P-31


ショウジョウバエmusashi遺伝子の機能解析

岡部正隆1*、今井貴雄1、来栖光彦1**、中村 真2、岡野栄之1

(1: 阪大・医・神経機能解剖学、科学技術振興事業団 CREST、2: 基礎生物学研究所・形態形成部門)


 ショウジョウバエmusashi(msi)変異体は、剛毛の発生異常を示す常染色体劣性変異体として単離された。剛毛は体表一面に存在する機械刺激受容器であり外感覚器(External sensory organ)と呼ばれる。1つの外感覚器は4つの細胞(neuron, thecogen, tricogen, tormogen)から構成され、これら4つの細胞は1つの感覚母細胞(Sensory Organ Precursor)が2回の非対称性分裂を行うことにより産生される。msi変異体は、この2回の非対称性分裂による細胞の運命決定の過程に異常が生じ、正確に4種類の細胞を産生できず、毛穴から2本の毛が生えてくる。musashiという変異体名は二刀流宮本武蔵の2本の刀に因んだものである。

 msi遺伝子座には神経系特異的に発現するRNA結合蛋白質がコードされていることが明らかとなっているが、現在のところ外感覚器構成細胞の運命決定におけるこのRNA結合蛋白質の機能は明らかにされていない。我々は、Msi遺伝子産物の発現パターン、msi変異体の表現型の解析、およびRNA結合ドメインにアミノ酸置換を施した変異型Msi蛋白質によるmsi表現型のrescue実験を行い、Msi蛋白質は何らかの標的RNA分子に結合することにより細胞の運命決定を行っていることを明らかにした。現在、標的RNA分子の同定のための第一段階として、SELEX法による標的塩基配列の同定を行っている。最近の知見について報告したい。

  *現在の所属:遺伝学研究所 発生遺伝研究部門 **現在の所属:筑波大・バイオシステム研究科