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ローレンス筋の雄特異的な発生におけるtra及びfru遺伝子の役割

薄井一恵、伊藤弘樹、山元大輔

(科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト)


 キイロショウジョウバエの腹部にはローレンス筋(muscle of Lawrence)と呼ばれる、雄特異的な筋肉が存在する。fruitless(fru)は、雄の求愛行動異常を示す突然変異体である。加えてローレンス筋の欠失も観察されるので、fru遺伝子はローレンス筋の雄特異的な発生においても必須であると考えられる。 ローレンス筋が形成されるか否かは雌雄モザイク解析や核移植実験により、筋肉母細胞の雌雄に因らず、腹部筋肉へ投射する神経の雌雄に依存することが報告されている(Lawrence and Johnston, 1986)。また、ローレンス筋形成は、既知の性決定遺伝子のうち、transformer(tra)には依存する反面、そのターゲットであるdoublesex(dsx)には依存しないことが報告されている(Taylor et al., 1995)。fru遺伝子の雌型mRNAにはTraタンパク質結合部位があるので、fruはTraのターゲットとして働き、dsxの経路とは別の新規性決定カスケードにおいて機能することが示唆される。ローレンス筋形成は、この新規カスケードに媒介されると考えられる(Ito et al., 1996)。

 今回我々は、GAL4/UASシステムを主に用いローレンス筋を支配する神経細胞群の組織学的解析を試みると共に、候補神経細胞群にfru 、tra遺伝子を強制発現し、ローレンス筋の形成に対するその効果を検討した。この結果、ほぼすべての神経細胞にtra遺伝子を強制発現させると、染色体上は雄であっても、不完全なローレンス筋しか形成されなくなることがわかった。