P-56


ロドプシン合成過程におけるアスパラギン結合型糖鎖の意義

片野坂公明1、河村悟1、徳永史生2、尾崎浩一1

(1: 阪大・院理・生物、2: 同・宇宙地球)


 細胞内で翻訳された蛋白質は、その後も多くの因子の作用を受けて完成する。我々は、視細胞の光受容タンパク質であるロドプシンの合成過程に必要な因子を同定し、その正常な構造と機能を作り上げるための仕組みについて調べている。他の多くの動物のロドプシンと異なり、ショウジョウバエの成熟ロドプシン(Rh1)からはアスパラギン結合型糖鎖が検出されない。しかし、ショウジョウバエにおいてもロドプシン合成の初期には糖鎖が結合しており、発色団11シス3ヒドロキシレチナールの供給に伴って糖鎖が切断され、成熟型となることが明らかとなった。このことから我々は、糖鎖がロドプシンの最終的な機能に必要なのではなく合成過程に必要なものではないかと考え、推定糖鎖付加アミノ酸に変異を導入したロドプシンをin vitroおよびin vivoで発現させ、糖鎖の付加位置とその蛋白質合成過程における役割について考察した。

 このロドプシンの糖鎖付加可能なアミノ酸はAsn20とAsn196の二カ所である。無細胞蛋白質合成系およびミクロゾーム膜を用いたin vitroでの糖鎖付加実験では糖鎖はその両方に付加したが、Asn20の方により付加しやすい傾向が見られた。ついで、これらのアミノ酸に変異を持つトランスジェニックフライを作成し、ロドプシン合成過程を調べた。その結果、Asn196を置換したハエでも野生型と同様の糖鎖付加と糖鎖切断が観察されたが、Asn20を置換した場合には合成途中での糖鎖付加が観察されず、糖鎖の付加位置はAsn20と決定された。加えて後者の場合、ロドプシンの合成過程が異常で、成熟ロドプシン量の低下が観察されたため、糖鎖はロドプシンの成熟に必須であると考えられた。