P-19


雑種致死、キーワードは細胞周期? パンドラの箱は開けられた

澤村京一

(シカゴ大・生態/進化)


 現代総合の寵児(Dobzhansky学派)が種分化の研究に好んで用いたのはウスグロショウジョウバエであった。それ以前(20年代)に唯一知られていた種間交配(キイロとオナジ)は致死と不妊のために遺伝学的解析が困難であったためである。40年頃まで、性染色体異常/3倍体/放射線照射などを駆使した雑種F1の研究は続けられた(Sturtevant, Schultz, Muller, Pontecorvoら)が、その後停滞してしまった。近年における致死/不妊救済系統の発見(1)は、雑種後代の作出を可能にし、遺伝/発生のモデル生物であるキイロショウジョウバエが種分化研究の材料として見直されようとしている。

 発表者は、妊性の回復したオナジ/キイロ雑種雌をキイロに戻し交配した。ここで得られるF2雌を形質(遺伝子不和合)を指標にしてスクリーニングし、バランサーを用いてオナジの遺伝子をもつ染色体を抽出/固定した。これにより、第二左碗(バンド21から35/36)の遺伝子導入系を確立した。この領域には以下のような遺伝子が存在する:致死/雌不妊/雄不妊(いずれも劣性)、眼/翅の形態異常(半優性)、Lhrの致死救済効果を抑制する遺伝子。この中、劣性致死はCycEの対立遺伝子であることが判明した(母集団に存在した突然変異を偶然拾った可能性は捨て切れない)。

 その他、上述の致死とは独立の胚期致死に関して、表現型解析、サテライトDNAとの関連(それぞれ、T. L. Karr, C.-I. Wuとの共同研究)など、話題がいっぱい。幼虫期致死とあわせて(2)、いずれも細胞分裂機構が絡んでいるようで興味深い。

 (1) Davis et al. 1966,  (2) Orr et al. 1997.