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交尾後の生殖器連結解除に異常をもたらすキイロショウジョウバエlingererの解析

国吉久人、山元大輔

(科学技術振興事業団、山元行動進化プロジェクト)


 キイロショウジョウバエの配偶行動は、雄バエの雌バエに対する追跡行動に始まり、ラブソング、リッキング(雄が雌の交尾器をなめる行動)を経て交尾に至り、雌雄の分離によって終結する。lingerer変異体は、P因子挿入によって得られた突然変異体であり、この変異体の雄個体は、交尾に至る過程や交尾中には異常を示さないが、交尾終了後、連結した交尾器を速やかに解除することができない。そのため、雌雄がつながったままの状態が数秒から長いものでは10分ほど続く。この突然変異の原因遺伝子を同定するために、P因子挿入部近傍、約30kbにわたってゲノムウォーキングを行い、2つの転写単位AおよびBを見出した。ノーザンブロット解析では、転写産物A(4.6 kb)は変異体で発現量が減少していたのに対して、転写産物B(1.2 kb)は野生型と変異体との間に発現量の差は認められなかった。また、P因子は、Aの第一イントロンに挿入されていた。以上の結果から、Aがlingererの原因遺伝子である可能性が高いと考えられた。転写産物Aは、推定分子量150 kDの新規タンパク質をコードしており、ホモロジー検索の結果、ヒト、マウス由来の機能不明のタンパク質と部分的に高いホモロジーを示した。また、転写産物Aは、胚期から成虫期にかけて全ステージで発現しており、in situ hybridizationから、胚期では神経系と生殖腺の原基に、3令幼虫後期では脳、生殖腺、imaginal discに発現が見られた。現在、タンパク質レベルでの発現様式を解析するために、抗体を作成中である。また、レスキュー実験を行うために、A、Bの各cDNAについて、形質転換バエを作成中である。