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ショウジョウバエH2AvD遺伝子の強制発現による成長阻害

大塚剛志 1、大迫隆史 1、相垣敏郎 1,2

(1: 都立大・理・生物、2: JST・PRESTO)


ヒストン2Aバリアント、H2Av遺伝子は原生動物から脊椎動物まで進化的によく保存されている。他のヒストン遺伝子とは異なり細胞周期に同調せず、またポリA鎖が付加されたmRNAを産生する。ショウジョウバエのH2AvD遺伝子は成虫雌および胚期で強く発現され、翻訳産物は発生段階を通して一定のレベルで存在することが知られている。またH2AvD遺伝子を欠失する個体は致死となるが、hypomorphicな変異は得られておらず、その具体的な機能に関する情報は極めて乏しい。私達は強制発現による表現型を手がかりにして遺伝子を探索するGene Searchシステムを用いて、幼虫の発育に関する変異体の探索を行ってきた。約700株のGS系統について、幼虫組織および成虫原基のほぼ全域にわたって発現されるGAL系統(29BD)との交配によるスクリーニングを行ったところ、H2AvD遺伝子にベクターの挿入が起こった2系統(GS3052およびGS3127)を得た。29BD/GS3052では三齢幼虫期に発育が停止し、約2週間後に致死となり、29BD/GS3127では胚発生初期に致死となった。前者ではH2AvD遺伝子の第二イントロン内にベクターが挿入されているのに対して、後者では転写開始点の近傍である。従って強制転写産物は後者が全長のH2AvDタンパクをコードしているのに対して、前者は翻訳開始コドンを含む第1エクソンを欠失した産物を生成する。両者の表現型の差異はこれらの構造的に異なる産物の生物学的機能の差に基づくものと推察される。これらの変異体の性状について報告し、H2AvDの機能について考察する。