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性的隔離の弱まったP因子挿入系統288からのP因子切り出しの試み

山田博万、久保朋子、都丸雅敏、小熊譲

(筑波大・生物科学)


 Drosophila melanogasterとD. simulansは同所的に生息する形態的に非常に良く似た近縁種であり、両者の間には強い性的隔離が存在している。この2種間の性的隔離のうち、D. melanogaster雌の遺伝的、機能的要因について明らかにすることを目的とし、D. melanogasterのゲノム中にP因子PlwBをランダムに挿入した系統からスクリーニングされたD. simulans雄と高い交尾率を示す288系統の雌を実験に用いた。

 D. simulans雄からの求愛数が288系統雌は野生型雌に比べ有意に多いことが分かっており、これは、D. simulans雌の性フェロモンである(Z)-7-tricosene の産生量増加によると考えられた。また、雄の求愛歌は雌の受容性に重要であることが示唆されている。その発信器官である雄の両翅を切除した場合と、その受容器官と考えられる雌の聴覚器官の触角端刺を切除した場合の交尾率について調べた。その結果、どちらについても切除時に有意な減少が見られ、288系統雌のD. simulans雄に対する受容性にとって求愛歌の存在が重要であることが示唆された。

 今回、288系統雌とD. simulans雄との間の性的隔離が弱まった原因と考えられるP因子をΔ2-3を利用して切り出し、P因子が挿入されていない系統の作製を試みた。その結果、P因子が切り出された49系統を得た(P因子の切り出された確率は0.52%)。これらについて交尾率を調べたところ、有意な減少の見られた系統を得た。