日本ショウジョウバエ研究会 第3回研究集会プログラム


12:55           開会

13:00〜14:00    冒頭講演                              司会  上村 匡
        「遺伝子・脳・行動──1963年に考えたことはどこまで実現したか?」
        堀田凱樹(東大・理・物理)

14:00〜14:20            休憩

14:20〜14:45                                          司会  林 茂生
O-1-1 ショウジョウバエの生殖細胞形成メカニズム
        小林悟、飯田貴子、樫川真樹、向正則、網蔵令子、浅岡美穂
        筑波大・生物科学系・遺伝子実験センター、TARAセンター

14:45〜15:10
O-1-2 ショウジョウバエのMAPキナーゼカスケード
        西田育巧
        名大・院理・生命理学

15:10〜15:35
O-1-3 Notchシグナリングの分子機構
        松野健治
        科学技術振興事業団 (CREST/JST) 、阪大・医・神経機能解剖学

15:35〜16:00                                          司会  木村賢一
O-1-4 ショウジョウバエ成虫肢における遠近軸方向の形態形成について
        小嶋徹也、西郷薫
        東大・理・生化

16:00〜16:25
O-1-5 TGF-βシグナルと成虫末梢神経系のプレパターン形成機構について
        中村 真、友安慶典、上野直人
        基礎生物学研究所・形態形成部門

16:25〜17:00            休憩

17:00〜17:25                                          司会  仁田坂 英二
O-1-6 剛毛形成を指標とした遺伝子機能進化の解析
        高野敏行
        遺伝研・集団遺伝

17:25〜17:50
O-1-7 性的隔離(行動による隔離)から進化を考える
        小熊 譲
        筑波大・生物科学系

17:50〜18:15                                          司会  松浦悦子
O-1-8 ホスト転換の遺伝学:単食性ショウジョウバエDrosophila sechelliaをモデル
       として
        菅谷  茂、布山 喜章
        都立大・理・生物
18:15〜18:40
O-1-9 昆虫の体のまもり方 −ショウジョウバエにおける生体防御系遺伝子群の進化−
        伊達敦子1、颯田葉子1、高畑尚之1、石和貞男2
        1: 総合研究大学院大学・先導科学研究科・生命体科学専攻、2: お茶大・理・生物


21日(木)ポスター発表

        9:00〜9:30              ポスター貼り付け
        9:30〜10:30             ビデオセッション
        10:30〜12:30            ポスターセッション1 偶数
        14:00〜14:30            総会、事務連絡 次期集会について
        14:30〜16:30            ポスターセッション2 奇数
        17:00〜17:30            ポスター撤去

P-1 ショウジョウバエ中枢神経系および体液細胞由来の株細胞を用いた、細胞−基質間
     相互作用に依存する細胞内情報伝達機構の解析
        高木康光1、程久美子2、徳重直子1、広橋説雄1
        1: 科学技術振興事業団・広橋細胞形象プロジェクト、2: 日本医大・薬理

P-2 細胞膜プロテオグリカンDallyのDppシグナル系における機能
        中藤博志1、杉浦資子1、泉 進1、Shari Jackson2、Scott Selleck2
        1: 都立大・理・生物、2: アリゾナ大・分子細胞生物学

P-3 Drosophilaプレセニリンホモログのクローニングならびにその発現解析
        前田 美慈1,2、高橋 邦明1,3、高島 明彦1、石和 貞男2、山元 大輔1
        1: 三菱化学生命科学研究所、2: お茶大・理・生物、3: 九大・理・生物

P-4 幼虫神経系形成過程および付属肢形成過程におけるpoxn 遺伝子の新たな機能
        木村賢一1、粟崎健2
        1: 北教大・岩見沢・生物、2: 国立精神神経センター・遺伝子工学

P-5 キイロショウジョウバエの性指向性を制御するfruitless gene は体細胞の性を
     決定する遺伝子の一つでありBTB domain、Zinc finger motifを持つ転写因子を
     コードしている
        伊藤弘樹、藤谷和子、薄井一恵、Eric Nilsson、粟野若枝、山元大輔
        科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

P-6 Bisexual courtship activity induced by ectopic expression of transformer
     and mini-white genes is suppressed by downstream actions of fruitless-satori.
        Eric Nilsson, Zoltan Asztalos, Tamas Lukacsovich, Wakae Awano and
        Daisuke Yamamoto
        Yamamoto Behavior Genes Project, ERATO, Mitsubishi-kasei Institute
        for Life Sciences

P-7 ローレンス筋の雄特異的な発生におけるtra及びfru遺伝子の役割
        薄井一恵、伊藤弘樹、山元大輔
        科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

P-8 突然変異アクチンの精製と in vitro motility assay
        最上要1、Azam Razzaq2、Samantha Clark2、John C. Sparrow2
        1: 東大大学院・理学系研究科、2: Dept. of Biology, Univ. of York, UK

P-9 性行動突然変異体platonicの解析
        徐 金華、薄井一恵、竹下 綾、山元 大輔
        科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

P-10 キイロショウジョウバエの全身麻酔に関係する遺伝子群の解析
        田中良晴、石井秀紀、市成寿、稲岡美奈子、欅谷大、百々克行、阪上起世、
        発田郁子、蒲生寿美子
        大阪府大・総合・自然環境

P-11 ショウジョウバエcanoe遺伝子の胚発生過程における機能解析
        高橋邦明1,2、松尾隆嗣1,3、勝部孝典1、上田龍1、山元大輔1,4
        1: 三菱化学生命科学研究所、2: 九大・理・生物、3: 東大・農
        4: 科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

P-12 キイロショウジョウバエcanoeおよびRas1遺伝子によるcone cellの発生の制御
        松尾隆嗣1,2、高橋邦明1,.3、近藤俊三1、鈴木えみ子4、山元大輔1,5
        1: 三菱生命研、2: 東大・農、3: 九大・理・生物、4: 東大・医科研・微細形態学
        5: 科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

P-13 キイロショウジョウバエ処女雌の性的受容性を制御するchaste 遺伝子の解析
        従二直人1、竹下綾1、山元大輔1,2
        1: 科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト、2: 三菱化学生命研

P-14 ショウジョウバエにおける雑種の致死性に関するゲノム解析
        吉井基祐、柳生麻実、山本雅敏
        京工繊大・繊維・応用生物

P-15 Drosophila auraria complex における雌による選択
        都丸雅敏、小熊譲
        筑波大・生物科学系

P-16 オナジショウジョウバエの性的隔離遺伝子
        上野山 登久
        神戸学院女子短大

P-17 雌の識別行動の遺伝的解析
        戸井基道、都丸雅敏、小熊譲
        筑波大・生物科学

P-18 性的隔離の弱まったP因子挿入系統288からのP因子切り出しの試み
        山田博万、久保朋子、都丸雅敏、小熊譲
        筑波大・生物科学

P-19 雑種致死、キーワードは細胞周期? パンドラの箱は開けられた
        澤村京一
        シカゴ大・生態/進化

P-20 7回膜貫通型カドヘリン分子 CAD47B の軸索束形成における役割の解析 
        碓井理夫1、平野伸二2、竹市雅俊1、上村匡1
        1: 京大・理・生物物理、2: 南カリフォルニア大・ドヒニ眼研

P-21 DN-カドヘリンによる軸索走行の制御
        上村匡1、岩井陽一1、碓井理夫1、平野伸二2、Ruth Steward3、竹市雅俊1
        1: 京大・理・生物物理、2: 現、南カリフォルニア大、3: Rutgers Univ.

P-22 Use of E-cadherin-GFP fusion protein to study cell adhesion and
      migration during Drosophila oogenesis.
        V.Verkhusha1, S.Tsukita1,2, H. Oda1
        1: Tsukita Cell Axis Project, ERATO, JST, 2: Fac. of Medicine,
        Kyoto Univ.

P-23  キイロショウジョウバエにおける乾燥耐性遺伝子の探索
        栗山美登里1,  都丸雅敏2,  小熊譲2
        1: 筑波大・バイオシステム、2: 筑波大・生物科学

P-24 翅毛スポットテストによる磁場の変異原性の検出
        小穴孝夫、岡田美紀江、池畑政輝
        (財)鉄道総研・環境生物工学

P-25 ショウジョウバエの性行動に関わる脳内構造の解析
        木戸麻実1.2、春日秀之1,3、粟野若枝4、伊藤啓4、石和貞男2、山元大輔1,.4
        1: 三菱化学生命研、2: お茶大・理・生物、3: 東京工業大・工、4: 科技振・
        山元プロジェクト

P-26 翅縁形成に関する遺伝子hiiragiのクローニング
        小倉啓司1、村田武英1、岡野栄之2、横山和尚1
        1: 理研・筑波セ、2: 阪大・医・神経機能解剖学、科技団(CREST)

P-27 翅縁形成におけるhiiragiの役割
        村田 武英1、小倉 啓司1、岡野 栄之2、横山 和尚1
        1: 理研筑波センター、2: 阪大・医・神経機能解剖学、科技団(CREST)

P-28 神経上皮背腹軸方向の分化とDER
        八木克将1,2、鈴木利治2、林茂生3
        1: 生研機構、2: 東大・薬・神経生物物理、3: 遺伝研・無脊椎

P-29 神経系形成時におけるグリア細胞の機能とグリア細胞の分化
        滝沢 一永、堀田 凱樹
        東大大学院・理学系研究科・物理学専攻

P-30 glial cells missing の作用機構の解析
        秋山(小田)康子1、 細谷俊彦2、 堀田凱樹1,2
        1: 東大・理・物理、2: 東大・遺伝子

P-31 ショウジョウバエmusashi遺伝子の機能解析
        岡部正隆1*、今井貴雄1、来栖光彦1**、中村 真2、岡野栄之1
        1: 阪大・医・神経機能解剖学、科学技術振興事業団 (CREST)
        2: 基礎生物学研究所・形態形成部門

P-32 グリア細胞の発生における repo 遺伝子産物の役割
        湯浅喜博1、吉川真悟2、岡部正隆1、岡野栄之1
        1: 阪大・医・神経機能解剖学、科学技術振興事業団 (CREST)
        2: 筑波大・基礎医・分子神経生物学

P-33 wingless類似発現するエンハンサートラップラインJ29の解析
        佐藤 淳、小嶋徹也、道上達男、西郷 薫
        東大・理・生化

P-34 細胞が二倍体を維持する際のCdc2と転写因子との相互作用
        林 茂生
        遺伝学研究所・総合研究大学院大学

P-35 microsomal GST ショウジョウバエホモログの発見とクローニング
        鳥羽岳太1、相垣敏郎1,2
        1: 都立大院・理・生物、2: 科技団・さきがけ

P-36 強制発現ベクターを用いたGene Search システムの開発
        相垣敏郎1,2、 鳥羽岳太1
        1: 都立大院・理・生物、2: 科技団・さきがけ

P-37 異所発現システムを用いた運動神経回路形成ミュータントの探索
        梅宮猛1,2、竹市雅俊1,2、相垣敏郎3,4、能瀬聡直1
        1: 基生研・行動制御、2: 京大・理・生物物理、3: 都立大・理・生物、
        4: 科技団・さきがけ

P-38 Dual Tagging Gene Trap
        粟野若枝、Tamas Lukacsovich、Zoltan Asztalos、馬場浩太郎、山元大輔
        科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

P-39 キイロショウジョウバエの交尾持続時間に異常を示す fickle 突然変異体の解析
        馬場 浩太郎1,2、竹下 綾3、従二 直人3、馬嶋 景3、山元 大輔1,3 
        1: 三菱化学生命研、2: 東大・理・物理、3: 科学技術振興事業団・山元行動
        進化プロジェクト

P-40 交尾後の生殖器連結解除に異常をもたらすキイロショウジョウバエのlingerer
      の解析
        国吉久人、山元大輔
        科学技術振興事業団、山元行動進化プロジェクト

P-41 y, scと相互作用する遺伝子diversの構造と機能
        仁田坂英二
        九大・理・生物

P-42 bHLH-PAS 蛋白質ヘテロダイマー、trachealess/dARNTとsingle-minded/dARNTに
      よるbreathless の転写制御
        大城朝一、西郷薫
        東大・理・生化

P-43 ショウジョウバエの初期胚における遺伝子発現のシミュレーション
        濱橋秀互 1,北野宏明 2
        1: 慶應大・理工・計算機科学,2: Sony Computer Science Laboratory

P-44 少数因子の相互作用を数理モデルにかける意義について
        武田裕彦1,John Reinitz2
        1: 九大・理・生物,2: Brookdale Center for Molecular Bio., Mt. Sinai
        Med. School

P-45 ショウジョウバエのフェノールオキシダーゼ
                -in situ ハイブリダイゼーション法による遺伝子座の推定-
        木村宏美1、山田恭子1、松田宗男2、浅田伸彦1
        1: 岡山理科大・理・生物、2: 杏林大・医・生物

P-46 形態形成運動における細胞間接着のダイナミクス
        小田広樹1、竹市雅俊2、月田承一郎1,3
        1: 月田細胞軸プロジェクト、ERATO、JST、2: 京都大・理・生物物理
        3: 京都大・医・分子細胞情報

P-47 Dppシグナル伝達系におけるp38 MAP kinaseの機能
        7安達卓1、中村真2、入江賢児3、友安慶典2,4、佐野頼方1、森英治3
        上野直人2、松本邦弘3、西田育巧1
        1: 名大・理・生物、2: 基生研・形態形成、3: 名大・理・分子生物、
        4: 北大・薬・生体機能

P-48 Dppシグナルを負に制御するDaughters against dpp
        常泉和秀、鴨志田有子、多羽田哲也
        東大・分生研

P-49 Dpp, Wg の標的遺伝子 dve による midgut の cell-type specification
        中越 英樹1,2、鍋島 陽一1、松崎 文雄1
        1: 国立精神・神経センター・遺伝子工学   2: さきがけ研究 21「知と構成」

P-50 Na チャネル異常突然変異 para の神経筋接合部電位記録による解析
        小林紀雄1,2、田中良晴2、蒲生寿美子2、小松 明○1
        1: 東女医大・1生理、2: 大阪府大・総合・自然環境

P-51 ショウジョウバエ超らせん化因子の唾腺染色体上の分布
        相田紀子1、広瀬 進1,2
        1: 総合研究大学院大・生命科学、2: 遺伝研・形質遺伝

P-52 ショウジョウバエにおけるDNA helicase相同遺伝子
        鄭 相民1、川崎 勝己1、榎本 武美2、柴田 武彦1
        1: 理化学研究所・遺伝生化学研究室、2: 東北大・薬

P-53 ショウジョウバエ後腸で発現する engrailed の働きについて
        高島茂雄、塩月由美、村上柳太郎
        山口大・理・自然情報科学

P-54 Axonal Pathfinding におけるfasciclin Iの機能解析
        平本 正輝、堀田 凱樹
        東大・理・物理

P-55 ショウジョウバエDRab1変異体での、ロドプシン輸送阻害と視細胞の形態変異
        佐藤明子、徳永史生、河村悟、尾崎浩一
        阪大・院理

P-56 ロドプシン合成過程におけるアスパラギン結合型糖鎖の意義
        片野坂公明1、河村悟1、徳永史生2、尾崎浩一1
        1: 阪大・院理・生物、2: 同・宇宙地球

P-57 ユークロマチン89A領域に存在するサテライトDNAとその近傍の遺伝子
        松林宏、山本雅敏
        京都工繊大・応用生物

P-58 ショウジョウバエの幼虫視神経系の異常変異体の探索
        鈴木崇之、西郷薫
        東大・理・生化

P-59 ショウジョウバエ気管融合の解析
        亦勝ー田中実穂、林茂生
        総合研究大学院大学、遺伝学研究所

P-60 ショウジョウバエFTZ-F1遺伝子の転写因子の同定
        増田祥子1、影山裕二2、広瀬進1,2、上田均1,2
        1: 総研大・生命科学、2: 遺伝研・形質遺伝

P-61 転写因子FTZ-F1の機能
        上田 均、山田 正明、広瀬 進
        遺伝研・形質遺伝

P-62 ショウジョウバエ CaM キナーゼ II 遺伝子の転写制御解析
        高松芳樹1、中越英樹2, 3、西田育巧4、山内 卓5、大迫俊二1
        1: 東京都神経研・細胞生物、2: 国立精神神経センター・遺伝子工学、
        3: さきがけ研究21、4: 名大・理・生物、5:徳島大・薬・生化

P-63 ショウジョウバエH2AvD遺伝子の強制発現による成長阻害
        大塚剛志 1、大迫隆史 1、相垣敏郎 1,2
        1: 都立大・理・生物、2: JST・PRESTO

P-64 性ペプチドの作用経路に関わる突然変異体の探索と解析
        江島亜樹1、中山慎二1、相垣敏郎1,2
        1: 都立大・理・生、2: 科技団さきがけ

P-65 GFPで標識されたショウジョウバエ性ペプチドの生体内挙動
        Peyre Jean-Baptiste1、相垣敏郎1,2
        1: 都立大・理・生物、2: JST・PRESTO

P-66 ショウジョウバエ感覚器官形成におけるHairy WRPWモティーフとGroucho転写
      抑制ドメインの機能解析
        大迫俊二、高松芳樹
        東京都神経研・細胞生物

P-67 トランスポゾンninjaの種特異性とコピー数の系統特異性
        山本雅敏、金森保志、林秀樹
        京工繊大・繊維・応用生物

P-68 Genomic components of P elements in the Australian populations of
      Drosophila melanogaster
        Masanobu Itoh{1,2}, Ian A. Boussy{1}, and Ronny C. Woodruff{3}
        1: Dept. of Biology, Loyola University of Chicago, 2: Dept. of
        Applied Biology, Kyoto Institute of Technology, 3: Dept. of Biological
        Sciences, Bowling Green State University 

P-69 相同的組換え関連蛋白のショウジョウバエでの挙動
        川崎 勝己1、鄭 相民1、赤星 映子2、柴田 武彦1
        1: 理化学研究所・遺伝生化学研究室、2: 阪大・細胞生体工学センター

