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細胞が二倍体を維持する際のCdc2と転写因子との相互作用

林 茂生

(遺伝学研究所・総合研究大学院大学)


 細胞周期においてS期とM期が交互に起こることはゲノムのサイズを維持するために必須な条件である。ショウジョウバエの幼虫はG1-S-G2-Mのサイクルを繰り返す二倍体の成虫細胞とM期に入らずG-Sを繰り返して多倍体化する幼虫細胞とで構成されている。M期の進行に必須なCdc2カイネースもしくはそのコファクターCyclinAを欠損する変異体では二倍体細胞が多倍体化してしまう。この結果からCdc2/CyclinAが二倍体の維持に中心的な働きを果たしていることが予想された(Hayashi, S. 1996, Development 122:1051-1058)。今回はCdc2/CyclinAがその上流の制御因子としてEscargot(Esg)、下流の標的因子としてE2Fという二つの転写因子と相互作用することをしめす。E2FはG1-Sの進行を促進する転写因子である。

 G2期の二倍体細胞で起こっていると予想されるのは以下のとおりである。

 1. EsgがG2においてCyclinA蛋白の安定な蓄積を促進する。

 2. CyclinAはCdc2と結合し、さらにE2Fと結合する。

 3. Cdc2/CyclinAとの結合の結果、E2Fの転写活性は阻害される。同時にユビキチン系による分解作用からも免れるのでE2F蛋白は大量に蓄積する。

 4. E2Fが不活性な状態ではS期は開始しない。

 上記のモデルを根拠となる遺伝学、生化学のデータをもとに議論する。