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キイロショウジョウバエの性指向性を制御するfruitless gene は体細胞の性を決定する遺伝子の一つでありBTB domain、Zinc finger motifを持つ転写因子をコードしている

伊藤弘樹、藤谷和子、薄井一恵、Eric Nilsson、粟野若枝、山元大輔

(科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト)


 satori (sat) 突然変異体の雄は雄にのみ求愛を行い、雄特異的な腹部第5節の筋肉(ローレンス筋)を欠いている。このsat 変異は、性指向性、ローレンス筋の両表現型に関して、雄が雌雄の両方に求愛するfruitless (fru) 変異(Gill, 1963)とallelicであった。そこで、両変異の原因遺伝子であるfru geneの遺伝子構造と発現部位を解析し、以下のことを明らかにした。1)fru gene は、N末にBTB domain、C末にZinc finger motifを持つ転写因子をコードする。fru mRNAの3'領域にはalternative splicingが見られ、結果としてC末構造の異なる5種類のFruタンパク質をコードする。また、一部のfru mRNAの5'領域では性特異的なalternative splicingが見られ、結果として雄のFruタンパク質のN末には、雌に存在しない101個のアミノ酸が付加される。2)性特異的なalternative splicingを受けるexonの内部には、体細胞の性決定遺伝子の一つであるtransformer (tra) geneの産物、Traタンパク質が結合する配列が存在する。3)fru mRNAは、三令幼虫、蛹、成虫の中枢神経系の一部の細胞で発現している。また、体細胞の一部でも発現している。

 以上の結果から、体細胞の性決定カスケードには、tra の下流にdoublesexを通らない新たな経路が存在し、それが神経系の一部の性分化を支配すると推定される。fru gene はその経路の最初の遺伝子であると考えられる。現在、各タイプのFruタンパク質をコードするcDNAをハエに導入し、どのタイプが性指向性、ローレンス筋形成に関与するのかを解析中である。