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TGF-βシグナルと成虫末梢神経系のプレパターン形成機構について

中村 真、友安慶典、上野直人

(基礎生物学研究所・形態形成部門)


 成虫の末梢感覚神経細胞は、シート状の上皮細胞層の中からある規則性をもって誘導される。このような規則性はいくつかのステップを経た結果形成されてくると考えられている。まず、上皮細胞層の特定の位置に数個の細胞集団が神経母細胞(SOP)になる能力を獲得する(proneural clusterの形成)。次に、この細胞集団の中の一つの細胞が神経母細胞へと分化しその他の細胞のSOPへの分化を抑制する。最終的に、SOPはさらにいくつかの細胞分裂を経て神経細胞と感覚器官を形成する細胞を形成する。現在proneural cluster形成以降の分子メカニズムはかなり解明されているが、proneural clusterが上皮シート中のどのような位置情報を手がかりに特定位置に誘導されるのかについてはよく分かっていない(wingless (wg)が一つのkey factorになっていることはすでに報告されているが)。

 我々はTGF-βスーパーファミリーに属する液性因子decapentaplegic (dpp) の発生における役割の解析を進めてきた。 その結果、3齢幼虫前期の翅原基 (wing disc)においてdpp シグナルを異所的に活性化させると成虫背側の外部感覚器 (macrochaete)の数が顕著に増加することが分かった。このとき異所的に誘導されたproneural clusterの位置をwing disc上で観察したところ、誘導されるproneural clusterの位置は常にwgの発現領域に接していることが分かった。我々が考えているdppとwgによるproneural clusterの誘導メカニズムについて報告したい。