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ショウジョウバエ中枢神経系および体液細胞由来の株細胞を用いた、細胞−基質間相互作用に依存する細胞内情報伝達機構の解析

高木康光1、程久美子2、徳重直子1、広橋説雄1

(1: 科学技術振興事業団・広橋細胞形象プロジェクト、2: 日本医大・薬理)


 基底膜は様々な組織を取り囲む細胞外マトリックスで、単なる支持体としてでなく、種々の生理的あるいは病理的な局面における細胞の機能発現を積極的に制御する。我々はショウジョウバエをモデルとして、組織・器官構築における基底膜の役割、特に細胞ー基質間相互作用から派生する細胞内情報伝達系の動態変化と形態形成過程との因果関係を明らかにすることを研究目標とし、その解析手段の一つとして培養細胞を積極的に活用してきた。個体サイズが小さく発生の進行が急速なショウジョウバエでは、そのために突然変異体の形質や単離された遺伝子機能の理解に困難の伴うことがある。培養細胞を用いた再構成系は細胞レベルでの解析を可能とし、また遺伝学的解析では明らかに出来ない分子間の直接の相互作用の証明も行なえるなど、個体レベルの解析が持つ欠点を補うアッセイ系である。

 第三齢幼虫の中枢神経系由来の株細胞BG2-c6は基底膜成分であるラミニンに対して強い接着伸展活を示し、それに対応してインテグリンの凝集とその凝集点へのチロシンリン酸化タンパク質の局在が引き起こされることを免疫組織化学的手法で認め、以前に報告した。今回我々は、α-アクチニン, PAK, ENA といった分子がインテグリンと局在を同じくすることを明らかにし、本細胞におけるインテグリン依存性情報伝達経路についてのモデルを提唱する。また、体液細胞由来の株細胞Kc167の培養上清を利用したBG2-c6の大量培養系を確立し、インテグリンの活性化により誘導される細胞内情報伝達に関与する分子の生化学的解析を開始したのでその知見についても併せて報告したい。