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ショウジョウバエの肢における近遠軸 (P-D axis) の形成

後藤聡1、久保田一政1,2、林茂生1

(1: 遺伝研・無脊椎、2: 東京医歯大・歯・発生)


ショウジョウバエの肢原基は、胚期で誘導され、同時に近遠軸も形成される。我々は、この近遠軸が形成されるときに、Decapentaplegic (Dpp) のシグナル強度が関係していることを明らかにした。つまり、強いシグナル強度では近位 (Proximal) 側が、弱いシグナル強度では遠位 (Distal) 側が誘導される。我々は肢原基の近遠軸が形成・維持される機構を解明するために、Proximal 側で発現している escargot (esg) とDistal 側で発現している Distalless (Dll) の機能を解析している。Dllの突然変異体の成虫では肢のdistal 側が形成されないし (Cohen et al. 1989)、Dllをproximal 側で異所的に発現させると新たにdistal側の構造を持った二次肢が形成される。また、Esgを異所的にdistal 側で発現させると、肢のdistal 側に形成異常が生じる。これらのことから、肢のdistal 側の構造はDllによって形成され、Esg によって抑制されることが示された。さらに、我々はDllとEsgの発現を調べたところ、Esgの異所的発現によりDllの発現が、Dllの異所的発現によりEsgの発現が抑制されることを見い出した。EsgとDllが互いに抑制しあうことにより、肢原基の近位部と遠位部は安定に維持されていると考えられる。