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性ペプチドの作用経路に関わる突然変異体の探索と解析

江島亜樹1、中山慎二1、相垣敏郎1,2

(1: 都立大・理・生、2: 科技団さきがけ)


ショウジョウバエ雌の性行動は交尾により劇的に変化する。未交尾の雌が雄の求愛をうけると次第に活動性を低下させて雄のマウンティングを許すのに対して、既交尾の雌は産卵管を突き出して交尾を拒否し、活発な産卵行動を行うようになる。未交尾雌(処女雌)から既交尾雌への性行動パターンの変化は、精液中に含まれる性ペプチド(SP)によって誘発される。36残基からなるSPは雄生殖器付属腺で合成され、交尾の際に雌体内に注入される。雌体内の様々な部位においてSP遺伝子を異所発現させる実験から、交尾拒否行動と排卵/産卵の促進には共通の標的部位が存在することが示されている。しかしながら、ペプチドの具体的な作用機構についてはほとんど不明である。私達はSPの作用機構を明らかにするために、排卵制御機構に異常を示す突然変異体のスクリーニングを行った。P[GAL4]挿入系統のホモ接合体処女雌(ホモ致死についてはヘテロ接合体)の中で自然排卵を起こす雌の割合を指標とした。現在まで約350系統のスクリーニングを行い、未交尾でありながら排卵を起こし、且つ雄に対して交尾拒否行動を示すものが7系統得られた。これらの突然変異体においては、SPにより活性化されるべき排卵制御経路がSP非依存的に活性化されていることになる。脳の一部を破壊する実験や性モザイク個体の解析から、処女雌では排卵を抑制する積極的な機構の存在が示唆されている。本研究で得られた突然変異体は排卵抑制機構に異常をきたしているものと推察される。現在、プラスミドレスキュー法によりベクター挿入位置近傍のDNAを解析中である。