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性的隔離(行動による隔離)から進化を考える

小熊 譲

(筑波大・生物科学系)


 私たちの研究室は、小進化(種レベルの進化)がどのようにして起こるか、に興味を持ち仕事を進めている。今回は小進化のうちでも、特に配偶行動の変化にもとづく性的隔離の維持および発達の遺伝学的解析に焦点をあてて、講演をしたい。ショウジョウバエの配偶行動はさまざまな要素、たとえば定位や追尾、翅振動、交尾試行、交尾などからなっている。これらの要素はおもに接触化学感覚(シグナルとして、たとえば雌雄の性フェロモン)と聴覚(雄が発する求愛歌)、視覚(明暗に対する感受性)等によって解発されることは広く知られている。これらの感覚に関与するシグナルの産生または受容の遺伝的変化が、雌雄の種認識にもとづく配偶行動に微妙に影響し性的隔離の発達となり、その結果これが種分化のひとつの要因として寄与することになるであろう。このような理由から、これらの感覚に関与するシグナルの産生と受容の遺伝学的基礎を明らかにし、種分化の機構を少しでも知りたいと考えている。

 地球上に存在するショウジョウバエ科のハエは3000種を越え、日本からは約270種が記載されている。性的隔離が発達しているにもかかわらず、実験室において交配が可能で、さらに妊性のある子孫を得ることができ、かつ先人のうまずたゆまぬ努力によって集められた多数の遺伝的標識を用いて解析ができる種は、非常に限られている。私たちが研究の対象としているアナナスショウジョウバエ類やカオジロショウジョウバエ類、キイロショウジョウバエ種亜群の配偶行動の様子から進化を考えてみたい。