P-70 C. elegansにおける非対称分裂に異常のある突然変異体の同定と解析
        澤 斉1、幸池 浩子1、Bob Horvitz2、岡野 栄之1
        1: 阪大・医・神経機能解剖学 科学技術振興事業団 CREST、 2: MIT、Biology

P-71 肢及び触角原基の前部区画で発現する遺伝子の単離と機能解析
        菊池美紀子1、小嶋徹也1、道上達男1、川北護一2、村上柳太郎2、西郷薫1
        1: 東大・理・生化、2: 山口大・理・自然情報

P-72 ショウジョウバエの肢における近遠軸 (P-D axis) の形成
        後藤聡1、久保田一政1,2、林茂生1
        1: 遺伝研・無脊椎、2: 東京医歯大・歯・発生

P-73 中枢神経系の一部のニューロンで発現するショウジョウバエの新規ホメオボックス
      遺伝子
        田渕克彦1、吉川真悟2、岡部正隆1、岡野栄之1
        1: 阪大・医・神経機能解剖学、科技団(CREST)2: 筑波大・基礎医・
        分子神経生物学

P-74 シナプス伝達に異常を持つ突然変異体MY7919の原因遺伝子の発現
        高須(石川)悦子1、吉原基二郎2、城所良明2、堀田凱樹1
        1: 東大・理・物理、2: 群大・医・行動生理

P-75 シナプスに局在するStill life蛋白質の機能解析
        曽根雅紀1、星野幹雄1、鈴木えみ子2、黒田真也3、貝淵弘三3、中越英樹1、
        西郷薫4 、鍋島陽一1、浜千尋1
        1: 国立精神神経センター・遺伝子工学、2: 東大・医科研、3: 奈良先端大、
        4: 東大・理・生化

P-76 A subset of gap junctions between photoreceptor terminals is eliminated
      in the shaking-B2 mutant of Drosophila.
        下東 美樹1、I. A. Meinertzhagen2
        1: 福岡大・理・生物、2: Life Sciences Centre, Dalhousie University, 
        Halifax, NS, Canada

P-77 筋−神経の特異的なシナプス形成に関与するLRRタンパク質CAPRICIOUSの解析
        宍戸恵美子1、竹市雅俊1,2、能瀬聡直1
        1: 基礎生物学研究所・行動制御 2: 京大・理・生物物理

P-78 強制発現ベクターを用いた性特異的致死遺伝子のスクリーニング
        大迫隆史 1、R. Nothiger 2、相垣敏郎 1,3
        1: 都立大・理・生物、2:  zool. inst., Univ. Zurich、3: 科技団・さきがけ

P-79 GAL4エンハンサートラップ法を用いた、キイロショウジョウバエの幼虫中枢神経系
      での遺伝子発現に雌雄差のある系統の探索
        上山盛夫1、伊藤啓2、相垣敏郎1、布山喜章1、山元大輔2
        1: 都立大・理・生物、 2: 科技振・ERATO・山元行動進化プロジェクト

P-80 ArgosによるRasシグナルの抑制と細胞死誘導に関わる分子の遺伝学的検索
        田口明子1、澤本和延1, 2、金明鑛1, 2、山田知春1、広田ゆき1、 岡野栄之1, 2
        1: 阪大・医・神経機能解剖学研究部、2: 科学技術振興事業団, CREST

P-81 キイロショウジョウバエの単為生殖系統gyn-F9の解析(II)
        村松 圭吾、布山 喜章
        都立大・理・生物

P-82 雄減数分裂遺伝子mei-1223を用いた染色体対合機構に関する研究
        平井和之、山本雅敏
        京都工繊大・繊維・応用生物

P-83 ショウジョウバエ新規細胞周期因子Gp99に類似した酵母遺伝子群の解析
        三井真司、杉山伸、西田育巧
        名大・理・生命理学

P-84 ショウジョウバエ及び出芽酵母で保存された新規細胞周期遺伝子の解析
        杉山伸、三井真司、西田育巧
        名大・理・生命理学

P-85 翅脈のパターンに異常を生じる突然変異plexusの解析
        亦勝和1、2、田所竜介2,3、蒲生寿美子1、林茂生2
        1: 大阪府立大・総科、2: 遺伝研、3: 北里大・理

P-86 ショウジョウバエ初期胚に発現する新規核内セリン・スレオニンキナーゼDmnk
      の解析
        大石勲1、杉山伸2、山村博平1、西田育巧2、南康博1
        1: 神戸大・医・一生化、2: 名大・理・生物

P-87 HNF-33/fork head domain を持つ遺伝子HP126の解析
        杉村勇、安達卓、西田育巧
        名大・理・生物

P-88 嗅覚突然変異geko (gk)の発現とphenotype の関係
        白岩 敬1、仁田坂英二1, 2、山崎常行1, 2
        1: 九大・医・分子生命、2: 九大・理・生物

P-89 ショウジョウバエの味覚受容細胞特異的遺伝子のスクリーニングと同定
        広実 朋子、谷村 禎一
        九大・理・生物


22日(木)講演

9:00〜9:25                                            司会  辻村秀信
O-2-1 神経幹細胞の非対称分裂と極性
        松崎文雄
        国立精神神経センター・遺伝子工学研究部

9:25〜9:50
O-2-2 複眼光受容ニューロンの運命決定における核内過程
        広海  健 1,2、Steve R. West 2
        1: 遺伝研・発生遺伝、2: Dept. Mol. Biol, Princeton University

9:50〜10:15
O-2-3  神経ネットワーク形成の分子機構−神経筋特異結合をモデル系として
        能瀬聡直
        基礎生物学研究所・行動制御

10:15〜10:30    休憩

10:30〜10:55                                          司会  岡野栄之
O-2-4 シナプス形成の遺伝解析
        吉原基二郎
        群馬大・医・行動生理

10:55〜11:20
O-2-5 光情報変換系蛋白質の細胞内局在と機能発現
        鈴木えみ子
        東大・医科研・微細形態学

11:20〜11:45
O-2-6 ショウジョウバエ脳の解析 −突然変異を使わずに何ができるか、何をするべきか−
        伊藤 啓1、鈴木 和美2,3、粟野 若枝1、山元 大輔1,2 
        1: 科技振・山元行動進化プロジェクト、2: 三菱化学生命研、3: 東京農工大

11:45   閉会



一 般 公 開 講 演 会「行動から遺伝子へ」              司会  小早川義尚

  13:00-13:40                布山喜章(東京都立大学・理学部・生物)
                『ショウジョウバエ入門』
 
  13:40-14:20                山元大輔(三菱化学生命科学研究所・科学技術振興事業団) 
                『ショウジョウバエの性行動を決める遺伝子』


  14:20-14:30      休憩

  14:30-15:10                小泉 修(福岡女子大学・人間環境学部)
                『動物界で最も単純なヒドラの散在神経系を考える』

  15:10-15:50                森 郁恵(九州大学・理学部・生物)
                『エレガントな線虫の行動と遺伝』


                                日本ショウジョウバエ研究会、日本動物学会九州支部共催






日本ショウジョウバエ研究会 第3回研究集会 要旨


講演

O-1-1 ショウジョウバエの生殖細胞形成メカニズム
	小林悟、飯田貴子、樫川真樹、向正則、網蔵令子、浅岡美穂
	筑波大・生物科学系・遺伝子実験センター、TARAセンター

 ショウジョウバエにおける生殖細胞の形成過程は、別々の因子により制御される二つの過程に大き
く分けることが出来る。第一の過程は、極細胞が形成される過程であり、第二の過程は、形成された
極細胞が生殖細胞に分化する過程である。これら二つの過程を制御する母性因子は、胚の後極の極細
胞質中に局在することが明らかになっている。私達は、極細胞の形成過程にmitochondrial large 
ribosomal RNA (mtlrRNA)が、極細胞の分化過程にはNanosタンパク質が必須であることを明らかにし
た。
 mtlrRNAは、極細胞形成に先立ちミトコンドリアから、極細胞質中にのみ観察される極顆粒へ移送
され極細胞形成に関わる。このmtlrRNAをリボザイムを用いて切断すると極細胞形成が阻害される。
このRNAの機能に関して考察する。
 さらに、私達は、極細胞質に局在し極細胞中に取り込まれるNanosタンパク質が極細胞の分化過程
に関わっていることを明らかにした。極細胞中において、Nanosタンパク質は、以下に示す3つの機
能を果たしている。まず、Nanosタンパク質は、極細胞中で活性化するエンハンサーの活性化開始時
期を決定している。2番目に、Nanosタンパク質は、Cyclin Bタンパク質の合成開始時期をも決定して
いることが明らかとなった。最後に、Nanosタンパク質は、全ての体細胞で活性化される遺伝子(FtzF1
遺伝子など)の発現を極細胞中で抑制することが明らかとなった。おそらくNanosタンパク質は、翻
訳レベルでの制御により、これらの機能を果たすものと考えられる。この制御機構の詳細とその機構
の意義について考察する。


O-1-2 ショウジョウバエのMAPキナーゼカスケード
	西田育巧
	名大・院理・生命理学

 MAPキナーゼ (mitogen-activated protein kinase、MAPK) は、MAPKKK→MAPKK→MAPKというリ
ン酸化のカスケード(MAPKカスケード)によって活性化される。このカスケードは進化において強
く保存され、細胞外シグナルやストレスによるシグナルの伝達に重要な役割を果たしている。我々は
ショウジョウバエD-raf (MAPKKK) の優性抑圧変異の検索から、その下流にDsor1 (MAPKK), rolled (rl, 
MAPK) を同定し、また、それらの表現型や遺伝的相互作用の解析から、Sev, Tor, DERなど複数の受
容体チロシンキナーゼからのシグナル伝達の他、増殖制御にも働くことを示してきた。MAPKカスケ
ードはカセットとして多様なシグナル伝達経路に共通に機能すると考えられるが、シグナルの合流・
分岐の仕方が各経路で異なり、これが特異性に寄与していると考えられる。例えば、増殖制御経路で
は、null表現型はD-rafよりもDsor1の方が強く、Dsor1はD-raf以外からのシグナルも伝達すると予
想される。一方、Tor経路ではD-rafとDsor1の表現型は同じで、シグナルの合流・分岐はないと考え
られる。基本カスケードであるMAPKカスケードに特異性を付与する新規因子の同定のため、表現型
が優性Dsor1変異により抑圧または増強されるP因子挿入変異の検索を行い、各々表現型の異なる幾
つかの系統を得た。その一つで被抑圧グループのlaceの穏和な表現型は半致死で複眼・翅・剛毛など
の形態異常を伴う。これがスフィンゴ脂質生合成の律速酵素であるserine palmitoyl-transferaseをコー
ドすることから、セラミドを介したシグナル伝達経路との相互作用が予想される。


O-1-3 Notchシグナリングの分子機構
	松野健治
	科学技術振興事業団 (CREST/JST) 、阪大・医・神経機能解剖学

 Notchレセプターを介する情報伝達系(Notch情報伝達系)は、細胞間の接触に依存した、細胞間相
互作用による細胞運命の決定に重要な働きをしている。遺伝学的、生化学的解析から、Notch情報伝
達系を構成する因子群が同定されているが、他の情報伝達系との相似性が見られないことから、Notch
情報伝達系は新しいグループの情報伝達系であると考えらている。Notch情報伝達系の構成因子は、
無脊椎動物から哺乳類まで保存されており、ヒトにおける遺伝子病や癌との関係が知られている。
 ショウジョウバエdeltex遺伝子は、Notch情報伝達系を正に制御していると考えられている。Deltex
タンパク質は細胞質に極在し、Notchレセプター細胞質ドメインのCDC10/Ankyrin様リピートに結合
する。Deltexタンパク質は、Notchレセプターとの結合を介して機能しており、Deltexタンパク質を過
剰発現することでNotch情報伝達系を活性化できるらしい。Deltexタンパク質には、タンパク質間相
互作用に関与すると考えられているring zinc fingerドメインと、SH-3ドメインの結合部位と類似した
配列が存在する。Deltexタンパク質の構造と機能は、哺乳類においても保存されている。
  Notch情報伝達系の未知の構成因子を同定するために、ショウジョウバエdeltex突然変異のwing 
veinにおける表現型の遺伝的dominant modifierをスクリーンした。 得られた突然変異の遺伝学的解析
は、これらの遺伝子とNotch情報伝達系の関係、及び、wing vein形成への関与を示唆している。


O-1-4 ショウジョウバエ成虫肢における遠近軸方向の形態形成について
	小嶋徹也、西郷薫
	東大・理・生化

 ショウジョウバエ成虫の肢は、遠近軸方向に幾つかの節から構成されており、肢原基から分化する。
肢原基では同心円状に遠近軸情報が存在すると考えられ、同心円状に発現する遺伝子は遠近軸方向の
形態形成に重要であると考えられる。ホメオボックス遺伝子対BarH1/BarH2(Bar)は3齢幼虫初期に肢
原基がまだ平面的な時に将来の第3−第5附節領域で円環状に発現し、そのすぐ外側で第2附節と第
3附節の間のfoldingが起こる。ステージが進むとBarの発現は、将来の第5附節で強く、第4附節で
弱く、第3附節では発現しないといったパターンに変化する。 Bar-やBarを異所発現させた肢原基の
解析から、 BarはBar領域のすぐ外側の細胞に第2−第3附節間のfoldingを起こさせること及び後期
のBarの発現の強弱により、第3−第5のそれぞれの附節が決定されること、更に、 Bar領域のすぐ
内側の細胞でのFas IIの発現の誘導及びその細胞形態の制御をしていることが示唆された。また、Bar
のすぐ内側、将来の先附節領域ではホメオボックス遺伝子aristaless (al)が発現している。両者共に3
齢幼虫初期に発現が始まるが、その時は両者の発現領域には重なりがみられる。しかしステージが進
むと、その発現領域は完全に分離する。 Bar-の肢原基やBarを異所発現させた肢原基の解析から、こ
の発現領域の分離は少なくともBarがalの発現を抑制することによっていることが示唆された。これ
らのことから、Barは、遠近軸情報によって大まかに決められた領域の微調整をし、Bar発現領域及び
それに隣接する領域の運命決定をしていると考えられる。


O-1-5 TGF-βシグナルと成虫末梢神経系のプレパターン形成機構について
	中村 真、友安慶典、上野直人
	基礎生物学研究所・形態形成部門

 成虫の末梢感覚神経細胞は、シート状の上皮細胞層の中からある規則性をもって誘導される。この
ような規則性はいくつかのステップを経た結果形成されてくると考えられている。まず、上皮細胞層
の特定の位置に数個の細胞集団が神経母細胞(SOP)になる能力を獲得する(proneural clusterの形成)。
次に、この細胞集団の中の一つの細胞が神経母細胞へと分化しその他の細胞のSOPへの分化を抑制す
る。最終的に、SOPはさらにいくつかの細胞分裂を経て神経細胞と感覚器官を形成する細胞を形成す
る。現在proneural cluster形成以降の分子メカニズムはかなり解明されているが、proneural clusterが
上皮シート中のどのような位置情報を手がかりに特定位置に誘導されるのかについてはよく分かって
いない(wingless (wg)が一つのkey factorになっていることはすでに報告されているが)。
 我々はTGF-βスーパーファミリーに属する液性因子decapentaplegic (dpp) の発生における役割の解
析を進めてきた。 その結果、3齢幼虫前期の翅原基 (wing disc)においてdpp シグナルを異所的に活
性化させると成虫背側の外部感覚器 (macrochaete)の数が顕著に増加することが分かった。このとき異
所的に誘導されたproneural clusterの位置をwing disc上で観察したところ、誘導されるproneural cluster
の位置は常にwgの発現領域に接していることが分かった。我々が考えているdppとwgによる
proneural clusterの誘導メカニズムについて報告したい。


O-1-6 剛毛形成を指標とした遺伝子機能進化の解析
	高野敏行
	遺伝研・集団遺伝

 モデル生物であるキイロショウジョウバエとその近縁3種では全く同じパターンで胸部の剛毛 
(Macrochaetae) が観察される。ところが、キイロショウジョウバエとD. simulans との雑種ではこれら
の胸部剛毛が失われる傾向がある。一方で、D. simulans により近縁なD. mauritianaやD. sechellia と
キイロショウジョウバエとの雑種では剛毛は失われない。また、D. simulans も系統によってほとんど
剛毛を失わないものから多くの剛毛を失うものまで、大きな変異が存在する。これらの結果はD. 
simulansの集団中に比較的最近、雑種において剛毛を消失させる変異が生じたことを示唆する。また、
キイロショウジョウバエとの雑種では剛毛を失うD. simulans の系統でも、同種との交配では剛毛の消
失はみられない。このことは、形態の表現型の上では同じでも、それを支える遺伝子の機能の上では
完全に同一ではないことを示唆する。SMC 等の発現マーカーを用いた解析から、種間雑種の剛毛消失
は表皮/神経、シャフト/ニューロンといった細胞運命の選択の間違いではく、SMCが現われた後の
神経細胞としての運命の維持ないしは細胞分化の初期に障害が生じたためであると考えられる。また、
欠失染色体スクーニング、D. simulans 種内の変異を用いたQTLマッピング等からD. simulans のX染
色体上に原因遺伝子の候補となる領域を見いだしている。
 以上、ショウジョウバエの剛毛形成を指標として近縁種間で進む遺伝子変化と遺伝子座間の相互作
用を種間雑種の形態異常として検出する系を用いて行った解析結果を報告する。


