-1-3


Notchシグナリングの分子機構

松野健治

(科学技術振興事業団 (CREST/JST) 、阪大・医・神経機能解剖学)


 Notchレセプターを介する情報伝達系(Notch情報伝達系)は、細胞間の接触に依存した、細胞間相互作用による細胞運命の決定に重要な働きをしている。遺伝学的、生化学的解析から、Notch情報伝達系を構成する因子群が同定されているが、他の情報伝達系との相似性が見られないことから、Notch情報伝達系は新しいグループの情報伝達系であると考えらている。Notch情報伝達系の構成因子は、無脊椎動物から哺乳類まで保存されており、ヒトにおける遺伝子病や癌との関係が知られている。

 ショウジョウバエdeltex遺伝子は、Notch情報伝達系を正に制御していると考えられている。Deltexタンパク質は細胞質に極在し、Notchレセプター細胞質ドメインのCDC10/Ankyrin様リピートに結合する。Deltexタンパク質は、Notchレセプターとの結合を介して機能しており、Deltexタンパク質を過剰発現することでNotch情報伝達系を活性化できるらしい。Deltexタンパク質には、タンパク質間相互作用に関与すると考えられているring zinc fingerドメインと、SH-3ドメインの結合部位と類似した配列が存在する。Deltexタンパク質の構造と機能は、哺乳類においても保存されている。

 Notch情報伝達系の未知の構成因子を同定するために、ショウジョウバエdeltex突然変異のwing veinにおける表現型の遺伝的dominant modifierをスクリーンした。 得られた突然変異の遺伝学的解析は、これらの遺伝子とNotch情報伝達系の関係、及び、wing vein形成への関与を示唆している。