O-1-6


剛毛形成を指標とした遺伝子機能進化の解析

高野敏行

(遺伝研・集団遺伝)


 モデル生物であるキイロショウジョウバエとその近縁3種では全く同じパターンで胸部の剛毛 (Macrochaetae) が観察される。ところが、キイロショウジョウバエとD. simulans との雑種ではこれらの胸部剛毛が失われる傾向がある。一方で、D. simulans により近縁なD. mauritianaやD. sechellia とキイロショウジョウバエとの雑種では剛毛は失われない。また、D. simulans も系統によってほとんど剛毛を失わないものから多くの剛毛を失うものまで、大きな変異が存在する。これらの結果はD. simulansの集団中に比較的最近、雑種において剛毛を消失させる変異が生じたことを示唆する。また、キイロショウジョウバエとの雑種では剛毛を失うD. simulans の系統でも、同種との交配では剛毛の消失はみられない。このことは、形態の表現型の上では同じでも、それを支える遺伝子の機能の上では完全に同一ではないことを示唆する。SMC 等の発現マーカーを用いた解析から、種間雑種の剛毛消失は表皮/神経、シャフト/ニューロンといった細胞運命の選択の間違いではく、SMCが現われた後の神経細胞としての運命の維持ないしは細胞分化の初期に障害が生じたためであると考えられる。また、欠失染色体スクーニング、D. simulans 種内の変異を用いたQTLマッピング等からD. simulans のX染色体上に原因遺伝子の候補となる領域を見いだしている。

 以上、ショウジョウバエの剛毛形成を指標として近縁種間で進む遺伝子変化と遺伝子座間の相互作用を種間雑種の形態異常として検出する系を用いて行った解析結果を報告する。