O-1-7 性的隔離(行動による隔離)から進化を考える
	小熊 譲
	筑波大・生物科学系

 私たちの研究室は、小進化(種レベルの進化)がどのようにして起こるか、に興味を持ち仕事を進
めている。今回は小進化のうちでも、特に配偶行動の変化にもとづく性的隔離の維持および発達の遺
伝学的解析に焦点をあてて、講演をしたい。ショウジョウバエの配偶行動はさまざまな要素、たとえ
ば定位や追尾、翅振動、交尾試行、交尾などからなっている。これらの要素はおもに接触化学感覚(シ
グナルとして、たとえば雌雄の性フェロモン)と聴覚(雄が発する求愛歌)、視覚(明暗に対する感
受性)等によって解発されることは広く知られている。これらの感覚に関与するシグナルの産生また
は受容の遺伝的変化が、雌雄の種認識にもとづく配偶行動に微妙に影響し性的隔離の発達となり、そ
の結果これが種分化のひとつの要因として寄与することになるであろう。このような理由から、これ
らの感覚に関与するシグナルの産生と受容の遺伝学的基礎を明らかにし、種分化の機構を少しでも知
りたいと考えている。
 地球上に存在するショウジョウバエ科のハエは3000種を越え、日本からは約270種が記載されて
いる。性的隔離が発達しているにもかかわらず、実験室において交配が可能で、さらに妊性のある子
孫を得ることができ、かつ先人のうまずたゆまぬ努力によって集められた多数の遺伝的標識を用いて
解析ができる種は、非常に限られている。私たちが研究の対象としているアナナスショウジョウバエ
類やカオジロショウジョウバエ類、キイロショウジョウバエ種亜群の配偶行動の様子から進化を考え
てみたい。


O-1-8 ホスト転換の遺伝学:単食性ショウジョウバエDrosophila sechelliaをモデル
	として
	菅谷 茂、布山喜章
	都立大・理・生物

 セイシェルショウジョウバエD. sechellia は melanogaster subgroup の一員であるが、このグループ
では例外的に単食性で、ヤエヤマアオキMorinda citrifoliaの成熟果実を唯一の繁殖場所としている。
植食性昆虫では、ホスト植物の転換が種分化のきっかけとなることを示唆する例が多数報告されてお
り、本種の特異な食性がどのような遺伝的背景によるものかを知ることは、種分化の機構の解明に重
要な手がかりを提供するものと期待される。D. sechelliaはM. citrifolia の果実に誘引され、産卵するが、
近縁種のD. melanogasterやD. simulansは忌避する。また、この果実は近縁種には強い毒性を示す。D. 
sechelliaに対する誘引および近縁種に対する毒性は、いずれも、果実に含まれる低級脂肪酸によるも
のである。本種は、その特異な食性にもかかわらず、通常の培地で飼育可能なこと、D. melanogaster
やD. simulansとの間で種間雑種が得られるため、これらの種の遺伝的資源が利用可能であることなど
の利点を生かし、本種の低級脂肪酸に対する適応の遺伝的機構について、解析を進めている。
 これまでに、(1)誘引ならびに産卵行動は、第2染色体右腕、D. melanogasterの57Aに相当する
領域の劣性遺伝子に支配されるること、(2)果実の毒性に対する耐性は第3染色体上の優性遺伝子
が関与しており、母性遺伝を示すこと、などが明らかにされた。これらの知見にもとづいて、本種に
おけるホスト転換機構の分子レベルでの解明を目指している。


O-1-9 昆虫の体のまもり方 
		−ショウジョウバエにおける生体防御系遺伝子群の進化−
	伊達敦子1、颯田葉子1、高畑尚之1、石和貞男2
	1: 総合研究大学院大学・先導科学研究科・生命体科学専攻、2: お茶大・理・生物

地球上の生物は、その歴史的拘束のもとそれぞれの生息環境に適応した生体防御系を発達させてきて
いる。無脊椎動物に属する昆虫類は、きわめて多様な環境に適応し繁栄を遂げている生物であるが、
脊椎動物にみられるような獲得免疫機構を持たず、幅広い抗菌活性を持つ抗菌タンパク質の分泌とい
った比較的単純な系を発達させてきている。現在まで単離された抗菌タンパク質は約15種類にも及
び、ショウジョウバエを中心に遺伝子のクローニングが進められているが、それらの解析より、抗菌
タンパク質遺伝子の多くはゲノムに多重化しており、その発現調節には哺乳類の免疫関連遺伝子の発
現調節に関わるNF-κB転写因子系と類似したシステムの存在が現在までに明らかにされている。こ
のような特徴を持つ昆虫の生体防御系遺伝子群の遺伝的しくみと進化を考察するために、私たちは、
ショウジョウバエの抗菌タンパク質セクロピン多重遺伝子族のDNA塩基配列に基づく分子進化学的
解析を行った。現在まで、これら遺伝子群は約3000万年の間に遺伝子重複と染色体再配置を繰り返
し経て形成されたことが示唆された。このような短期間での遺伝子重複の生物学的意義を考慮し、他
の抗菌タンパク質遺伝子や転写因子の解析も併せて、昆虫の生体防御系の適応進化を議論したい。




O-2-1 神経幹細胞の非対称分裂と極性
	松崎文雄
	国立精神神経センター・遺伝子工学研究部

 一個の卵から出発する発生にとって、異なる二つの細胞を生じる非対称な細胞分裂は、細胞の多様
性を生む最も基本的な仕組みである。神経系の発生も例外ではなく、多様な神経細胞が比較的少数の
幹細胞から生じる過程で、非対称分裂が重要な役割を果たしている。
 神経幹細胞は、もう一つの神経幹細胞と神経母細胞に分裂する。神経幹細胞はこの分裂を繰り返す
一方、神経母細胞はもう一度だけ分裂して、神経あるいはグリア細胞を生じる。このように、神経幹
細胞の分裂は、形態的にも、娘細胞の分裂能、遺伝子発現という観点からも、非対称である。神経幹
細胞が分裂する際、幹細胞で合成された転写因子prosperoが、神経母細胞だけに不等分配され、そこ
ではじめて機能することを私たちは見い出した。さらに、最近、分裂期に入った神経幹細胞で、この
prosperoを細胞の一方に局在させることで不等分配に導く因子mirandaを発見した。このように、神
経幹細胞は、分裂により生じた二つの娘細胞の一方だけに転写因子を分配し、娘細胞に相異なる遺伝
子発現を誘導するという仕組みを持つ。また、神経幹細胞は、Notch signal を制御するNumbも同様に
不等分配することが知られている。このように、神経幹細胞の非対称分裂は自律的な分化だけではな
く、外からの分化シグナルに対する応答にも関わっていると考えられる。神経細胞の分化に幹細胞の
非対称分裂が果たす役割を検討するとともに、分化因子の非対称分配に必要な細胞の極性、分裂軸の
決定の仕組みについても議論したい。

O-2-2 複眼光受容ニューロンの運命決定における核内過程
	広海 健 1,2、Steve R. West 2
	1: 遺伝研・発生遺伝, 2: Dept. Mol. Biol, Princeton University

 ショウジョウバエ複眼発生過程では、個眼内の細胞がニューロン・非ニューロンの選択、ニューロ
ン種選択などの多くの細胞運命選択を行う。seven-upはこのような運命決定のうちのひとつに必要な
遺伝子である。seven-up突然変異では8個の光受容ニューロンのうちR3/R4/R1/R6が、R7と呼ばれ
る別の種類のニューロンに運命転換する。seven-upはR3/R4/R1/R6でのみ発現しているため、
SEVEN-UP(seven-up蛋白)は2種のニューロン間の遺伝的スイッチとして働く、と考えられる。
SEVEN-UPは進化的に保存された核内リセプターであり、ショウジョウバエのSEVEN-UPとCOUPと
呼ばれるヒトのホモログは、DNA結合領域,リガンド結合領域(LBD)いずれも93%以上の相同性を示
す.このことはショウジョウバエとヒトの蛋白が共に同じ,もしくは似た塩基配列を認識し,LBDが
結合する分子(リガンド或いは他の蛋白)もヒトとショウジョウバエの間で保存されていることを強く
示唆している.
 我々はchimeric receptor systemとよぶLBDの転写制御活性を生体内で測定する方法を開発し、
SEVEN-UPのLBDが転写抑制活性を持つことを示した。この転写抑制活性は複眼発生過程で時間的・
空間的に制御されていないため、SEVEN-UPのリガンドは(もし存在するなら)調節的情報を伝えていな
い、と考えられる。興味深いことに、SEVEN-UPのLBDだけを強制発現しても、発生過程の複眼で種々
の細胞運命変換を引き起こす。この現象は、SEVEN-UPのLBDが他の蛋白(蛋白Xと呼ぶ)を
titrate/sequesterしたために生ずる,と考えられる.蛋白Xは多くの細胞種においてそれぞれの細胞運
命決定に関与している重要な分子であり,SEVEN-UP或いは他の転写因子と結合しその標的遺伝子の
転写調節に寄与する可能性が高い.おそらくSEVEN-UPは蛋白Xに対して細胞特異性・標的塩基配列
の2種類の情報を与えているのだろう.


O-2-3  神経ネットワーク形成の分子機構−神経筋特異結合をモデル系として
	能瀬聡直
	基礎生物学研究所・行動制御

 複雑な神経間結合が間違いなく発生過程において形成されるためには、それに応じた、精妙かつ多
様なメカニズムが存在しているはずである。われわれは特に神経成長円錐における特異認識機構に興
味をもち比較的構成が単純で、遺伝学的アプローチが可能なショウジョウバエの神経−筋結合系を材
料として用い研究を行っている。この系は、約40個の運動ニューロンが、30本の筋肉繊維を支配す
ることにより成立している。発生過程において、個々の運動ニューロンはいかにして特定の標的筋肉
を見つけだし、シナプス結合をするのか。本研究集会では、われわれの研究を中心に、このモデル系
における研究から分かってきた神経認識の分子メカニズムについて紹介したい。


O-2-4 シナプス形成の遺伝解析
	吉原基二郎
	群馬大・医・行動生理

 シナプスは神経細胞と神経細胞を連絡する場所であり、また、記憶、学習などの可塑性も、シナプ
スにおいてつくられていると考えられており、神経系の最も重要な機能はシナプスにあるといっても
過言ではない。このシナプスの機能がいかにしてつくられるかは最も重要な問題であるが、神経軸索
のpathfindingやtarget recognitionの機構に比べてまだ解っていないことが多い。そこで、ショウジョ
ウバエの神経筋シナプスは遺伝学的手法と電気生理学的手法の両者で十分にアプローチできる唯一の
系であるという利点を生かして、発生遺伝学的な手法によりシナプス形成の問題に取り組もうという
のが、我々の研究方針である。本講演では、まず第一に、完成されたシナプスの機能に関して、どの
ような分子がシナプスで働いているかについて、mutantsの電気生理学的な症状など現時点で知られて
いる知見について簡単にreviewし、ショウジョウバエのシナプスが脊椎動物のシナプスのモデル系と
して有効であることを説明する。第二に、このようなシナプスがいかにしてつくられるかについて述
べる。運動ニューロンの神経軸索は最初、長いfilopodiaを有する平たいgrowth coneの形状をとりtarget
である筋細胞上を探索するが、targetに到着した後、数珠状の"varicosity"といわれる完成したシナプス
に特徴的な形へと変貌をとげる。この変化を詳細に観察した結果、一度大きな膨らみ("prevaricosity"
と名付けた)ができ、それがくびれて成熟したvaricosityがつくられることを見いだした。第三に、シ
ナプス形成過程で働く分子の探索を目的として行っているmutant huntingの経過について説明する。
なるべく簡単にNeuroscienceらしい話をする予定です。


O-2-5  光情報変換系蛋白質の細胞内局在と機能発現
	鈴木えみ子
	東大・医科研・微細形態学

 ショウジョウバエ視細胞における光情報変換過程はホスファチジルイノシトール(PI)-シグナル伝達
系を介すると考えられおり、視覚突然変異の解析から数々のPI-シグナル系蛋白質の構造遺伝子が同定
された。ところで、視細胞の光応答はミリ秒オーダーで起こる非常に速い反応であり、また明暗順応
の精妙な機構を備えている。演者らは、このような光応答の即応性や調節機構のフィデリティーの基
礎となる、光情報変換系蛋白質の細胞構造上の局在や相互関係を解析してきた。これまでに、光応答
チャネル蛋白質  (TRP,TRPL)が光受容膜に局在し、しかもTRPがINAD蛋白質を介して、PLCβや
PKCと結合していることがわかった。このことは、INAD蛋白質をアダプターとして、PLCからチャ
ネルに至る光情報変換系の蛋白質が複合体を形成していることを強く示唆している。さらに、TRPの
光受容膜への局在は、INADとの結合に依存することもわかった。一方、PIP2再生系の蛋白質群であ
るDGK/RDGA, CDS, PITP/RDGBが、光受容部近傍に存在する滑面小胞体、subrhabdomeric 
ciaternae(SRC) に局在することがわかった。SRCは、IP3感受性の細胞内カルシウムプールと考えられ
ており、IP3シグナル系とPIP2再生系のSRCにおける共存はこれらの経路の機能的共役を示唆してい
る。以上のような情報伝達系蛋白質群の細胞内での3次元的ネットワークは、一般の細胞にも存在す
ると考えられ、ショウジョウバエ視細胞での研究が情報伝達系の細胞内ネットワーク形成を支配する
普遍的な遺伝子機構の解明につながると期待される。


O-2-6  ショウジョウバエ脳の解析 −突然変異を使わずに何ができるか、何をする
	べきか−
	伊藤 啓1、鈴木和美2,3、粟野若枝1、山元大輔1,2 
	1: 科技振・山元行動進化プロジェクト、2: 三菱化学生命研、3: 東京農工大

 ショウジョウバエを実験動物に用いる最大の醍醐味は、いうまでもなく突然変異系統を駆使した遺
伝子レベルの解析にある。体節や体軸の形成機構、眼、肢、翅の発生メカニズムや神経系の初期発生
などは、このアプローチで近年急速に解明が進んだ。だが脳の研究については、同じような成功はす
ぐには期待できそうにない。突然変異によって生じた異常を解析したり、クローニングされた遺伝子
の脳内での発現細胞を同定したりするのに必須な、正常な脳の構造と発生に関する基本的知識が、現
時点ではまだ絶望的に不足しているからだ。
 正常な脳の構造を細胞レベルで理解するために、我々はGAL4エンハンサートラップ法を用いた発
生解剖学的な解析を進めている。エンハンサートラップ系統の大多数は特別な表現型を示さず、突然
変異の研究には使えないが、むしろこのような「突然変異でない」系統を分子マーカーとして積極的
に利用することによって、脳を構成する数万個の神経・グリア細胞の形態と発生過程を、網羅的・体
系的に解析することが可能になる。
 正常な脳を構成する複雑な回路網がどのように形成されてくるのかも、ほとんど調べられていない
ことの一つである。我々はFRT-GAL4法を利用して、胚でなく成虫の脳で細胞系譜の解析を行なうこ
とにはじめて成功した。この結果、神経幹細胞の多くは単に未分化な細胞集団を作るのではなく、脳
内の少数の決まった領域のみに投射する細胞集団を作ることが分かりつつある。成虫脳の神経回路網
のかなりの部分は、これら細胞系譜で規定された回路モジュールが、モザイク状に組み合わさってで
きた構造だと考えることができる。



ポスター発表

P-1 ショウジョウバエ中枢神経系および体液細胞由来の株細胞を用いた、細胞−基
	質間相互作用に依存する細胞内情報伝達機構の解析
	高木康光1、程久美子2、徳重直子1、広橋説雄1
	1: 科学技術振興事業団・広橋細胞形象プロジェクト、2: 日本医大・薬理

 基底膜は様々な組織を取り囲む細胞外マトリックスで、単なる支持体としてでなく、種々の生理的
あるいは病理的な局面における細胞の機能発現を積極的に制御する。我々はショウジョウバエをモデ
ルとして、組織・器官構築における基底膜の役割、特に細胞ー基質間相互作用から派生する細胞内情
報伝達系の動態変化と形態形成過程との因果関係を明らかにすることを研究目標とし、その解析手段
の一つとして培養細胞を積極的に活用してきた。個体サイズが小さく発生の進行が急速なショウジョ
ウバエでは、そのために突然変異体の形質や単離された遺伝子機能の理解に困難の伴うことがある。
培養細胞を用いた再構成系は細胞レベルでの解析を可能とし、また遺伝学的解析では明らかに出来な
い分子間の直接の相互作用の証明も行なえるなど、個体レベルの解析が持つ欠点を補うアッセイ系で
ある。
 第三齢幼虫の中枢神経系由来の株細胞BG2-c6は基底膜成分であるラミニンに対して強い接着伸展
活を示し、それに対応してインテグリンの凝集とその凝集点へのチロシンリン酸化タンパク質の局在
が引き起こされることを免疫組織化学的手法で認め、以前に報告した。今回我々は、α-アクチニン, 
PAK, ENA といった分子がインテグリンと局在を同じくすることを明らかにし、本細胞におけるイン
テグリン依存性情報伝達経路についてのモデルを提唱する。また、体液細胞由来の株細胞Kc167の培
養上清を利用したBG2-c6の大量培養系を確立し、インテグリンの活性化により誘導される細胞内情
報伝達に関与する分子の生化学的解析を開始したのでその知見についても併せて報告したい。


P-2 細胞膜プロテオグリカンDallyのDppシグナル系における機能
	中藤博志1、杉浦資子1、泉 進1、Shari Jackson2、Scott Selleck2
	1: 都立大・理・生物、2: アリゾナ大・分子細胞生物学

 初期胚や成虫原基の発生においてHedgehog (Hh)、Decapentaplegic (Dpp)、Wingless(Wg) といった分
泌性シグナル分子は、細胞分化、体軸の決定、パターン形成に重要な機能を果たす。これらシグナル
因子の多くは、分泌された後、細胞膜や細胞外基質に分布すること、精製標品単独では活性を持たな
いこと、in vitro でヘパリンに結合することなどから、細胞膜表面や細胞外基質に存在するヘパラン
硫酸プロテオグリカン(HSPG)がシグナルの伝達に関与することが示唆されてきた。division 
abnormally delayed (dally) 遺伝子は細胞膜結合型 HSPG のコアタンパク質をコードしている。dally 変
異体では幼虫中枢神経系の特定の神経芽細胞群の分裂周期の進行が異常となる他、翅、複眼、触角、
外部生殖器などの成虫の形態に異常をきたす。今回、dally 遺伝子がDppシグナル系で機能している
可能性を検討するため両遺伝子の遺伝学的相互作用を解析した。その結果、1)dpp機能減少型突然
変異はdally表現型を増強する、2)dpp遺伝子のコピー数を増やすとdally表現型は抑制される、3)
dpp異所的発現により生じる形態異常がdally突然変異により抑えられる、4)dally突然変異体では
dppシグナル系下流因子の発現が著しく減少する、5)dally異所的発現により、dppのパターン形成
能が増大すること、などが判明した。以上の観察から、ヘパラン硫酸プロテオグリカンDally分子は
細胞膜表面においてDpp補受容体として機能し、そのシグナル量を調節していると考えられる。


