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『動物界で最も単純なヒドラの散在神経系を考える』

小泉 修

(福岡女子大学・人間環境学部)


 私の研究対象のヒドラは、イソギンチャク・クラゲ・サンゴの仲間(腔腸動物)で、淡水にすむ小動物である。ヒドラは、腔腸動物の中でも最も単純な神経系を持つ。そのため、ヒドラの神経系は現在生きている動物の中で最も単純な神経系を持つことになる。この神経系を散在神経系と呼んでいる。

 神経系の出現と発達の歴史を考えるとき、最も原形に近いと思われるこの神経系の性質は、示唆に富んでいる。

 この神経系は、良く発達した中枢を持たず、全身に網目状神経ネットをはっている。人の神経系をスーパーコンピュター・システムに例えると、ヒドラの神経系はその反対の極に位置するパソコンをつないだローカルネットワーク・システムである。

 ヒドラの神経細胞は、感覚神経細胞、運動神経細胞、介在神経細胞、神経分泌細胞の全ての働きをになうマルチタレントである。ちなみに、人の神経系の場合は、ひとつひとつの神経細胞は、例えば、特定の筋肉のみを制御する神経細胞のように、特殊化している。

 これらの事情は、神経系が進化の過程で集中化と分業化の方向に発達してきたことを如述に示している。

 このヒドラの神経系の構造・機能・回路網形成を調べてみると、今まで言われていたことと色々違うことも明らかになった。

 今回の講演では、この神経系の構造・機能・形成をお話しし、もっと複雑な集中神経系との比較によって、神経系におけるハードとソフトの関係、神経系の起源と進化を考えるよすがにしたい。