P-25


ショウジョウバエの性行動に関わる脳内構造の解析

木戸麻実1,2、春日秀之1,3、粟野若枝4、伊藤啓4、石和貞男2、山元大輔1,4

(1: 三菱化学生命研、2: お茶大・理・生物、3: 東京工業大・工、4: 科技振・山元プロ)


 動物の脳は種々の感覚器からの情報を処理・統合し、体の各部へ指令信号を送る神経回路の集合体である。脳の複雑な情報処理のメカニズムを理解するためには、個体のそれぞれの行動を制御している脳内構造を解明することが、一つの重要なステップになる。ショウジョウバエの交尾行動とその制御機構はこのためのよいモデル系になる。通常オスはメスに対し積極的なアプローチを行うが、オスの脳内の様々な領域を特異的にメス化させ、このような行動が消失するような個体を作成できれば、メス化された部分がオス特異的性行動の制御に関わっている可能性が高い。

 我々はGAL4エンハンサートラップ系統のハエを用い、そのGAL4発現細胞をUAS-transformer により特異的にメス化させた。従来の研究では、tra 遺伝子を脳の一部で発現させてもオスの求愛行動はあまり低下せず、バイセクシャルになるものがあるという結果が得られている。我々は186系統をスクリーニングした結果、オスの求愛行動が低下する系統を6系統見いだした。中でもNP218系統は、tra の発現によってメスに対する交尾行動が極端に低下し、特に交尾行動の一段階である求愛歌発生は観察した25匹中1匹においてのみ認められた。しかし運動性は正常で、オスに対する交尾行動も野生型同様ほとんど行わないことが分かった。これらの系統では、脳の特異的な一部の細胞群でのみGAL4の発現が見られたので、現在そのうちのどの細胞での発現が重要なのか調べるため、より多くの系統の解析を行っている。