P-3 Drosophilaプレセニリンホモログのクローニングならびにその発現解析
      前田美慈1,2、高橋邦明1,3、高島明彦1、石和貞男2、山元大輔1
	1: 三菱化学生命科学研究所、2: お茶大・理・生物、3: 九大・理・生物  

 アルツハイマー病はヒトにおける痴呆の主たる原因の一つであるが、その症例のほぼ10%は遺伝性
である。近年、この原因遺伝子の一つとして、7回膜貫通型タンパク質をコードするプレセニリン(PS)1
および2が同定された。アルツハイマー病患者の持つPS1変異型遺伝子産物は、老人斑の要因となる
アミロイドβタンパク質由来Aβ42ペプチドを増加させることが報告されているが、その機構の詳
細については確定していない。さらに、線虫のNotch/LIN12の変異を抑制する遺伝子、sel-12が、ヒ
トPSと高い相同性を持つことも明らかとなった。そこで我々は、Notch下流因子が多数同定されてお
り、かつ行動学的解析を行うことのできるDrosophilaを用いて、PSの機能を解析するため、Drosophila 
プレセニリン遺伝子(DPS)のクローニングをおこなった。
 cDNAクローニングの結果から、DPS遺伝子には2つのスプライシングパターンが存在し、それぞ
れ、541,527アミノ酸からなるタンパク質をコードし、ヒト、線虫のPS1とそれぞれアミノ酸レベル
で55.7%, 46.5%の相同性を有していた。また、得られたcDNAを用いた唾腺染色体上のマッピング
から、DPS遺伝子は77Bに存在することが明かとなった。さらに、Northern blot法および in situ 
hybridization法による発現パターンの解析から、DPS遺伝子は初期胚で強く発現し、その後蛹期まで
発現が続くことが判明した。現在、DPSの機能を解析するため、DPS変異体のスクリーニングならび
にtransformantの作製をおこなっている。


P-4 幼虫神経系形成過程および付属肢形成過程におけるpoxn 遺伝子の新たな機能
	木村賢一1、粟崎健2
	1: 北教大・岩見沢・生物、2: 国立精神神経センター・遺伝子工学

  poxn 遺伝子は、pairedドメインをもつ転写制御因子をコードしており、機械感覚器(mono-innervated
external sensory (m-es) organs)と化学感覚器(poly-innervated sensory (p-es) organs)の発生運命
の選択に関与することが知られている。我々は、poxn 遺伝子のloss-of-function突然変異体を分離し、
その異常を調査した結果、2つの発生過程における新たなpoxn 遺伝子の機能を見いだした。(1) 胚および
幼虫の周辺神経系において、poxn 突然変異体では「p-esがm-es」に転換し、さらに2令および3令幼虫
の感覚器では全てのtrichome型の感覚器(hair)が、campaniform型の感覚器(papillae)に転換した。
Poxnは胚においてはp-esに特異的に発現し、1令および2令幼虫ではhairに付属する細胞で特異的に
発現していた。これらは、poxn 遺伝子は、p-esの発生運命の決定のみならず、幼虫脱皮に伴って起こ
るhairの再形成にも関与していることを示唆している。(2) poxn 突然変異体では、肢のtarsus及び触
角の相同部分に異常がみられた。野生型のtarsusは5つの節よりなるが、突然変異体では3節しか見
られず、2つのジョイントに形成不全が生じている。また、触角および肢の成虫原基の対応する部分
に2重のリング状にPoxnの発現が認められた。これらのことは、poxn 遺伝子は肢や触角のパターン
形成に関与することを示唆している。


P-5 キイロショウジョウバエの性指向性を制御するfruitless gene は体細胞の性を
	決定する遺伝子の一つでありBTB domain、Zinc finger motifを持つ転写因子
	をコードしている
	伊藤弘樹、藤谷和子、薄井一恵、Eric Nilsson、粟野若枝、山元大輔
	科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

 satori (sat) 突然変異体の雄は雄にのみ求愛を行い、雄特異的な腹部第5節の筋肉(ローレンス筋)
を欠いている。このsat 変異は、性指向性、ローレンス筋の両表現型に関して、雄が雌雄の両方に求
愛するfruitless (fru) 変異(Gill, 1963)とallelicであった。そこで、両変異の原因遺伝子であるfru
geneの遺伝子構造と発現部位を解析し、以下のことを明らかにした。1)fru gene は、N末にBTB domain、
C末にZinc finger motifを持つ転写因子をコードする。fru mRNAの3'領域にはalternative splicingが見
られ、結果としてC末構造の異なる5種類のFruタンパク質をコードする。また、一部のfru mRNA
の5'領域では性特異的なalternative splicingが見られ、結果として雄のFruタンパク質のN末には、雌
に存在しない101個のアミノ酸が付加される。2)性特異的なalternative splicingを受けるexonの内
部には、体細胞の性決定遺伝子の一つであるtransformer (tra) geneの産物、Traタンパク質が結合する
配列が存在する。3)fru mRNAは、三令幼虫、蛹、成虫の中枢神経系の一部の細胞で発現している。
また、体細胞の一部でも発現している。
 以上の結果から、体細胞の性決定カスケードには、tra の下流にdoublesexを通らない新たな経路が
存在し、それが神経系の一部の性分化を支配すると推定される。fru gene はその経路の最初の遺伝子
であると考えられる。現在、各タイプのFruタンパク質をコードするcDNAをハエに導入し、どのタ
イプが性指向性、ローレンス筋形成に関与するのかを解析中である。


P-6 Bisexual courtship activity induced by ectopic expression of 
	transformer and mini-white genes is suppressed by downstream actions of 
	fruitless-satori.
	Eric Nilsson, Zoltan Asztalos, Tamas Lukacsovich, Wakae Awano and Daisuke Yamamoto
	Yamamoto Behavior Genes Project, ERATO, Mitsubishi-kasei Institute for Life Sciences

     Ectopic expression of both Transformer (Tra) protein and White protein in the brains of
flies have been shown to induce bisexual courtship behavior in males. Models of sexual
differentiation and development place the actions of trasformer (tra) upstream of fruitless
(fru). Since the fru-sat mutation when homozygous completely suppresses courtship of females
by males, and induces a low degree of homosexual courtship, it is possible to test
behaviorally whether fru acts downstream of tra.  
     The enhancer trap 53b-GAL4 was crossed into a fly line along with UAS-tra, to express
Tra ectopically in male flies which were homozygous for the fru-sat allele. These flies were
placed into courtship chambers along with either a male or female Canton-S fly acting as a
sex object and the behavior of the fly pairs observed. Male flies having both 53b-GAL4 and
UAS-tra in a fru-sat homozygous background were found to court females not at all, and
to court males at a much reduced rate compared to flies having 53b-GAL4 and UAS-tra in a
fru-sat heterozygous background. Similarly, flies with ectopic White protein expression were
also found to court females not at all and males at a reduced rate in a fru-sat homozygous
background.  
     Thus the behavioral effects of ectopic Tra and White are abolished in the presence of
homozygous fru-sat, supporting the conclusion that fru acts downstream in both these pathways
controlling courtship behavior.


P-7 ローレンス筋の雄特異的な発生におけるtra及びfru遺伝子の役割
	薄井一恵、伊藤弘樹、山元大輔
	科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

 キイロショウジョウバエの腹部にはローレンス筋(muscle of Lawrence)と呼ばれる、雄特異的な筋肉
が存在する。fruitless(fru)は、雄の求愛行動異常を示す突然変異体である。加えてローレンス筋の欠失
も観察されるので、fru遺伝子はローレンス筋の雄特異的な発生においても必須であると考えられる。 
ローレンス筋が形成されるか否かは雌雄モザイク解析や核移植実験により、筋肉母細胞の雌雄に因ら
ず、腹部筋肉へ投射する神経の雌雄に依存することが報告されている(Lawrence and Johnston, 1986)。
また、ローレンス筋形成は、既知の性決定遺伝子のうち、transformer(tra)には依存する反面、そのタ
ーゲットであるdoublesex(dsx)には依存しないことが報告されている(Taylor et al., 1995)。fru遺伝子の
雌型mRNAにはTraタンパク質結合部位があるので、fruはTraのターゲットとして働き、dsxの経路
とは別の新規性決定カスケードにおいて機能することが示唆される。ローレンス筋形成は、この新規
カスケードに媒介されると考えられる(Ito et al., 1996)。
 今回我々は、GAL4/UASシステムを主に用いローレンス筋を支配する神経細胞群の組織学的解析を
試みると共に、候補神経細胞群にfru 、tra遺伝子を強制発現し、ローレンス筋の形成に対するその効
果を検討した。この結果、ほぼすべての神経細胞にtra遺伝子を強制発現させると、染色体上は雄で
あっても、不完全なローレンス筋しか形成されなくなることがわかった。


P-8 突然変異アクチンの精製と in vitro motility assay
	最上要1、Azam Razzaq2、Samantha Clark2、John C. Sparrow2
	1: 東大大学院・理学系研究科、2: Dept. of Biology, Univ. of York, UK

ショウジョウバエは6つのアクチン遺伝子を持つが、唾腺染色体上88Fにあるもののみが、成虫間接
飛翔筋において発現し、他のアクチン遺伝子はこの筋肉では発現していない。我々は飛翔不能突然変
異を単離することによって得た88Fアクチン突然変異の中、17系統から変異アクチンの精製を試み、
得られたものについてin vitro motility assayを行った。アクチンを精製するためには、まず10ないし
20匹の麻酔したハエ成虫より間接飛翔筋を切り出す。ホモジェナイズ後、アセトンパウダーを作成、
アクチンを抽出後、ファロイジン存在下で重合させ、超遠心機にかけてF-アクチンとして回収した。
この方法で正常個体10匹から約5μgのアクチンが得られる。突然変異のうち8系統(Q121@、
Q353@、W356@、G63D、G156S、G156D、G301D、G366S)からはF-アクチンが得られなかった
が、これは予想される構造の変化、あるいは過去のデータより妥当と思われる。残りの9系統につい
てはウサギHMMに対しmotility assayを行ったところ5系統(G302D、P307L、V103E、G268D、R28C)
は正常アクチンの滑り速度とほぼ同様であった。これに対しE226K、R95Cは正常よりわずかに遅く、
さらにE57Kでは滑り速度は正常の半分程度に減少しており、またI289Fはほとんど滑りを示さなか
った。アルギニン95はアクチン・ミオシンの弱い相互作用があるとされる部位である。グルタミン
酸57とイソロイシン289の位置は既知のアクチン・ミオシン相互作用部位とは異なっており、どち
らかといえば重合に関与する部位に近い。滑らかな運動を生じるためにはアクチンモノマー間の適切
な結合あるいは相互作用が必要なことを示唆しているものと思われる。


P-9 性行動突然変異体platonicの解析
	徐 金華、薄井一恵、竹下 綾、山元大輔
	科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

 我々はエンハンサートラップ法と行動観察法を組み合わせ、性行動突然変異体platonic(plt)を分
離した。platonicの雄は雌に対し盛んに求愛を行うが、なかなか交尾に至らず、野生型同士と比べ、交
尾率が極端に低かった。platonicのもうひとつの表現型としてL5翅脈の短縮が観察された。P因子を
切り出し、得られたrevertantでは交尾率は野生型とほぼ同程度になり、L5翅脈 の表現型も完全に回
復していた。このことからplatonic突然変異はP因子の挿入によるものと推定された。さらに、tamou、
canoe、tkv、Hairless、Notchなどの変異体を用い、これらの遺伝子とplatonicの関係を検討した。
 プラスミドレスキュー法で回収したゲノム断片をプローブに利用し、genomic libraryをスクリーニ
ングしてchromosome walkingを行い、P因子挿入点近傍の約30kbのゲノムDNAをクローニングした。
ゲノムプローブを用いたdevelopment Northern blotでは野生型において数種類の転写産物が発現してい
るが、platonicでは一連の転写産物が欠失している。これらの転写産物はplatonic locus由来と考えら
れる。cDNAの一部が既にクローニングでき、全長cDNAのクローニングを目指してcDNA walkingを
行っている。


P-10 キイロショウジョウバエの全身麻酔に関係する遺伝子群の解析
	田中良晴、石井秀紀、市成寿、稲岡美奈子、欅谷大、百々克行、阪上起世
	発田郁子、蒲生	寿美子
	大阪府大・総合・自然環境

 W. T. G. Mortonがジエチルエーテルを全身麻酔薬として外科手術に用いてから150年も経つ。その
作用メカニズムに関し多くの説が出されてきたがその作用サイトは不明である。最近K[+] channel, 
Ca[2+] channel, GABA[A] receptorなどのイオンチャネルやPKCなど情報伝達系の酵素への特異的作用
を示唆する報告が多くなってきた。我々は全身麻酔に関係する遺伝子群を数多く得て解析することで
麻酔薬の作用メカニズムを分子レベルで説明できると考える。
 トランスポゾン(P-element, KP, enhancer trap P-element)の挿入突然変異の中からエーテル麻酔に
対し野性型に比べて感受性あるいは抵抗性のものを選び出した。プラスミドレスキュー法およびPCR法に
よりP因子近傍のDNAをクローニングし、塩基配列決定とホモロジー検索を行った。現在までに 1) Na[+]
channel gene, 2) calreticulin gene, 3) 新規遺伝子を同定している。Northern解析で発現量の変化を
見ること、復帰突然変異体を得ること、同定した遺伝子以外の染色体を野性型に置き換えることによ
りこれらがエーテル麻酔に関係するものであることを検証している。またハロセン、イソフルレン等
の他の麻酔薬に対する感受性を調べることにより、同定した遺伝子が広い範囲の麻酔薬に関係がある
か、麻酔薬の種によって関係する遺伝子が異なるかを調べている。 


P-11 ショウジョウバエcanoe遺伝子の胚発生過程における機能解析
	高橋邦明1,2、松尾隆嗣1,3、勝部孝典1、上田龍1、山元大輔1,4
	1: 三菱化学生命科学研究所、2: 九大・理・生物、3: 東大・農
	4: 科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

 我々がrough eyeの表現型を指標として単離したcanoe(cno)は、胚発生過程においてdorsal openの表
現型を示す胚致死突然変異体としても知られている。これまでの研究から、Cnoは細胞接着部位であ
るadherens junctionに局在し、Rasと直接結合することによりRasのシグナリングに関与することが明
らかとなった。一方、Cnoはその分子内にDHRドメインと呼ばれる蛋白間相互作用に関与するドメイ
ンをもつことから、細胞接着部位において他のタンパク質と相互作用していることが予想された。
 そこで、我々は細胞接着部位に局在することが知られている他の分子の中から、Cnoと結合するも
のをyeast two-hybrid法を用いて探索し、哺乳動物ZO-1のhomologであるtamou(tam)を単離した。抗
体染色の結果から、CnoとTamは胚発生過程において、ともに上皮系の細胞に広く発現し、特にdorsal 
closureの過程で胚の背側部に強く発現していることが明らかとなった。また、細胞内における局在も
両者ほぼ同一で、細胞内においてもこの2つのタンパク質が直接結合している可能性が強く示唆され
た。
 また、cno(mis1)およびtam1は単独では胚発生に異常を引き起こさないhypomorphであるが、これら
の二重変異体はdorsal openの表現型を示すことから、両遺伝子産物は胚の背側部の発生に協調して作
用するものと推定される。以上の結果から、Cnoがadherens junctionにおいて細胞骨格系の制御に関わ
るZO-1とRasとを結ぶメディエーターの役割を果たしている可能性が示唆された。


P-12 キイロショウジョウバエcanoeおよびRas1遺伝子によるcone cellの発生の
	制御
	松尾隆嗣1,2、高橋邦明1,3、近藤俊三1、鈴木えみ子4、山元大輔1,5
	1: 三菱生命研、2: 東大・農、3: 九大・理・生物、4: 東大・医科研・微細形態学
	5: 科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

キイロショウジョウバエのcanoe遺伝子座におけるhypomorphicな変異体は、複眼のR7の分化は正常
であるが、R7の次に分化するcone cellの数が異常になる。すなわち、canoe[misty1]/canoe[misty1]では
正常の4個に対して3個あるいは5個のcone cellを持つ個眼が生じ、canoeについての欠失染色体を用
いてさらに遺伝子量を落としたcanoe[misty1]/Df(3R)6-7ではほとんどの個眼でcone cellの数が1〜3個
に減る。逆にsevenless promoterにより野生型canoeを強制発現させた形質転換体では個眼あたりのcone 
cellの数は5〜7個になった。一方sevenless promoterによりconstitutive active型のRas1を強制発現さ
せた個体では個眼あたりのcone cellの数が増加し、同様にdominant negative型のRas1を強制発現させ
た個体ではcone cellの数が減少する。active型とnegative型どちらのRas1の表現型もcanoe[10B1] (null 
mutation)によってdominantに強化された。Yeast two hybrid assayでCanoeタンパク質のN末の特定領
域とRas1が結合したことにより、CanoeとRas1は直接相互作用すると考えられるが、そのcone cell
の分化の制御のメカニズムは単純ではなく、我々はcone cellの分化をnegativeに制御する未同定のカ
スケードの存在を想定している。


P-13 キイロショウジョウバエ処女雌の性的受容性を制御するchaste 遺伝子の解析
	従二直人1、竹下綾1、山元大輔1,2
	1: 科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト、2: 三菱化学生命研

