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ホスト転換の遺伝学:単食性ショウジョウバエDrosophila sechelliaをモデルとして

菅谷 茂、布山喜章

(都立大・理・生物)


 セイシェルショウジョウバエD. sechellia は melanogaster subgroup の一員であるが、このグループでは例外的に単食性で、ヤエヤマアオキMorinda citrifoliaの成熟果実を唯一の繁殖場所としている。植食性昆虫では、ホスト植物の転換が種分化のきっかけとなることを示唆する例が多数報告されており、本種の特異な食性がどのような遺伝的背景によるものかを知ることは、種分化の機構の解明に重要な手がかりを提供するものと期待される。D. sechelliaはM. citrifolia の果実に誘引され、産卵するが、近縁種のD. melanogasterやD. simulansは忌避する。また、この果実は近縁種には強い毒性を示す。D. sechelliaに対する誘引および近縁種に対する毒性は、いずれも、果実に含まれる低級脂肪酸によるものである。本種は、その特異な食性にもかかわらず、通常の培地で飼育可能なこと、D. melanogasterやD. simulansとの間で種間雑種が得られるため、これらの種の遺伝的資源が利用可能であることなどの利点を生かし、本種の低級脂肪酸に対する適応の遺伝的機構について、解析を進めている。

 これまでに、(1)誘引ならびに産卵行動は、第2染色体右腕、D. melanogasterの57Aに相当する領域の劣性遺伝子に支配されるること、(2)果実の毒性に対する耐性は第3染色体上の優性遺伝子が関与しており、母性遺伝を示すこと、などが明らかにされた。これらの知見にもとづいて、本種におけるホスト転換機構の分子レベルでの解明を目指している。