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ショウジョウバエの幼虫視神経系の異常変異体の探索

鈴木崇之、西郷薫

(東大・理・生化)


 複雑な神経系がどのように遺伝子によってプログラムされて形成されるのかという問題を解明したいと考え、まずより単純な神経系においてその形成が異常となる変異体を得ることを考えた。ショウジョウバエは幼虫期と成虫期では異なる視神経系を持っているが、より単純な神経回路という点から前者の幼虫の視神経細胞の軸索走行に着目し、この神経軸索路形成に関わる遺伝子を単離することを目的として、その突然変異体の探索を行った。

 具体的には、第二、第三染色体、いわゆる常染色体について、劣性致死のglass-lacZ系統の胚期における幼虫視神経細胞の軸索をX-gal活性染色により染色し、軸索走行が異常となる系統を探索した。第2染色体で100系統、第3染色体で200系統、また既存の染色体欠損変異株で約100系統の中から探索を行った結果、幼虫の視神経系の形成に関わる幾つかの興味深い変異体が得られ、それらの中には新しい神経系の形成機構に関わると思われる変異体も存在した。

 得られた変異体は、1)視細胞群と視葉細胞群の分離が異常となった系統(TB40,45, 85, N173系統)2)視細胞と視葉細胞は正常に移動するのにも関わらず視細胞の軸索が発生の途中の段階で消失してしまう系統(N60系統)3)視葉細胞群が本来脳の腹側に埋接するはずが背側に移動するために幼虫の視神経の軸索が胚の背側の表層へと伸びてしまった系統(TB149)等である。

 これらの中でも、3)のTB149系統は、視神経細胞の軸索を先導し脳の正しい位置へ導く役割を担っていると考えられる視葉細胞群の陥入方向が異常であることが分かった。