キイロショウジョウバエの第2染色体 53F 領域の P 因子挿入によって生じた chaste変異体の雌は、
強い交尾拒否行動をとり続けるため妊性が著しく低下する。通常このような行動は羽化直後の未成熟
な雌に見られるもので、性的に成熟した処女雌は雄の求愛に対し一時的に軽い拒否行動をとることは
あっても持続的に拒み続けることはない。したがって chaste 遺伝子は、交尾拒否の相から交尾受容の
相への移行に関与していると考えられる。私たちは、性的受容性獲得の遺伝的制御の解明をめざし、
この遺伝子の分子遺伝学的解析を行っている。P 因子挿入近傍にある3つの遺伝子は、いずれも新規
であった。このうち最も P 因子挿入の近くに位置する遺伝子のみ発現に影響がみられることから、
私たちはこれが chaste 変異の原因遺伝子である考えている。この遺伝子は、10、8、6、1、0.7 kb の 
mRNA を発現するが、chaste 変異体では10 kb のものだけが無くなっている。これは、10 kb mRNA が
他のものより上流から転写され、これが P 因子挿入によって中断されるためであることが cDNA の
解析から示唆された。一方、P 因子挿入付近にあり、5種の転写産物に共通のエクソンの欠失は劣性
致死となった。以上のことから、chaste 遺伝子は、雌の性的受容性の獲得に必要な10 kb の転写産物
と、生存に必須なその他の転写産物をコードしているものと考えられる。


P-14 ショウジョウバエにおける雑種の致死性に関するゲノム解析
	吉井基祐、柳生麻実、山本雅敏
	京工繊大・繊維・応用生物

 D. melanogaster雌とD. simulans 雄から生じる雑種雌は生存するが、雄は3齢幼虫期に致死となる。
simulans の Lhr (Lethal hybrid rescue )遺伝子は、この雑種雄を救済する。
 最近melanogaster の第2染色体にDf(2R)Pu-D17などの欠失を用いた場合、その雑種雄にLhr が存
在しているにもかかわらず致死となることが明らかになった。このことから、救済遺伝子Lhr が存在
していながら雑種が致死となる染色体領域を第2染色体の欠失を用いて調査した。
 系統として入手可能な第2染色体の欠失のほぼすべてを調査した。Df(2)/Cy ♀×Lhr ♂の交配から
得られる雑種雄からCy+♂の個体数とCy ♂の個体数の比を求め、雑種生存率の比較を行った。また
雑種雄がLhr により救済されない場合、発生過程のどの時期に致死となるかをいくつかの欠失につい
て調査した。
 本研究では欠失によりLhr の救済効果が低下し雑種生存率が0.2以下を示した領域は、21B: 21D, 
27C; 28B, 36A: 40B, 44E: 45A, 55A: 55F, 57C; 57D、の6カ所であった。これらの領域はLhr の雑種
致死救済効果を抑制するのか、あるいはLhr が救済する致死機構とは別の致死作用を引き起こす原因
となるのかもうひとつの救済遺伝子であるHmr との関係について議論する。


P-15 Drosophila auraria complex における雌による選択
	都丸雅敏、小熊譲
	筑波大・生物科学系

 雌による雄の選択(female choice)について,人工的に合成した求愛歌を用いた交配実験を行った.
一連の配偶行動の中で,雄は雌にむかって翅を振動させ,音(求愛歌)を雌に伝える.同所的に生息
するDrosophila auraria complexの4種の雄の求愛歌のIPI(inter-pulse interval)は種特異的であり,
D. biauraria: 13 ms, D. triauraria: 16 ms, D. auraria: 21 ms, D. subauraria: 11 msである.
D. biaurariaの雌は別種タイプのIPI(11 ms, 16 ms)の求愛歌があると雄を拒絶し,同種タイプの
IPI(13 ms)の求愛歌があると雄を受け入れることから,求愛する雄の受け入れは,IPIに基づき雌が決定
すると考えられる.今回,同種と別種の中間の値のIPIの求愛歌に対する雌の反応を詳しく調べることを
目的とした.IPIの値を最小1 msの間隔に設定した合成求愛歌を作成し,翅を切除した雄と正常雌のペア
にこれを与え,配偶行動を観察した.D. biauraria雌は13 msのIPI(同種タイプ)のとき最も交尾率が
高く,求愛雄に対する拒絶数が最も少なくなり,これまでの結果と一致した.また,IPIの値が同種
タイプから離れるにつれて交尾率が低下し,拒絶数は増加した.IPIに対する雌の反応(交尾率および
拒絶数)は,categorical(ある値のところを境に断続的に反応が変わる)というよりも,むしろ
continuous(連続的)であった.今回は1系統を用いての結果であるので,さらに,広く自然集団から
サンプルを得て実験する必要がある.また,D. triauraria雌を用いた実験も行ったので報告する.


P-16 オナジショウジョウバエの性的隔離遺伝子
	上野山 登久
	神戸学院女子短大

 オナジショウジョウバエ(Drosophila simulans)のS2系統の雌はD. melanogasterの雄との間で通常の
系統に比べ、非常に高い異種間交配率を示し、またD. yakubaの雄に対しても通常よりも高めの交配
率を示す。一方、S2と同時に採集されたS1系統の雌はmelanogasterの雄には通常よりわずかに高い
交配率を示すだけだが、yakubaの雄に対してはS2系統の雌よりも高い交配率を示す。S2の
melanogaster雄に対する高交配率は常染色体上の複数の遺伝子によるものである事がすでに報告した。
melanogasterに対する性的隔離をおこす遺伝子とyakubaに対する性的隔離遺伝子の一部が共通してい
るのではないかと思われるためS1とS2のF1雌についてmelanogaster雄とyakuba雄との間の交配率
を調べた。F1雌はmelanogaster雄と通常よりも高い交配率を示し、S1とS2で共通の遺伝子が関与し
ていることが示唆された。一方、F1雌とyakuba雄との交配率は低く相補性は認められなかった。こ
の結果はmelanogasterに対する性的隔離とyakubaに対する性的隔離には異なる遺伝子が働いているこ
とを示唆している。


P-17 雌の識別行動の遺伝的解析
	戸井基道、都丸雅敏、小熊譲
	筑波大・生物科学

 ショウジョウバエの配偶行動において雌による交配相手(雄)の識別は生殖的隔離を引き起こし、
種を維持するための重要な本能行動である。しかしその詳細な遺伝学的解析はなされていない。そこ
で近縁であるが強い性的隔離が見られるDrosophila ananassaeとD. pallidosaを用いて、雌の識別を支
配する遺伝子の単離を試みた。2種の雌は雄の求愛歌に対して種特異的な識別行動を示し、同種の雄
とのみ交尾する。雑種第一代、および染色体分析の結果、この行動はD. ananassae雌の識別行動が優
性であり、第3染色体に支配されていることが明らかになった。組換え体、およびD. ananassae雌の
識別を支配しているD. ananassaeの染色体部位をD. pallidosaの遺伝的背景に導入した戻し交雑体の解
析より、2種の雌の識別行動を支配する遺伝子座は、第3染色体左腕のDelta遺伝子座近傍にそれぞれ
位置づけられた。この結果は2種の種分化と強く関わっている雌の識別という本能行動が、一つの遺
伝子座の支配を受けている可能性を示唆している。さらに唾腺染色体へのin situ hybridizationによる
遺伝子座の同定、および分子遺伝学的解析について報告する。


P-18 性的隔離の弱まったP因子挿入系統288からのP因子切り出しの試み
	山田博万、久保朋子、都丸雅敏、小熊譲
	筑波大・生物科学

 Drosophila melanogasterとD. simulansは同所的に生息する形態的に非常に良く似た近縁種であり、
両者の間には強い性的隔離が存在している。この2種間の性的隔離のうち、D. melanogaster雌の遺伝
的、機能的要因について明らかにすることを目的とし、D. melanogasterのゲノム中にP因子PlwBをラ
ンダムに挿入した系統からスクリーニングされたD. simulans雄と高い交尾率を示す288系統の雌を実
験に用いた。
 D. simulans雄からの求愛数が288系統雌は野生型雌に比べ有意に多いことが分かっており、これは、
D. simulans雌の性フェロモンである(Z)-7-tricosene の産生量増加によると考えられた。また、雄の求愛
歌は雌の受容性に重要であることが示唆されている。その発信器官である雄の両翅を切除した場合と、
その受容器官と考えられる雌の聴覚器官の触角端刺を切除した場合の交尾率について調べた。その結
果、どちらについても切除時に有意な減少が見られ、288系統雌のD. simulans雄に対する受容性にと
って求愛歌の存在が重要であることが示唆された。
 今回、288系統雌とD. simulans雄との間の性的隔離が弱まった原因と考えられるP因子をΔ2-3を
利用して切り出し、P因子が挿入されていない系統の作製を試みた。その結果、P因子が切り出され
た49系統を得た(P因子の切り出された確率は0.52%)。これらについて交尾率を調べたところ、有
意な減少の見られた系統を得た。


P-19 雑種致死、キーワードは細胞周期? パンドラの箱は開けられた
	澤村京一
	シカゴ大・生態/進化

 現代総合の寵児(Dobzhansky学派)が種分化の研究に好んで用いたのはウスグロショウジョウバエで
あった。それ以前(20年代)に唯一知られていた種間交配(キイロとオナジ)は致死と不妊のために
遺伝学的解析が困難であったためである。40年頃まで、性染色体異常/3倍体/放射線照射などを駆
使した雑種F1の研究は続けられた(Sturtevant, Schultz, Muller, Pontecorvoら)が、その後停滞してしま
った。近年における致死/不妊救済系統の発見(1)は、雑種後代の作出を可能にし、遺伝/発生のモデ
ル生物であるキイロショウジョウバエが種分化研究の材料として見直されようとしている。
 発表者は、妊性の回復したオナジ/キイロ雑種雌をキイロに戻し交配した。ここで得られるF2雌
を形質(遺伝子不和合)を指標にしてスクリーニングし、バランサーを用いてオナジの遺伝子をもつ
染色体を抽出/固定した。これにより、第二左碗(バンド21から35/36)の遺伝子導入系を確
立した。この領域には以下のような遺伝子が存在する:致死/雌不妊/雄不妊(いずれも劣性)、眼
/翅の形態異常(半優性)、Lhrの致死救済効果を抑制する遺伝子。この中、劣性致死はCycEの対立
遺伝子であることが判明した(母集団に存在した突然変異を偶然拾った可能性は捨て切れない)。
 その他、上述の致死とは独立の胚期致死に関して、表現型解析、サテライトDNAとの関連(それ
ぞれ、T. L. Karr, C.-I. Wuとの共同研究)など、話題がいっぱい。幼虫期致死とあわせて(2)、いずれ
も細胞分裂機構が絡んでいるようで興味深い。
 (1) Davis et al. 1966,  (2) Orr et al. 1997.


P-20 7回膜貫通型カドヘリン分子 CAD47B の軸索束形成における役割の解析 
	碓井理夫1、平野伸二2、竹市雅俊1、上村匡1
	1: 京大・理・生物物理、2: 南カリフォルニア大・ドヒニ眼研

我々は、複雑で精緻な神経ネットワークの形成機構を解明するため、神経特異的な細胞間認識分子の
機能解析を試みている。選択的な軸索束の形成や標的認識に関わる分子の候補として、神経特異的な
カドヘリンスーパーファミリーの新しい分子、CAD47B に注目した。カドヘリンスーパーファミリー
の分子は、in vitro での接着活性やダイナミックな発現様式から、生体内での細胞間認識機構に関与
していると予想されているからである。構造解析から、ショウジョウバエ CAD47B は7回膜貫通領
域を持つ、まったく新しいタイプのカドヘリンスーパーファミリーの分子であることがわかった。最
近、ヒトのホモログ分子が同定され、種を越えた分子ファミリーを形成していると考えられる。cad47B 
の mRNA は、胚発生後期の中枢神経系の多くの細胞で見られたほか、末梢神経系のグリア細胞でも
発現していた。抗体染色の結果から、CAD47Bタンパクは、少なくとも軸索に局在していた。生体内
での機能解析を目指して、cad47B 突然変異株の分離を試みた。染色体バンド 47B 領域の近傍にマッ
プされる致死変異株のなかから、抗体染色を利用したスクリーニングにより、31 株の突然変異株を
分離できた。分子マーカーを用いた解析から、一部の変異株では、中枢神経系の一部の軸索束が分断
されたり、特異的な軸索束形成が阻害されるなどの異常を認めた。この結果から、CAD47B は、細胞
間認識分子として、軸索―軸索間の相互認識機構に関与していると推測できる。現在、運動神経の走
行パターンや末梢のグリア細胞の突起伸長などに注目して、解析を進めている。


P-21  DN-カドヘリンによる軸索走行の制御
	上村匡1、岩井陽一1、碓井理夫1、平野伸二2、Ruth Steward3
	竹市雅俊1
	1: 京大・理・生物物理、2: 現、南カリフォルニア大、3: Rutgers Univ.

神経回路構築における細胞間接着分子カドヘリンの役割を、遺伝学的手法を用いて直接的に検証する
ことを試みた。ショウジョウバエの神経系で発現するカドヘリン(DN-カドヘリン)の細胞外領域の
構造は、脊椎動物カドヘリンと比べ、サイズやアミノ酸配列のモチーフに関して異なる点がある。し
かし細胞内ドメインの配列はよく保存されており、カテニンとの結合が予想できた。事実、免疫沈降
法により、α-およびβ-カテニンと複合体を形成することを示した。また、培養細胞への遺伝子導入
実験により、DN-カドヘリンがホモフィリックな細胞接着活性を有することも明らかにした。DN-カド
ヘリンは恐らくすべてのニューロンで発現されており、軸索に強く濃縮している。さらに DN-カドヘ
リンが、軸索に存在する主要なカドヘリンであることを支持するデータを得た。分離した6系統のDN-
カドヘリンミュータントの中でも、機能をほぼ完全に喪失しているアリルでの軸索の走行パターンを
追跡したところ、次のいずれかの表現型が検出できた。(1)軸索束の正中線方向への移動の阻害。
(2)軸索束形成の失敗。(3)成長円錐の進行方向の誤り。(4)軸索伸長の停止。観察されたこ
れらの異常は、DN-カドヘリン cDNA の強制発現により回復した。従って、DN-カドヘリンを介した
軸索間の認識は、個々の軸索束の適切な位置へのシフト、軸索の束形成、そして成長円錐の正しい進
路決定に重要であることが明らかになった。現在、成虫まで生き延び著しい運動異常を示すアリルに
おいて、その脳の構造を検討している。


P-22  Use of E-cadherin-GFP fusion protein to study cell adhesion and migration during 
	Drosophila oogenesis.
	V.Verkhusha1, S.Tsukita1,2, H. Oda1
	1: Tsukita Cell Axis Project, ERATO, JST, 2: Fac. of Medicine, Kyoto Univ.

Coordination of cell migration and adhesion is essential for concerted movement of tissues
during animal morphogenesis. These events occur in Drosophila oogenesis when border cells
break from the anterior post-mitotic follicular epithelium, acquire a mesenchymal-like
morphology, and migrate posteriorly between nurse cells to the oocyte.  It was shown recently
that Drosophila E-cadherin (DE-cadherin) is highly expressed in somatic follicle cells and
moderately in germ cells.  To investigate its role in above mentioned processes we have
constructed DE-cadherin-GFP (DE-GFP) fusion protein by direct linkage of mutated GFP
(F64L, S65C, I167T) to the C-terminal cytoplasmic region of DE-cadherin. Targeted expression
of DE-GFP in border cells and part of posterior follicle cells was driven by UAS/GAL4 system.
DE-GFP has the same features as a native DE-cadherin: correctly localizes in the outer cell
membrane, exhibits adhesive properties, accumulates in the lateral sides near to apical part
of follicular epithelium visualizing the adherent junctions. GFP signal almost coincides
with fluorescence resulting from staining by both Abs, anti-GFP or anti-DE-cadherin. DE-GFP
visualize the tail region of migrating border cells providing a hypothesis that part of
adhesive molecules is pulled out and left behind on the surface of nurse cells as the border
cells detaches and moves forward. The forepart filopodia of moving border cells exhibit much
lower GFP signal in comparison with Abs staining, probably, due to high speed turnover of
adhesive molecules making insufficient the time for GFP chromophore formation. Now under way
are culturing experiments of isolated egg chambers to study DE-GFP trafficking and border cells
migration in dynamics.


