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ショウジョウバエの初期胚における遺伝子発現のシミュレーション

濱橋秀互 1、北野宏明 2

(1: 慶應大・理工・計算機科学、2: Sony Computer Science Laboratory)


 生物の発生,形態形成などの生命現象は,極めて複雑なものである.多くの種類の細胞が独立に,しかし一方では相互に作用しながら,分裂・分化・変形をして形態を作り上げていく.このときにそれぞれの細胞の状態を完全に把握したり,予測したりすることは直観的な方法では非常に困難であるともいえる.そこで,それらを計算機上に持ち寄り,相互作用をシミュレーションすることによって,発生の過程を,時間を追って調べることが可能となる.この方法によって,それらの反応の再現や,実験方法の様々な変更などが容易に行えるようになる.

 本研究では,シミュレーションモデルとして,ショウジョウバエの初期胚を選択した.その中でも特に胚発生時における前後軸の体節形成に注目している.その体節形成に主として関与する母性効果遺伝子(bicoid,nanos),ギャップ遺伝子(hunchback,Kruppel,knirps,giant),ペアルール遺伝子(even-skipped) などの遺伝子群の相互作用を計算機上に再現し,それらの反応の様子を観察する.その結果として,実際のショウジョウバエの胚におけるそれらの発現パターンとよく一致したパターンをシミュレーションによって得ることができた.このように,実際の生物実験に即したシミュレーションを行うことが,これからの生物学の一つのパラダイムとなると考える.