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wingless類似発現するエンハンサートラップラインJ29の解析

佐藤 淳、小嶋徹也、道上達男、西郷 薫

(東大・理・生化)


 ショウジョウバエにおいて、Wntファミリーに属するタンパク質をコードするwingless(wg)遺伝子は、非常に重要な働きを果たしていることが知られている。本研究室で得られたエンハンサートラップラインJ29は、X染色体上1C領域にP因子が挿入しており、マーカー遺伝子であるlacZがwgと非常に良く似た発現パターンを示している。wgと発現領域を比較した結果、成虫原基においてJ29がwgより広い領域で発現していた。さらに、wg突然変異体では、幼虫期の成虫原基での発現及び胚期の発現の一部で、J29の発現はwgの発現の消失した部位で同様に消失した。wgの異所発現系では、wgが異所発現した部位でJ29も異所発現した。これらの結果から、J29はwgの下流に存在する遺伝子をトラップしたラインであると予想された。PCR rescue法を用いてP因子挿入点近傍のゲノム断片を回収し、回収断片を用いてのゲノムライブラリーのスクリーニング、及び、クロモソーム歩行を行った結果、P因子挿入点近傍約40kbのゲノム断片を得、転写ユニットを特定し、約2.5kbのcDNAを得た。このcDNAの全塩基配列決定の結果、591及び575アミノ酸をコードする遺伝子であり、相同性検索の結果から、Wntファミリーの受容体であると考えられるfrizzledファミリーと高い相同性を示すことが判明した。また、P因子の再転移を利用した突然変異体の作製を試みた結果、J29の変異体と思われる独立な変異体を2系統得ることができ、完全変異体(胚性致死)と部分変異体(幼虫期致死)であった。完全変異体を用いたmosaic解析の結果、wgと同様の表現型を得たため、J29がwgシグナル伝達系の因子であると推測できる。