P-23  キイロショウジョウバエにおける乾燥耐性遺伝子の探索
	栗山美登里1,  都丸雅敏2,  小熊譲2   
	1: 筑波大・バイオシステム、2: 筑波大・生物科学

 キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)は、高温多湿な熱帯が起源であると考えられて
いるが、現在では乾燥地域を含む世界中に分布している。分布を広げることができた理由の一つとし
て、キイロショウジョウバエが乾燥耐性を獲得したことが考えられる。しかし、この乾燥耐性がどの
ような遺伝的、生理的機構によって支配されているのかはまだ明らかにされていない。
 キイロショウジョウバエの乾燥耐性を支配している遺伝子を単離し、分子生物学的な解析を行うこ
とを目的として、P因子の改変型ベクターがゲノムに1コピー挿入されているP因子挿入系統を用い、
乾燥感受性突然変異体のスクリーニングを行なった。当研究室で所有されている約1400のP因子挿
入系統を順次スクリーニングした。その結果、ほとんどの系統は雌雄とも生存率が80%以上であった。
そのうち少数ではあるが、生存率が他の系統よりも低い系統がみつかり、これらを2次スクリーニン
グの候補とした。
 また、乾燥耐性に関わる遺伝子が、どの染色体にあるのかを調べるために、比較的乾燥感受性であ
るw系統と、乾燥耐性があるCS系統の正逆交配を行い、得られたF1の乾燥耐性を調べた。その結果、
w系統とCS系統の正逆交配で得られたF1の生存率は、どちらの交配のF1雌雄ともCS系統の生存率
と差がなかった。この結果は、 w系統の乾燥感受性に関わる遺伝子は常染色体上にあり、さらにその
遺伝子は劣性であることが示唆された。しかし、この結果からはw系統の乾燥感受性に関わる遺伝子
は一つだけなのか複数あるのかは判断できなかった。


P-24 翅毛スポットテストによる磁場の変異原性の検出
	小穴孝夫、岡田美紀江、池畑政輝
	(財)鉄道総研・環境生物工学

電磁場に変異原性があるか否かを検証するため、ショウジョウバエ翅毛スポットテストをおこなった。
変異スポットの出現頻度を高める目的で、通常のmwh/flr試験系に複製後修復の欠損突然変異mei-41
を導入した。3齢幼虫を5T(50000ガウス)の定常磁場に24時間連続曝露し、羽化後、翅を切り取
って変異スポットの有無を顕微鏡観察した。曝露群では、体細胞組換によるスポットが対照群に比べ
て有意に増加したが、その程度はごくわずかなものであり、5T磁場の変異原性は1.74mJ/m-2 secの紫
外線と同程度と考えられた。また曝露前後にビタミンEを投与した群では曝露の効果がほぼ完全に抑
制された。有機化学の領域では1T以下程度の磁場がフリーラジカルの寿命に影響を与えることが知
られている。ビタミンEが非特異的なラジカルスカベンジャーであることから、磁場が細胞内に偶発
的に生じるラジカルの寿命を伸ばすことで間接的に変異原性を発揮している可能性が示唆された。変
異スポットの大きさの分析から、スポットの形成は磁場曝露中に限られ、晩発効果はないと推測され
た。また、染色体不分離や末端欠失、点突然変異などによるスポットは曝露によって増減しなかった。


P-25 ショウジョウバエの性行動に関わる脳内構造の解析
	木戸麻実1,2、春日秀之1,3、粟野若枝4、伊藤啓4、石和貞男2
	山元大輔1,4  
	1: 三菱化学生命研、2: お茶大・理・生物、3: 東京工業大・工、4: 科技振・山元プロ

 動物の脳は種々の感覚器からの情報を処理・統合し、体の各部へ指令信号を送る神経回路の集合体
である。脳の複雑な情報処理のメカニズムを理解するためには、個体のそれぞれの行動を制御してい
る脳内構造を解明することが、一つの重要なステップになる。ショウジョウバエの交尾行動とその制
御機構はこのためのよいモデル系になる。通常オスはメスに対し積極的なアプローチを行うが、オス
の脳内の様々な領域を特異的にメス化させ、このような行動が消失するような個体を作成できれば、
メス化された部分がオス特異的性行動の制御に関わっている可能性が高い。
 我々はGAL4エンハンサートラップ系統のハエを用い、そのGAL4発現細胞をUAS-transformer に
より特異的にメス化させた。従来の研究では、tra 遺伝子を脳の一部で発現させてもオスの求愛行動
はあまり低下せず、バイセクシャルになるものがあるという結果が得られている。我々は186系統を
スクリーニングした結果、オスの求愛行動が低下する系統を6系統見いだした。中でもNP218系統は、
tra の発現によってメスに対する交尾行動が極端に低下し、特に交尾行動の一段階である求愛歌発生
は観察した25匹中1匹においてのみ認められた。しかし運動性は正常で、オスに対する交尾行動も
野生型同様ほとんど行わないことが分かった。これらの系統では、脳の特異的な一部の細胞群でのみ
GAL4の発現が見られたので、現在そのうちのどの細胞での発現が重要なのか調べるため、より多く
の系統の解析を行っている。


P-26 翅縁形成に関する遺伝子hiiragiのクローニング
	小倉啓司1、村田武英1、岡野栄之2、横山和尚1
	1: 理研・筑波セ、2: 阪大・医・神経機能解剖学、科技団(CREST)

キイロショウジョウバエの突然変異hiiragiは成虫の翅の縁が欠ける表現型を示し、NotchやSerrateと
の二重変異体の解析からNotch-Serrateシグナル伝達機構に関わることが示唆されている。hiiragi[P1]
はP因子の挿入によって誘引された突然変異である。我々はP因子の隣接配列をクローニングしてそ
の配列を基にノーザンハイブリダイゼーション解析を行った。その結果、Canton-SではP因子の5'側
にあたる領域で約4kb、3'側の領域で約3kbのmRNAが発現しており、hiiragi[P1]ではその両方でバン
ドパターンが変化していた。現在、これらのmRNAのクローニングとその解析を行っている。


P-27 翅縁形成におけるhiiragiの役割
	村田武英1、小倉啓司1、岡野栄之2、横山和尚1
	1: 理研筑波センター、2: 阪大・医・神経機能解剖学、科技団(CREST)

 Wingless蛋白質は背/腹軸に沿って発現し、翅原基の成長とパターン形成を調節する。翅縁における
winglessの発現と維持は、Notch、Delta、Serrate (Ser) が関与するフィードバックおよびcutによって調
節されている。hiiragi (hrg) 遺伝子の変異体hrg[P1]では成虫翅縁の欠失が観察されることから、hrg
は翅縁形成において何らかの役割を果たすと考えられる。hrg[P1]の表現型とよく似た表現型をもつ変
異体としてSer[D]が知られている。そこで二重変異体を作成したところ、hrg[P1]; Ser[D]/+では翅縁の
欠失の度合いがhrg[P1]単独およびSer[D]/+単独よりも大きいことが観察された。さらに、hrg[P1]と
deltexあるいはNotchとの二重変異体でも欠失の度合いが大きくなり、逆にHairless(この変異体では
Notchシグナルが増強されている)によってhrg[P1]の表現型は抑制された。このことは、hrg[P1]では
Notchシグナルが抑制されていることを示しており、翅縁形成におけるNotchシグナルにhrgが何らか
の形で関わることを示している。さらに、翅原基の背/腹境界に発現する遺伝子の発現がhrg[P1]では
抑制されていることが観察された。以上のことから、hrgは翅縁形成においてNotchシグナルに関与し
つつマージンオーガナイザーの制限された発現パターンの形成あるいはその発現維持において機能す
ることが考えられる。


P-28 神経上皮背腹軸方向の分化とDER
	八木克将1,2、鈴木利治2、林茂生3
	1: 生研機構、2: 東大・薬・神経生物物理、3: 遺伝研・無脊椎

 神経系の構築は始めに単純なパターンで幹細胞である神経芽細胞(neuroblast, NB)が現れることに始
まる。NBの出現パターンは神経系の発生において複雑なネットワークが作られる際の基礎となる。最
も初期のNBのパターンは体幹部で片半球当り前後軸方向に4列、背腹軸方向に3列に並ぶパターン
である。それぞれのNBは固有の組み合わせのマーカー遺伝子を発現することから、前後軸、背腹軸
の2次元の情報によってそれぞれの細胞のアイデンティティを獲得していると考えられる。前後軸の
情報に関しては分節化遺伝子が考えられるが、腹側、中央部、背側に分かれる背腹軸方向の分化がど
のような制御を受けているかについてはわかっていなかった。
 我々はescargot (esg) がごく初期 (stage6) の胚で背腹軸方向に神経上皮を3分するパターンで発現
することに注目しesgの発現をマーカーとして神経上皮の背腹軸方向の分化におけるEGFレセプター
(DER)の機能を解析した。従来のより後期の胚での表現型の解析からはDERは腹側のcell fateの決
定に重要と考えられてきた。しかし、今回解析したstage6ではDERシグナルが神経上皮の腹側ではな
く中央部の決定に関わっていることが明らかになった。
 現在、さらにDERシグナルによる神経系の背腹軸方向の分化のコントロールのメカニズムについて
解析を進めている。今回はesg以外の神経マーカーの発現の変化などについて発表する。


P-29 神経系形成時におけるグリア細胞の機能とグリア細胞の分化
	滝沢一永、堀田凱樹
	東大大学院・理学系研究科・物理学専攻

 神経系を構成する神経細胞とグリア細胞は共通の細胞(神経芽細胞)から作られる。この過程で、
ほぼすべてのグリア細胞はgcmを発現する。gcm変異体では、グリア細胞の分化が異常になり、神経
細胞に運命転換する。
 神経細胞は軸索を伸長する一方、グリア細胞は特定の位置に移動し、神経系が形成される。神経系
の形成時に、グリア細胞がどのような働きをしているか不明な点が多い。我々は、gcm変異体を用い
て、神経細胞特異的マーカーの発現、神経細胞の軸索伸長、グリア細胞の形態形成を解析した。
 その結果、グリア細胞の形態形成について、この変異体では、グリア細胞の細胞分裂は正常に見え
るが、細胞運動が異常になること、神経細胞の分化について、グリア細胞の分化が異常でも神経細胞
は正常に分化できること、神経細胞の軸索伸長について、pioneer neuronの軸索伸長は正常だが、 
follower neuronの軸索伸長は異常になり、motor neuronは正しい標的と結合できることが明らかとなっ
た。
 また、グリア細胞で発現することが知られている変異体とgcm遺伝子との関係についても解析中で
あり、あわせて発表したい。


P-30  glial cells missing の作用機構の解析
	秋山(小田)康子1 細谷俊彦2 堀田凱樹1,2
	1: 東大・理・物理、2: 東大・遺伝子

 神経細胞・グリア細胞は共通の母細胞から誕生する。glial cells missing (gcm)遺伝子は神経発生にお
いて細胞がグリア細胞への運命をたどるよう決定する因子である。これまでに、gcmの産物はN末端
側に新しいタイプのDNA結合ドメイン(gcmモチーフ)を持つこと、そしてgcmタンパク質が認識す
るDNAの塩基配列を明らかにした。
 強制発現系を用いた解析から、神経系の細胞にgcmの発現を誘導すると神経細胞になるべき細胞も
グリア細胞へと運命転換することが分かっていた。そこで、gcmは神経系にcommitされた細胞以外に
対しても細胞運命に影響を及ぼし得るのか、UAS/GAL4のシステムを用いて解析した。その結果、強
制発現されたgcmにより表皮細胞はステージ13になると、グリア細胞特異的な遺伝子、repoを発現
するようになることが明らかとなった。repo陽性となった細胞はFasIIIの発現を失い、形が円くなり
胚内部へと陥入する。また、由来の全く異なる中胚葉細胞においてgcmの発現を誘導しても、repo陽
性の細胞が現れ、体壁筋の形成が異常となった。このようにgcmは神経系以外の細胞に対しても影響
を及ぼすことが明らかとなった。しかし、gcmはすべての細胞に対して、また、あらゆるステージに
おいてrepoの発現を誘導できるわけではない。このことからgcmと協同して働く他の分子の存在が考
えられる。
 truncate formのgcmの強制発現の解析も行っているので、そのこともあわせて報告したい。


P-31  ショウジョウバエmusashi遺伝子の機能解析
	岡部正隆1*、今井貴雄1、来栖光彦1**、中村 真2、岡野栄之1
	1: 阪大・医・神経機能解剖学、科学技術振興事業団 CREST
	2: 基礎生物学研究所・形態形成部門

ショウジョウバエmusashi(msi)変異体は、剛毛の発生異常を示す常染色体劣性変異体として単離された。
剛毛は体表一面に存在する機械刺激受容器であり外感覚器(External sensory organ)と呼ばれる。1
つの外感覚器は4つの細胞(neuron, thecogen, tricogen, tormogen)から構成され、これら4つの細胞は
1つの感覚母細胞(Sensory Organ Precursor)が2回の非対称性分裂を行うことにより産生される。
msi変異体は、この2回の非対称性分裂による細胞の運命決定の過程に異常が生じ、正確に4種類の
細胞を産生できず、毛穴から2本の毛が生えてくる。musashiという変異体名は二刀流宮本武蔵の2本
の刀に因んだものである。
msi遺伝子座には神経系特異的に発現するRNA結合蛋白質がコードされていることが明らかとなって
いるが、現在のところ外感覚器構成細胞の運命決定におけるこのRNA結合蛋白質の機能は明らかにさ
れていない。我々は、Msi遺伝子産物の発現パターン、msi変異体の表現型の解析、およびRNA結合
ドメインにアミノ酸置換を施した変異型Msi蛋白質によるmsi表現型のrescue実験を行い、Msi蛋白質
は何らかの標的RNA分子に結合することにより細胞の運命決定を行っていることを明らかにした。現
在、標的RNA分子の同定のための第一段階として、SELEX法による標的塩基配列の同定を行ってい
る。最近の知見について報告したい。

  *現在の所属:遺伝学研究所 発生遺伝研究部門 **現在の所属:筑波大・バイオシステム研究科


P-32  グリア細胞の発生における repo 遺伝子産物の役割
	湯浅喜博1、吉川真悟2、岡部正隆1、岡野栄之1
	1: 阪大・医・神経機能解剖学、科学技術振興事業団 ( CREST )
	2: 筑波大・基礎医・分子神経生物学

 ショウジョウバエ repo 遺伝子は、光照射時の角膜表面の field potential を測定する 
Electroretinogram の波形の極性が逆転する repo変異体の原因遺伝子として単離された。repo 遺伝子
はpaired 類似のホメオドメインをコードし、その遺伝子産物は、midline グリア以外の全ての中枢神
経系のグリア細胞特異的に発現する転写因子であり、機能欠失型突然変異体の解析から、少なくとも
グリア細胞の終分化の過程に必要であることが明らかとなっている。本研究では repo 遺伝子のグリ
ア細胞の発生における役割を調べる目的で、酵母の転写因子である Gal4 の認識配列 ( UAS ) を repo 
cDNAの上流に有したトランスジェニックフライを作成し、全てのニューロブラストで Gal4 を発現
させるscabrous-Gal4 系統と交配することにより、 repo 遺伝子産物を中枢神経系内に異所的に発現さ
せその効果を観察した。その結果、我々は複数のグリア細胞のマーカー遺伝子が異所的に発現するこ
とを観察した。さらに、より直接的な下流標的因子を単離する目的で、yeast を用いた yeast one -hybrid 
法によるRepo 蛋白質結合領域のスクリーニングを行っている。ガラクトースの誘導によりRepo  蛋
白質を発現させるベクターとショウジョウバエのゲノムDNA 断片を含むベクターを酵母内に導入し、
Repo 蛋白質との結合によってレポーター遺伝子を活性させうるゲノム断片をスクリーニングした。現
在までのところ 3 万クローンのスクリーニングを行い、複数の陽性クローンを得ており、現在それ
らのクローンについての解析を行っている。


P-33  wingless類似発現するエンハンサートラップラインJ29の解析
	佐藤 淳、小嶋徹也、道上達男、西郷 薫
	東大・理・生化

 ショウジョウバエにおいて、Wntファミリーに属するタンパク質をコードするwingless(wg)遺伝
子は、非常に重要な働きを果たしていることが知られている。本研究室で得られたエンハンサートラ
ップラインJ29は、X染色体上1C領域にP因子が挿入しており、マーカー遺伝子であるlacZがwg
と非常に良く似た発現パターンを示している。wgと発現領域を比較した結果、成虫原基においてJ2
9がwgより広い領域で発現していた。さらに、wg突然変異体では、幼虫期の成虫原基での発現及び
胚期の発現の一部で、J29の発現はwgの発現の消失した部位で同様に消失した。wgの異所発現系
では、wgが異所発現した部位でJ29も異所発現した。これらの結果から、J29はwgの下流に存
在する遺伝子をトラップしたラインであると予想された。PCR rescue法を用いてP因子挿入点近傍の
ゲノム断片を回収し、回収断片を用いてのゲノムライブラリーのスクリーニング、及び、クロモソー
ム歩行を行った結果、P因子挿入点近傍約40kbのゲノム断片を得、転写ユニットを特定し、約2.5kb
のcDNAを得た。このcDNAの全塩基配列決定の結果、591及び575アミノ酸をコードする遺伝子で
あり、相同性検索の結果から、Wntファミリーの受容体であると考えられるfrizzledファミリーと高い
相同性を示すことが判明した。また、P因子の再転移を利用した突然変異体の作製を試みた結果、J
29の変異体と思われる独立な変異体を2系統得ることができ、完全変異体(胚性致死)と部分変異
体(幼虫期致死)であった。完全変異体を用いたmosaic解析の結果、wgと同様の表現型を得たため、
J29がwgシグナル伝達系の因子であると推測できる。


P-34  細胞が二倍体を維持する際のCdc2と転写因子との相互作用
	林 茂生
	遺伝学研究所・総合研究大学院大学

 細胞周期においてS期とM期が交互に起こることはゲノムのサイズを維持するために必須な条件で
ある。ショウジョウバエの幼虫はG1-S-G2-Mのサイクルを繰り返す二倍体の成虫細胞とM期に入らず
G-Sを繰り返して多倍体化する幼虫細胞とで構成されている。M期の進行に必須なCdc2カイネースも
しくはそのコファクターCyclinAを欠損する変異体では二倍体細胞が多倍体化してしまう。この結果か
らCdc2/CyclinAが二倍体の維持に中心的な働きを果たしていることが予想された(Hayashi, S. 1996, 
Development 122:1051-1058)。今回はCdc2/CyclinAがその上流の制御因子としてEscargot(Esg)、下
流の標的因子としてE2Fという二つの転写因子と相互作用することをしめす。E2FはG1-Sの進行を
促進する転写因子である。
 G2期の二倍体細胞で起こっていると予想されるのは以下のとおりである。
 1. EsgがG2においてCyclinA蛋白の安定な蓄積を促進する。
 2. CyclinAはCdc2と結合し、さらにE2Fと結合する。
 3. Cdc2/CyclinAとの結合の結果、E2Fの転写活性は阻害される。
      同時にユビキチン系による分解作用からも免れるのでE2F蛋白は大量に蓄積する。
 4. E2Fが不活性な状態ではS期は開始しない。
 上記のモデルを根拠となる遺伝学、生化学のデータをもとに議論する。


P-35 microsomal GST ショウジョウバエホモログの発見とクローニング
	鳥羽岳太1、相垣敏郎1,2
	1: 都立大院・理・生物、2: 科技団・さきがけ

 glutathione S-transferase(GST)は細菌から哺乳類まで普遍的に存在する酵素で、各種毒性物質のグ
ルタチオンコンジュゲート生成を触媒する。GSTには多くのアイソザイムが存在し、哺乳類では多コ
ピーの遺伝子にコードされる可溶性の酵素と、それぞれ単一コピーの遺伝子にコードされる2種類の
膜結合型の酵素が知られている。可溶性、膜結合型ともにGST活性を持つことから解毒作用に重要な
役割を持つと考えられているが、突然変異体が得られていないこともあり、それぞれが生体内で果た
す具体的な機能の解明には至っていない。ショウジョウバエゲノムの強制転写による表現型を指標と
したスクリーニングにおいて、成虫の複眼、翅、触角等の形態に異常の見られた1系統で強制転写さ
れているRNAの塩基配列を決定したところ、ヒトとラットの膜結合型GSTの一つであるmicrosomal 
GSTに高いホモロジーを持つペプチドをコードしていることが判明した。異所的発現が強い形態異常
を引き起こすことは、microsomal GSTが形態形成に何らかの機能を持っている可能性を示唆している。
現在、この系統をもとにベクターのjump outによる機能喪失突然変異体の作成を試みている。異所的
発現と機能喪失変異の解析によりmicrosomal GSTの生体内機能が明らかになるものと期待される。


