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ArgosによるRasシグナルの抑制と細胞死誘導に関わる分子の遺伝学的検索

田口明子1、澤本和延1, 2、金明鑛1, 2、山田知春1、広田ゆき1、岡野栄之1, 2

(1: 阪大・医・神経機能解剖学研究部、2: 科学技術振興事業団, CREST)


 ショウジョウバエ複眼の発生における光受容細胞の分化は、Ras/MAPKカスケードを介したシグナル伝達によって誘導されることが知られている。ArgosはEGFモチーフを有する分泌性の蛋白質で、Ras/MAPKシグナルを抑制して細胞分化を制御する。Argosの機能欠損型変異体においては眼原基における細胞死の抑制が起こり、一方過剰発現では細胞死を誘導する。今回我々は、この細胞死のメカニズムを詳細に解析した。Argosの過剰発現によって起こる細胞死は、アポトーシス阻害因子であるp35, diap-1, diap-2 の共発現あるいは、アポトーシス誘導に必要な reaper, hid, grimの遺伝子量を半減させることによって抑制された。また逆に、Hidの過剰発現によって引き起こされる細胞死はRas/MAPKシグナルの活性化によって抑制された。従ってArgosによる細胞死はカスパーゼを介したものであり、Ras/MAPKシグナルはアポトーシスに対して抑制的に機能することが示唆された。

 ArgosによるRas/MAPKシグナルの抑制とその結果引き起こされるアポトーシス誘導の分子機構は現在のところ不明であり、未知の遺伝子の関与が予想される。これら未知の遺伝子群の同定を目的として、我々はArgosの過剰発現(GMR-argos)による粗複眼(rough eye) の表現型を増強もしくは抑制するような変異体の遺伝学的検索を行っている。現在までに約80の第二染色体の欠失変異体を検索し、有意な効果を示す複数の系統を同定した。さらにEMSを用いた変異誘発も進行中であり、その結果についても報告する予定である。