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ショウジョウバエ後腸で発現する engrailed の働きについて

高島茂雄、塩月由美、村上柳太郎

(山口大 ・理・自然情報科学)


 ショウジョウバエの消化管は胚発生期を通じて組織の領域化が進み、遺伝子発現パターンの異なる多くの組織区画に細分化されることが示されている。しかし区画を成立させる遺伝子機構に関する知見は乏しい。我々は9つの組織区画をもつ後腸の発生過程を解明する目的で、後腸組織区画特異的に発現する遺伝子の同定と機能解析を行ってきた。胚発生期や幼虫期の後腸の特定の区画で発現する遺伝子には、複数の分節遺伝子が含まれており、これらが後腸の区画形成に重要な役割を担っていると予想される。特に、セグメントポラリティー遺伝子の一つであるengrailed(en)は背側区画特異的に発現しており、後腸の背腹区画の形成に関与していると考えられた。en遺伝子の欠失系統や強制発現系などを用いて後腸の背腹の区画形成の変化を調べた結果、幼虫期での en 遺伝子の強制発現は背側区画で特異的に発現しているマーカー遺伝子の腹側区画での異所発現を誘導することが示され、さらに電子顕微鏡による形態観察によって、腹側区画の上皮細胞が背側区画の細胞の形態的特徴を持つように変化することがわかった。したがってen 遺伝子は後腸の背側区画を構成する細胞の分化を引き起こす上位の遺伝子であると考えられる。組織区画の成立期に en が区画パターンの形成に関与する可能性についても検討する。