P-36  強制発現ベクターを用いたGene Search システムの開発
	相垣敏郎1,2、 鳥羽岳太1
	1: 都立大院・理・生物、2: 科技団・さきがけ

 異所発現による表現型の検索は遺伝子機能に関する情報をうるための有効な手段の一つである。私
達は異所発現による表現型をてがかりにして遺伝子を探索する方法としてGene Searchシステムを開
発した。条件的に制御できる強制発現ベクター(Gene Search vector)として、Pエレメント末端反復配列
の内側にGAL4転写因子の標的配列であるUAS及びその下流にhsp70遺伝子の基礎プロモーターを挿
入したものを構築した。GSベクターが挿入された系統(GS系統)においては、GAL4タンパク存在
下でベクターに隣接するゲノムDNAが強制的に転写される。約700のGS系統をGAL4発現系統に交
配して、F1成虫の表現型をスクリーニングした。成虫原基のほぼ全域に発現されるようなGAL系統
と交配した場合には約25%が致死、15%が可視的表現型を示した。また、GAL4発現が特定の組織や
細胞集団に限定されている系統(dpp-GAL4やsev-GAL4)を用いた場合には、先の交配で致死になった
株の多くが可視的な表現型を示した。
 強制転写産物の5'領域はベクター末端部の配列を含み、3'端にはpoly (A)鎖が付加される。これらの
配列に対応するプライマーを用いてRT-PCRによりcDNAを増幅して塩基配列を決定した。データベ
ースの検索を行ったところ、表現型を示したGS株の内約70%が未知遺伝子への挿入であり、Gene 
Searchシステムが未知遺伝子を検出するための方法として有効であることが示された。


P-37 異所発現システムを用いた運動神経回路形成ミュータントの探索
	梅宮猛1,2、竹市雅俊1,2、相垣敏郎3,4、能瀬聡直1
	1: 基生研・行動制御、2: 京大・理・生物物理、3: 都立大・理・生物、4: 科技団・
	さきがけ

 ショウジョウバエの幼虫の蠕動運動や方向転換に関与する体壁の筋肉系は半体節あたり30本の筋
繊維で構成される。これらを支配する約40個の運動神経細胞は、胚発生後期に各々決められた経路
で軸索を伸長し、特定の標的筋肉を認識しシナプス結合する。正確な神経回路の形成過程は重複した
分子メカニズムを備えていることが示唆されており、その解明には遺伝子ノックアウトと併せて異所
発現の実験が有効であると考えられる。そこでゲノム中にUASプロモーターをランダムに挿入した一
群のGS株(gene search lines;相垣ら、本研究会発表参照)をこの系に適用し、筋肉での異所発現が運
動神経の走行や標的認識に異常を生ずるような遺伝子を探索することを試みた。GSベクターがトラッ
プした未知の遺伝子を体壁の全筋肉で強制発現させるために、各GS株を24B-GAL4株と交配させた。
このGAL4株は、筋肉組織においてのみ特異的な発現を神経支配以前からもたらし、三齢幼虫の筋肉
でも強い発現が持続する。各F1の三齢幼虫を抗FasII免疫染色し、運動神経の投射パターン、シナプ
スの形態等を観察した。その結果これまでに興味深い表現型を示す株を幾つか見出した。クラス1:
特定の筋肉の形成がおかしくなり(欠損、異常な癒着など)、二次的な変化が運動神経に見られるも
の。クラス2:筋肉の分化は形態的には正常であるが、運動神経の配線様式が一部乱れるもの。クラ
ス2は特定の運動神経に対し活性をもつ標識シグナルを異所的に提示した結果である可能性が高い。
本研究会ではこうした途中経過を報告する。


P-38 Dual Tagging Gene Trap
	粟野若枝、Tamas Lukacsovich、Zoltan Asztalos、馬場浩太郎、山元大輔
	科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

 我々は、プロモーター領域を持たないGal4遺伝子を5'側に、polyA部分を持たないwhite遺伝子を
3'側に連結させ、これをP因子ベクターに挿入した。このベクターを用いて、2段階スクリーニング
によるジーントラップを試みた。ホストの遺伝子のプロモーター下にP因子挿入が生じた場合にのみ
Gal4が発現し、一方挿入white遺伝子は、ホストの遺伝子のpolyA付加シグナルが利用できる場合に
のみ発現することが期待される。まず、P因子の再転移法による突然変異体の作出を単独の雄100匹
から行った。作出された系統のF2世代で3'側のwhite遺伝子の発現による眼の色の変化によって、一
次スクリーニングを行った。ここでwhite遺伝子の発現が強い系統を7系統と、中程度の発現の系統
を10系統樹立した。次に、二次スクリーニングを5'側のGal4遺伝子の発現の有無で行った。この際、
Gal4遺伝子の発現は、Gal4/UAS-レポーター遺伝子のシステムを利用して検出した。レポーター遺伝
子にはルシフェラーゼを用い、Gal4遺伝子の発現をルシフェラーゼ活性として測定し判定することを
試みた。測定により4系統からGal4遺伝子の発現があると思われる結果が得られた。一次・二次スク
リーニングより得られた系統について、組織レベルと遺伝子レベルでの解析を進め、以下の検討を行
った。(1)ルシフェラーゼ活性の測定によるGal4遺伝子の発現のスクリーニング法。(2)Gal4遺伝子の
発現とwhite遺伝子の発現の相関性。(3)ジーントラップが成立した可能性とこのベクターの有用性。
今回は、まだ一部解析中ではあるが、現在までに得られた結果について発表する。


P-39 キイロショウジョウバエの交尾持続時間に異常を示す fickle 突然変異体の
	解析
	馬場 浩太郎1,2、竹下 綾3、従二直人3、馬嶋 景3、山元大輔1,3 
       1: 三菱化学生命研、2: 東大・理・物理、3: 科学技術振興事業団・山元行動進化プロジェクト

 キイロショウジョウバエは、遺伝的に規定された複雑な交尾行動を示すことが知られており、こう
した行動の制御機能やその発生の分子メカニズムを明らかにするのに適したモデル系である。fickle 
(fic) は、交尾行動の異常を指標にしたスクリーニングによって単離された P 因子挿入突然変異系統
の一つで、野生型では交尾時間は15分でほぼ一定しているのに対し、fic の雄の交尾時間は全体的に
短く、かつ不規則な分布を示す。また羽化後の寿命の平均が野生型の約44日に比べて、約14日と短
い。交尾時間に異常をきたす突然変異体は他に一つ知られているものの詳しい解析は行われておらず、
交尾を制御する分子生物学的メカニズムを解明できると期待している。
 fic 系統のP 因子挿入点近傍の染色体領域には、チロシンキナーゼ Src29A をコードする転写単位
があることがわかっている。蛹期の中枢神経系でこの転写単位の発現を調べたところ、組織全体にわ
たって弱く発現するほか、キノコ体や触角葉など一部の細胞で強い発現が時期特異的に見られた。 fic 
ホモ接合体に、蛹の時期を中心に三齢幼虫から羽化までの期間、Src29A 正常型遺伝子の cDNA を熱
ショックプロモーターで強制発現させたところ、交尾時間が不規則となる表現型および短命の表現型
が共に回復した。これに対して成虫における cDNA の強制発現では表現型は回復しなかった。このこ
とからこの遺伝子が fic 表現型の原因遺伝子であることが示された。同時に、表現型が顕在化する成
虫のステージではなく、それに先行する変態の過程において、この遺伝子が重要な働きを果たしてい
ることが示唆された。


P-40 交尾後の生殖器連結解除に異常をもたらすキイロショウジョウバエlingerer
	の解析
	国吉久人、山元大輔
	科学技術振興事業団、山元行動進化プロジェクト

 キイロショウジョウバエの配偶行動は、雄バエの雌バエに対する追跡行動に始まり、ラブソング、
リッキング(雄が雌の交尾器をなめる行動)を経て交尾に至り、雌雄の分離によって終結する。lingerer
変異体は、P因子挿入によって得られた突然変異体であり、この変異体の雄個体は、交尾に至る過程
や交尾中には異常を示さないが、交尾終了後、連結した交尾器を速やかに解除することができない。
そのため、雌雄がつながったままの状態が数秒から長いものでは10分ほど続く。この突然変異の原
因遺伝子を同定するために、P因子挿入部近傍、約30kbにわたってゲノムウォーキングを行い、2つ
の転写単位AおよびBを見出した。ノーザンブロット解析では、転写産物A(4.6 kb)は変異体で発現量
が減少していたのに対して、転写産物B(1.2 kb)は野生型と変異体との間に発現量の差は認められなか
った。また、P因子は、Aの第一イントロンに挿入されていた。以上の結果から、Aがlingererの原因
遺伝子である可能性が高いと考えられた。転写産物Aは、推定分子量150 kDの新規タンパク質をコ
ードしており、ホモロジー検索の結果、ヒト、マウス由来の機能不明のタンパク質と部分的に高いホ
モロジーを示した。また、転写産物Aは、胚期から成虫期にかけて全ステージで発現しており、in situ 
hybridizationから、胚期では神経系と生殖腺の原基に、3令幼虫後期では脳、生殖腺、imaginal disc
に発現が見られた。現在、タンパク質レベルでの発現様式を解析するために、抗体を作成中である。
また、レスキュー実験を行うために、A、Bの各cDNAについて、形質転換バエを作成中である。


P-41 y, scと相互作用する遺伝子diversの構造と機能
	仁田坂英二
	九大・理・生物

 キイロショウジョウバエのX染色体に位置するdivers(dvr:1-28.1, 8D8-9)の突然変異体は単独で
は暗色の短い翅をもち、体長も短くなる等の表現型を示すが、X染色体の突然変異であるyellow, scute, 
forked等との二重突然変異はまた異なった表現型を示す。特にyellowとの二重突然変異は翅がCy等と
同様な反った翅を持つようになる。
 P因子をX染色体に転移させることでdvrの挿入突然変異を独立に3系統得た。挿入しているP-lacW
は3系統全てにおいて同じ位置に同じ向きに挿入されていた。現在、このP因子の挿入部位の近傍の
ゲノム領域80 kbをクローニングし、転写産物の解析を行っている。P因子挿入系統のP因子を再度
転移させた結果、ほとんどが野生型に復帰したが、一部は弱い表現型を残したものや著しい表現型の
もの、致死となるものが得られた。UAS-y[+]、GAL4を用いた実験から体色とdvrの表現型には明らか
な相関はなく、またあるy[+]Yを持つ系統との交配によって致死が誘発されることも明らかになった。
これらの解析を通してdvr遺伝子の機能にもせまっている。


P-42  bHLH-PAS 蛋白質ヘテロダイマー、trachealess/dARNTとsingle-
	minded/dARNTによるbreathless の転写制御
	大城朝一、西郷薫
	東大・理・生化

ショウジョウバエにおける脊椎動物のFGF 受容体のホモログの一つであるbreathless(btl) は、胚期に
おいて気管系を構成する細胞及び、CNS mid line precurser cells(MLP) において発現している。これら
の組織におけるbtl の転写制御機構を明らかにするために、 レポーター遺伝子としてlacZ 遺伝子を
用いたエンハンサーアッセイを行った。最終的に気管系及びMLP での転写に必要な最小限のDNA 断
片、約 300bpを同定した。この配列のなかには、MLPで特異的に発現しておりbHLH-PAS タイプの
転写因子である Single-minded(SIM) が結合する配列 TACGTG が三カ所存在していた。これらの配列
に特異的に変異を入れるとMLPでの発現が失われたことから、実際にSIM がこの配列を標的として
DNA に結合しbtl の転写を活性化していることが示された。興味深いことに、MLPと同時に気管系
の発現も失われた。同じくbHLH-PAS タイプの転写因子の転写因子であり気管系で発現している
tracheless はその変異体の解析から、気管系の発生に必要であることが示されている。TRH とSIM は 
DNA結合領域が非常によくにており、よってTACGTGを共通のターゲットにしてbtl の気管系及び
MLP の発現を活性化することが予想された。そこで、TRH とSIM の共通のヘテロダイマーの相手と
予想されるARNT 遺伝子をショウジョウバエでクローニングし(dARNT)、実際にTRH とdARNT は
ヘテロダイマーを形成しCME 配列に結合することを示した。dARNTはMLP でも発現しており、よ
ってSIMともヘテロダイマーを形成し、btl を含む下流の遺伝子群の転写を活性化していることが予
想される


P-43  ショウジョウバエの初期胚における遺伝子発現のシミュレーション
	濱橋秀互 1、北野宏明 2
	1: 慶應大・理工・計算機科学、2: Sony Computer Science Laboratory
 
 生物の発生,形態形成などの生命現象は,極めて複雑なものである.多くの種類の細胞が独立に,し
かし一方では相互に作用しながら,分裂・分化・変形をして形態を作り上げていく.このときにそれ
ぞれの細胞の状態を完全に把握したり,予測したりすることは直観的な方法では非常に困難であると
もいえる.そこで,それらを計算機上に持ち寄り,相互作用をシミュレーションすることによって,
発生の過程を,時間を追って調べることが可能となる.この方法によって,それらの反応の再現や,
実験方法の様々な変更などが容易に行えるようになる.
  本研究では,シミュレーションモデルとして,ショウジョウバエの初期胚を選択した.その中でも
特に胚発生時における前後軸の体節形成に注目している.その体節形成に主として関与する母性効果
遺伝子(bicoid,nanos),ギャップ遺伝子(hunchback,Kruppel,knirps,giant),ペアルール遺伝子(even-
skipped) などの遺伝子群の相互作用を計算機上に再現し,それらの反応の様子を観察する.その結果
として,実際のショウジョウバエの胚におけるそれらの発現パターンとよく一致したパターンをシミ
ュレーションによって得ることができた.このように,実際の生物実験に即したシミュレーションを
行うことが,これからの生物学の一つのパラダイムとなると考える. 


P-44 少数因子の相互作用を数理モデルにかける意義について
	武田裕彦1、John Reinitz2
	1: 九大・理・生物、2: Brookdale Center for Molecular Bio., Mt. Sinai Medical School

 現象に関わる因子の数は理解が進むに連れてどんどん増えて行く。
 少数因子間相互作用を定義した上で集団の世代を離散力学系として追ったとき,部分系内相互作用
(connectivity)に現れる傾向(predisposition)を数理として論じたい。
 具体的事例として次の事象を扱う。ショウジョウバエDrosophila melanogasterの背腹軸形成は卵細
胞外で形成された位置情報のシグナルが胚の腹側でだけ核内にまで伝達されることによって達成され
る。この位置情報伝達系をニューラルネットでモデル化し、S/N比ができるだけ大きくなるようにデ
ザインしてみた結果と、実際の分子系で起こっている相互作用とを対比して考える。伝達系路は冗長
性を持つか?...->A->B->C->...という因果の連鎖があったとき、淘汰がその経路の冗長性を高める(=雑音
に対する抵抗性を強める)方向に働いたとすれば、Aという因子の効果が直接Bだけではなく、(機
能的な)時間遅れによってCまでおよぶ、という変化が起こる状況が期待されます。これは情報伝達
システムが雑音を伴うとき、転送する文字列に冗長性を与えて信頼性を保つのとは逆の発想で、因果
の系列の上で、各因子の効果がある範囲にわたり、重なり合うことによって信頼性を高めることを意
味します。
 更に異なるデザインの下では機能的に相同な遺伝子カセットが異なる傾向を示す例としてフィ−ド
バック制御によって系がon demandに使われている生体防御系という事象では上の解が現れない事を
示し、形原の細胞内局在をもたらすシステムに内在するtrade-offについても説明します。


P-45 ショウジョウバエのフェノールオキシダーゼ 
		−in situ ハイブリダイゼーション法による遺伝子座の推定−
	木村宏美1、山田恭子1、松田宗男2、浅田伸彦1
	1: 岡山理科大・理・生物、2: 杏林大・医・生物

 無脊椎動物のフェノールオキシダーゼ(Phenoloxidase: PO)はメラニン色素の形成、クチクラの硬化、
異物認識、生体防御などに関わる多目的的な酵素で、体内では不活性な前駆体プロフェノールオキシ
ダーゼ(Prophenoloxidase:proPO)として存在している。キイロショウジョウバエ(Drosophila 
melanogaster)のproPOには、活性化するとモノフェノールを酸化するA1と、モノフェノールは酸化し
ないがジフェノールを酸化するA3の2種類のアイソフォームが知られている。
 A1の構造遺伝子であるMoxの遺伝子座は、遺伝学的・細胞学的方法により第2染色体右腕79.6、
唾腺染色体では55A-Bであり、A3の構造遺伝子であるDox3の遺伝子座は、遺伝学的方法により第2
染色体左腕53近傍であると報告されている。そこで本研究では、キイロショウジョウバエにおいて
proPO A1のcDNAをプローブとしてin situ ハイブリダイゼーションを行い、Moxの唾腺染色体上の
位置を確認した。その結果、第2染色体右腕の55Aのみにポジティブなシグナルが見られ、Moxの遺
伝子座のより詳細な位置を決定することができた。また、近縁種のアナナスショウジョウバエ(D. 
ananassae)において同様の実験を行ったところ、第3染色体の65Dにシグナルが見られ、ここにキイ
ロショウジョウバエのMoxと相同性がある遺伝子が存在することがわかった。


P-46  形態形成運動における細胞間接着のダイナミクス
	小田広樹1、竹市雅俊2、月田承一郎1,3
	1: 月田細胞軸プロジェクト、ERATO、JST、2: 京都大・理・生物物理、3: 京都大・医・分
	子細胞情報

