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DN-カドヘリンによる軸索走行の制御

上村匡1、岩井陽一1、碓井理夫1、平野伸二2、Ruth Steward3、竹市雅俊1

(1: 京大・理・生物物理、2: 現、南カリフォルニア大、3: Rutgers Univ.)


神経回路構築における細胞間接着分子カドヘリンの役割を、遺伝学的手法を用いて直接的に検証することを試みた。ショウジョウバエの神経系で発現するカドヘリン(DN-カドヘリン)の細胞外領域の構造は、脊椎動物カドヘリンと比べ、サイズやアミノ酸配列のモチーフに関して異なる点がある。しかし細胞内ドメインの配列はよく保存されており、カテニンとの結合が予想できた。事実、免疫沈降法により、α-およびβ-カテニンと複合体を形成することを示した。また、培養細胞への遺伝子導入実験により、DN-カドヘリンがホモフィリックな細胞接着活性を有することも明らかにした。DN-カドヘリンは恐らくすべてのニューロンで発現されており、軸索に強く濃縮している。さらに DN-カドヘリンが、軸索に存在する主要なカドヘリンであることを支持するデータを得た。分離した6系統のDN-カドヘリンミュータントの中でも、機能をほぼ完全に喪失しているアリルでの軸索の走行パターンを追跡したところ、次のいずれかの表現型が検出できた。(1)軸索束の正中線方向への移動の阻害。(2)軸索束形成の失敗。(3)成長円錐の進行方向の誤り。(4)軸索伸長の停止。観察されたこれらの異常は、DN-カドヘリン cDNA の強制発現により回復した。従って、DN-カドヘリンを介した軸索間の認識は、個々の軸索束の適切な位置へのシフト、軸索の束形成、そして成長円錐の正しい進路決定に重要であることが明らかになった。現在、成虫まで生き延び著しい運動異常を示すアリルにおいて、その脳の構造を検討している。