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少数因子の相互作用を数理モデルにかける意義について

武田裕彦1、John Reinitz2

(1: 九大・理・生物、2: Brookdale Center for Molecular Bio., Mt. Sinai Medical School)


 現象に関わる因子の数は理解が進むに連れてどんどん増えて行く。

 少数因子間相互作用を定義した上で集団の世代を離散力学系として追ったとき,部分系内相互作用(connectivity)に現れる傾向(predisposition)を数理として論じたい。

 具体的事例として次の事象を扱う。ショウジョウバエDrosophila melanogasterの背腹軸形成は卵細胞外で形成された位置情報のシグナルが胚の腹側でだけ核内にまで伝達されることによって達成される。この位置情報伝達系をニューラルネットでモデル化し、S/N比ができるだけ大きくなるようにデザインしてみた結果と、実際の分子系で起こっている相互作用とを対比して考える。伝達系路は冗長性を持つか?...->A->B->C->...という因果の連鎖があったとき、淘汰がその経路の冗長性を高める(=雑音に対する抵抗性を強める)方向に働いたとすれば、Aという因子の効果が直接Bだけではなく、(機能的な)時間遅れによってCまでおよぶ、という変化が起こる状況が期待されます。これは情報伝達システムが雑音を伴うとき、転送する文字列に冗長性を与えて信頼性を保つのとは逆の発想で、因果の系列の上で、各因子の効果がある範囲にわたり、重なり合うことによって信頼性を高めることを意味します。

 更に異なるデザインの下では機能的に相同な遺伝子カセットが異なる傾向を示す例としてフィ−ドバック制御によって系がon demandに使われている生体防御系という事象では上の解が現れない事を示し、形原の細胞内局在をもたらすシステムに内在するtrade-offについても説明します。