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昆虫の体のまもり方  −ショウジョウバエにおける生体防御系遺伝子群の進化−

伊達敦子1、颯田葉子1、高畑尚之1、石和貞男2

(1: 総合研究大学院大学・先導科学研究科・生命体科学専攻、2: お茶大・理・生物)


地球上の生物は、その歴史的拘束のもとそれぞれの生息環境に適応した生体防御系を発達させてきている。無脊椎動物に属する昆虫類は、きわめて多様な環境に適応し繁栄を遂げている生物であるが、脊椎動物にみられるような獲得免疫機構を持たず、幅広い抗菌活性を持つ抗菌タンパク質の分泌といった比較的単純な系を発達させてきている。現在まで単離された抗菌タンパク質は約15種類にも及び、ショウジョウバエを中心に遺伝子のクローニングが進められているが、それらの解析より、抗菌タンパク質遺伝子の多くはゲノムに多重化しており、その発現調節には哺乳類の免疫関連遺伝子の発現調節に関わるNF-κB転写因子系と類似したシステムの存在が現在までに明らかにされている。このような特徴を持つ昆虫の生体防御系遺伝子群の遺伝的しくみと進化を考察するために、私たちは、ショウジョウバエの抗菌タンパク質セクロピン多重遺伝子族のDNA塩基配列に基づく分子進化学的解析を行った。現在まで、これら遺伝子群は約3000万年の間に遺伝子重複と染色体再配置を繰り返し経て形成されたことが示唆された。このような短期間での遺伝子重複の生物学的意義を考慮し、他の抗菌タンパク質遺伝子や転写因子の解析も併せて、昆虫の生体防御系の適応進化を議論したい。