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雌の識別行動の遺伝的解析

戸井基道、都丸雅敏、小熊譲

(筑波大・生物科学)


 ショウジョウバエの配偶行動において雌による交配相手(雄)の識別は生殖的隔離を引き起こし、種を維持するための重要な本能行動である。しかしその詳細な遺伝学的解析はなされていない。そこで近縁であるが強い性的隔離が見られるDrosophila ananassaeとD. pallidosaを用いて、雌の識別を支配する遺伝子の単離を試みた。2種の雌は雄の求愛歌に対して種特異的な識別行動を示し、同種の雄とのみ交尾する。雑種第一代、および染色体分析の結果、この行動はD. ananassae雌の識別行動が優性であり、第3染色体に支配されていることが明らかになった。組換え体、およびD. ananassae雌の識別を支配しているD. ananassaeの染色体部位をD. pallidosaの遺伝的背景に導入した戻し交雑体の解析より、2種の雌の識別行動を支配する遺伝子座は、第3染色体左腕のDelta遺伝子座近傍にそれぞれ位置づけられた。この結果は2種の種分化と強く関わっている雌の識別という本能行動が、一つの遺伝子座の支配を受けている可能性を示唆している。さらに唾腺染色体へのin situ hybridizationによる遺伝子座の同定、および分子遺伝学的解析について報告する。