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キイロショウジョウバエ処女雌の性的受容性を制御するchaste 遺伝子の解析

従二直人1、竹下綾1、山元大輔1,2

(1: 科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト、2: 三菱化学生命研)


キイロショウジョウバエの第2染色体 53F 領域の P 因子挿入によって生じた chaste変異体の雌は、強い交尾拒否行動をとり続けるため妊性が著しく低下する。通常このような行動は羽化直後の未成熟な雌に見られるもので、性的に成熟した処女雌は雄の求愛に対し一時的に軽い拒否行動をとることはあっても持続的に拒み続けることはない。したがって chaste 遺伝子は、交尾拒否の相から交尾受容の相への移行に関与していると考えられる。私たちは、性的受容性獲得の遺伝的制御の解明をめざし、この遺伝子の分子遺伝学的解析を行っている。P 因子挿入近傍にある3つの遺伝子は、いずれも新規であった。このうち最も P 因子挿入の近くに位置する遺伝子のみ発現に影響がみられることから、私たちはこれが chaste 変異の原因遺伝子である考えている。この遺伝子は、10、8、6、1、0.7 kb の mRNA を発現するが、chaste 変異体では10 kb のものだけが無くなっている。これは、10 kb mRNA が他のものより上流から転写され、これが P 因子挿入によって中断されるためであることが cDNA の解析から示唆された。一方、P 因子挿入付近にあり、5種の転写産物に共通のエクソンの欠失は劣性致死となった。以上のことから、chaste 遺伝子は、雌の性的受容性の獲得に必要な10 kb の転写産物と、生存に必須なその他の転写産物をコードしているものと考えられる。