 ショウジョウバエの原腸陥入では、上皮性の細胞が間充織性の細胞 (中胚葉細胞) に転換すると同
時に、胚内部へ進入するダイナミックな形態形成運動が見られる。私たちは、この中胚葉の陥入運動
を支配する分子メカニズムの解明を目指し、細胞間接着や細胞骨格のダイナミクスを追究している。
 DEカドヘリンは初期胚における中心的な細胞間接着分子であるが、予定中胚葉では原腸陥入を機に
そのDEカドヘリンは消失し、DNカドヘリンに取って代わる。この中胚葉におけるカドヘリンのサブ
クラスの切り替えは、twistやsnailなどの中胚葉の分化決定因子の制御下で厳密に行われるが、その
蛋白レベルでの切り替えはかなりゆっくりとしたもので、E型からN型へカドヘリンのサブタイプが
変わることによって生じる接着性の差異が陥入運動の動力として貢献している可能性は非常に低いこ
とが示唆された。現在までの私たちの解析結果は、DEカドヘリンによる接着の消失過程が原腸陥入に
おける中胚葉の形態形成運動に重要であることを支持している。その過程でDEカドヘリンは、細胞
骨格の再編成や細胞膜の脱極性化に伴って細胞膜上でダイナミックな挙動を示した。本研究会ではこ
のカドヘリンの挙動に加え、カドヘリンと係わりのある分子の挙動を合わせて紹介し、形態形成運動
におけるカドヘリン接着のダイナミクスに関して議論したい。


P-47  Dppシグナル伝達系におけるp38 MAP kinaseの機能
	安達卓1、中村真2、入江賢児3、友安慶典2,4、佐野頼方1、森英治3
	上野直人2、松本邦弘3、西田育巧1
	1: 名大・理・生物、2: 基生研・形態形成、3: 名大・理・分子生物、4: 北大・薬・生体機能

 MAPキナーゼ(MAPK)は、多様な刺激に応答して活性化される細胞内情報伝達因子である。我々
は酵母MAPK突然変異体hog1に対する相補検索により、MAPキナーゼスーパーファミリーのひとつ、
p38 MAPKのショウジョウバエホモログ (DmMpk2)を同定した。哺乳類から最近同定された細胞質キ
ナーゼ、TAK1はTGF-βやBMP-4などのシグナル伝達因子として機能することが知られるが、その
下流ではp38 MAPKが働き得ることが予測されていた。そこで、ショウジョウバエにおけるTGF-β
スーパーファミリーの一つ、Dppのシグナル伝達におけるDmMpk2の機能を検討した。
 構成的活性化されたDppレセプター(Tkv)を翅に発現させると、顕著な形態異常が生じる。ここ
にドミナントネガティブ型のDmMpk2やアンチセンス RNA、またはDmMpk2欠失染色体を導入する
と、いずれの場合にも有意な表現型抑圧が認められた。これらの抑圧は野生型DmMpk2の共発現によ
り解消される。また野生型DmMpk2のみを活性型Tkvと共に発現させると表現型の増強が認められた。
Tkvシグナルを受けて転写が誘導される遺伝子、ombの発現は、ドミナントネガティブDmMpk2によ
って抑制され、穏和なomb突然変異体の表現型はドミナントネガティブDmMpk2によって増強された。
さらに、活性化型Tkvの発現は活性型DmMpk2の量を上昇させることが生化学的に示された。以上の
結果は、翅などの正常発生において、DmMpk2がTkvの下流で機能することを示している。


P-48  Dppシグナルを負に制御するDaughters against dpp
	常泉和秀、鴨志田有子、多羽田哲也
	東大・分生研

 ショウジョウバエの翅ではTGF-β familyに属するシグナル分子Decapentaplegic(Dpp)が濃度勾配を
形成し位置情報を決定していると考えられている。その決定機構の解明のためdppに誘導される新規
遺伝子Daughters against dpp(Dad)を単離した。DadはDppのシグナル伝達因子であるMothers against 
dpp(Mad)のC末と弱い相同性を持っていた。
 翅成虫原基でのDadの発現は、dppや構成的に活性化されたthick veins(tkvQ253D)の異所性発現によ
り誘導され、FLP-FRT systemにより形成されたtkvクローンで抑制されることからDadはdppにより
正に制御されるターゲットと考えられる。tkv[Q253D]やMadを翅辺縁予定領域に異所性発現させた成
虫翅では翅辺縁部が前後軸方向に伸長するのに対し、Dadを異所性発現させた成虫翅では、極端な場
合翅が形成されずdpp変異株に似た表現型を示す。tkv[Q253D]やMadとDadを共発現させると互いの
表現型が相補され、正常翅様の表現型を示す。 optomotor-blind(omb)は翅成虫原基においてdppのター
ゲットとして知られる転写因子である。Madを異所的に発現するクローンではDppシグナルに依存し
ながらもomb発現量が増加するのに対し、Dadを異所的に発現するクローンではその発現が抑制され
る。
 以上の結果は、dppにより正に制御されるDadがDppシグナルに抑制的に作用することを示し、モ
ルフォゲンの作用機構に負のフィードバック制御が内包されていることを示唆している。


P-49  Dpp, Wg の標的遺伝子 dve による midgut の cell-type specification 
	中越英樹1,2、鍋島陽一1、松崎文雄1
	1: 国立精神・神経センター・遺伝子工学   2: さきがけ研究 21「知と構成」

 defective proventriculus (dve) 遺伝子は、視覚認識行動に異常をきたした突然変異体 dve[SH255] の原
因遺伝子として、我々が単離した転写制御因子である.dve 遺伝子の midgut における発現は midgut 
の最前部、最後部および中央部 (middle constriction のおきる前後) に認められた.midgut の最前部は
前胃 (proventriculus; PV) の外層を構成する領域であり、致死変異 dve[1] の表現型は、PV の形態異常
を示し1齢幼虫で致死となった.PV は外層、中間層 (mesoderm-free のかぎ穴構造に由来)、内層の3
層から構成され、PV の形成には、かぎ穴構造に発現する Hedgehog (Hh), Wingless (Wg) の活性が必
須である.midgut 最前部における dve の発現はWg に依存している事が明らかとなった.
   一方、midgut 中央部は幼虫における middle midgut (copper, interstitial, large-flat, iron cells)
を構成する.これらの細胞型の決定には、Decapentaplegic (Dpp) および Wg の活性が必要である.dve[1]
はエンハンサートラップ系統であり、1齢幼虫における lacZ の発現 (dve[1]-lacZ) は interstitial,
large-flat cells に認められ、copper cells には発現していなかった.copper cells の specification
に必須である labial (lab) は、その発現が Dpp-dependent であるが、midgut 中央部における dve の発現
もまた Dpp に依存していた.dve mutants においては、dve[1]-lacZ の発現が copper cells においても
異所性に発現するようになり、copper, interstitial cells の配列に乱れが生じていた事から、midgut の
細胞型特異性の決定において dve 遺伝子が Dpp signal の標的遺伝子として重要な機能を果たしている事が
明らかとなった.


P-50  Na チャネル異常突然変異 para の神経筋接合部電位記録による解析
	小林紀雄1,2、田中良晴2、蒲生寿美子2、小松 明○1
	1: 東女医大・1生理、2: 大阪府大・総合・自然環境

 キイロショウジョウバエの行動異常突然変異のひとつである para の成虫は高温条件で麻痺を引き
起こす。 para は電位依存性 Na チャネルのα-サブユニットをコードする遺伝子であり、また高温条
件下では神経の活動電位がブロックされることが知られている。本研究では、3令幼虫の神経筋標本
を用いて神経刺激によって誘発される興奮性接合 部電位(EJPs)を腹部縦走筋 m.6 から記録し、神
経における活動電位発生の有無を判定した。
 まず、野生型 CS および para の3つのアレルにおける温度感受性を比較検討した。m.6 からは大
小2つのEJPs が記録されるが、大きな EJPs を指標にすると、para-ts1 は37℃で EJPs が完全に消
失し、para-ts3 では約6割が欠落したが、para-hd838 と CS では欠落はなかった。しかし、para-hd838 
は37℃で一部の標本で(14例中4例)小さな EJPs の欠落が認められた。したがって、幼虫の神経
筋標本を用いた活動電位ブロックの温度感受性の順位は、para-ts1>para-ts3>para-hd838≧CS とな
る。この順位は、幼虫の高温麻痺に対する感受性の順位、para-ts1>para-ts3>para-hd838=CS とよ
く一致した。
 つぎに、para-ts1 を用い、37℃でK チャネル遮断剤の TEA を与えたところ、自発性の神経放電
によるとみられる EJPs が生じた。37℃で自発性の EJPs の生じる TEAの濃度は para-ts1 で 5-10 
mM、CS で 1 mM 以下であった。この結果は、para における活動電位の温度感受性ブロックは機能
的な Na チャネルの密度が減少し、Na チャネル/K チャネルの比が減少したために生じるという仮
説(O'Dowd et al., 1989; Nelson and Wyman, 1990)を支持する。


P-51  ショウジョウバエ超らせん化因子の唾腺染色体上の分布 
	相田紀子1、広瀬 進1,2
	1: 総合研究大学院大・生命科学、2: 遺伝研・形質遺伝

 DNA の超らせん構造は転写や複製に重要な役割を担うと考えられている。真核生物には主に2タ
イプの Topoisomerase ( Topo I & Topo II ) が存在するが、これら単独では共にリラックス活性はある
が、負の超らせんを導入する活性は示さない。
 超らせん化因子 Super Coiling Factor (SCF) は、Topo II と協調してDNA に負のらせんを導入する
タンパク質である。現在までに、カイコとショウジョウバエから SCF の cDNA がクローニングされ、
DNA に負の超らせんを導入する活性の役割について in vitro での解析を行って来た。
 生体における SCF の役割を調べる端緒として抗体によるショウジョウバエの組織染色を試みたと
ころ、唾腺の核が染色された。そこで唾腺染色体を用いて interphase における genome 上での SCF の
局在を調べた。クロマチンが極度に凝縮したヘテロクロマチンの部分は染色されず、クロマチンが弛
緩して DNA 密度が比較的低い interband の一部が染色され、それらの多くは puff を形成していた。
さらに個体に熱ショックを加えた後に観察すると、これらのバンドの染色が消失し、新たに熱ショッ
クで発現誘導される遺伝子座位が染色された。これらの結果から、SCF は転写活性領域における DNA 
の超らせん構造の調節に関与していることが考えられる。


P-52 ショウジョウバエにおけるDNA helicase相同遺伝子
	鄭 相民1、川崎勝己1、榎本武美2、柴田武彦1
	1: 理化学研究所・遺伝生化学研究室、2: 東北大・薬

生物界で広く見られる染色体の組換えは個体の多様性及び種の維持、適応に関わってきたと考えられ
る。大腸菌や酵母においては染色体組換え機構に関わる遺伝子が数多く同定されており、初期過程に
働く遺伝子も知られている。特に酵母は分子遺伝学的解析により組換え機構に関する情報を蓄積して
きた。そこで我々は高等生物においてモデル動物でもあり、遺伝学の格好の材料であるショウジョウ
バエにおける染色体組換えの機構を解明することを目差した。まず、その機構の重要なステップであ
る初期過程に注目し、その手掛かりとして最も早い時期から働くといわれる酵素の一つであるDNA
ヘリケース遺伝子を単離することにした。DNAヘリケースはDNA代謝に関わる酵素群であり2重鎖
DNAを融解することによりDNA組換え、修復といった機構に重要な機能を持つ。大腸菌では、RuvAB, 
RecGや組換えの開始に働くといわれているRecBCD, RecQがヘリケースとして知られている。最近、
RecQホモログとして同定されたヒト遺伝性疾患原因遺伝子(BLM、WRN)は既知の組換え遺伝子で
あることが明らかになった。そのrecQ相同遺伝子の単離のため保存領域に基づいた一連のデジェネレ
ートプライマーを作製し、ショウジョウバエの染色体DNAを鋳型にPCRにより目的の断片を増幅し
た。得られた断片をプローブとして用い、ショウジョウバエのライブラリーから複数のrecQ ホモロ
グの陽性クローンを分離した。塩基配列を決定した結果、単離された遺伝子を暫定的にDHQに命名し
た。なお、in situマッピングやサザン解析によりこの遺伝子は染色体上に単一遺伝子として存在する
と考えられる。DHQ遺伝子の発現を知るためin vivoのmRNAを分離し、ノーザン解析により発生過
程における遺伝子発現のパターンを調べた。その結果、雌や初期胚において顕著な発現が認められた。
この結果からは組換えおよび発生過程に働くことが示唆された。


P-53 ショウジョウバエ後腸で発現する engrailed の働きについて
	高島茂雄、塩月由美、村上柳太郎
	山口大 ・理・自然情報科学

 ショウジョウバエの消化管は胚発生期を通じて組織の領域化が進み、遺伝子発現パターンの異なる多
くの組織区画に細分化されることが示されている。しかし区画を成立させる遺伝子機構に関する知見
は乏しい。我々は9つの組織区画をもつ後腸の発生過程を解明する目的で、後腸組織区画特異的に発
現する遺伝子の同定と機能解析を行ってきた。胚発生期や幼虫期の後腸の特定の区画で発現する遺伝
子には、複数の分節遺伝子が含まれており、これらが後腸の区画形成に重要な役割を担っていると予
想される。特に、セグメントポラリティー遺伝子の一つであるengrailed(en)は背側区画特異的に発
現しており、後腸の背腹区画の形成に関与していると考えられた。en遺伝子の欠失系統や強制発現系
などを用いて後腸の背腹の区画形成の変化を調べた結果、幼虫期での en 遺伝子の強制発現は背側区
画で特異的に発現しているマーカー遺伝子の腹側区画での異所発現を誘導することが示され、さらに
電子顕微鏡による形態観察によって、腹側区画の上皮細胞が背側区画の細胞の形態的特徴を持つよう
に変化することがわかった。したがってen 遺伝子は後腸の背側区画を構成する細胞の分化を引き起
こす上位の遺伝子であると考えられる。組織区画の成立期に en が区画パターンの形成に関与する可
能性についても検討する。


P-54  Axonal Pathfinding におけるfasciclin Iの機能解析
	平本正輝、堀田凱樹
	東大・理・物理

 軸索が正しい道筋を選択しtargetへ至るまでの過程には幾つかのchoice pointと呼ばれる分岐点が存
在する。標識仮説によると異なった表面分子を発現している軸索が選択的fascilationをすることによ
り、正しい道筋を選択する機構が示唆されている。
 Fasciclin I 分子 ( FasI ) はAbelson Tyrosine Kinase と遺伝的相互作用をし、CNSの幾つかのNerve 
rootの形成に関与する事が示されている分子である。この分子はcommissure、ISNtおよびSNt形成時
に強く発現し、発現量は発生と共に変化する。細胞レベルで見るとISNtのpioneer neuronであるaCC
では強く発現するのに対して、そのsibling cellでありかつlongitudinal tractのpioneerであるpCCでは
発現が見られない。バッタではaCCのfollowerであるU neuronでも発現が見られ、また脳においては
Fas I positiveなpioneer neuronの幾つかがFas I positiveな細胞をたどりtargetへ至っていることが観察
されている。これらの事実はFas IがAxonal Pathfindingにおける標識分子であることを予想させる。
 本研究では強制発現により軸索の道筋選択におけるFas Iの機能解析を行った。FasIをftz-gal4によ
り強制発現させたところ、MP1 pathwayの軸索(Wild typeではlongitudinal tractを通りposteriorに伸
びる)が高い確率でISNt側にmisrouteすることが観察され、またpCC/vMP2 pathwayの軸索の一部が
SNtに伸びる例も確認された。Choice pointの観点からFas I の発現とAxonal pathfindingについて発表
する。


P-55  ショウジョウバエDRab1変異体での、ロドプシン輸送阻害と視細胞の形態
	変異
	佐藤明子、徳永史生、河村悟、尾崎浩一
	阪大・院理

 Rab蛋白質は低分子量GTP蛋白質に属し、細胞内小胞輸送の制御に関与している。我々は、ショウ
ジョウバエから9種のRab蛋白質をクローニングし、これらすべてについて、GTP結合・加水分解部
位に変異を導入した変異DRabを熱処理により発現する変異体(Dominant negative mutant)を作成中であ
る。これらの各変異体での視細胞における蛋白質の輸送阻害や形態変化を検討することにより、視細
胞の形態形成・維持への蛋白質選別輸送系の役割を明らかにしたいと考えている。本研究会では、
DRab1 mutantで観察された光受容蛋白質ロドプシンの輸送阻害と、視細胞の形態変化を報告する。
 DRab1(N124I)発現により、新生ロドプシンは輸送の初期の段階が阻害され糖鎖の一部がトリミング
された39kDaの合成中間体が蓄積した。抗DRab1抗血清による染色では、DRab1は、Golgi体に存在
することが示唆され、DRab1が新生ロドプシンのERからGolgi体への輸送に関与すると考えられた。
DRab1 mutantの形態を電子顕微鏡により定量的に解析した結果、DRab1(N124I)の短期的な発現により、
Golgi体が小胞集団へ置き換わることが分かった。また、このときER膜の膨潤化も観察されたが、そ
れ以外は正常な形態を保っていた。さらに、DRab1(N124I) の長期的な発現により、光受容膜ラブド
メアの縮退とERのmultilamella構造化、嚢胞構造化が起こることが分かった。しかし、カートリッジ・
シナプス構造には明瞭な変化はみられなかった。視細胞のような極めて分極化した細胞では、その領
域により、DRab1による小胞輸送の必要性が異なっていると考えられた。


P-56  ロドプシン合成過程におけるアスパラギン結合型糖鎖の意義
	片野坂公明1、河村悟1、徳永史生2、尾崎浩一1
	1: 阪大・院理・生物、2: 同・宇宙地球

 細胞内で翻訳された蛋白質は、その後も多くの因子の作用を受けて完成する。我々は、視細胞の光
受容タンパク質であるロドプシンの合成過程に必要な因子を同定し、その正常な構造と機能を作り上
げるための仕組みについて調べている。他の多くの動物のロドプシンと異なり、ショウジョウバエの
成熟ロドプシン(Rh1)からはアスパラギン結合型糖鎖が検出されない。しかし、ショウジョウバエにお
いてもロドプシン合成の初期には糖鎖が結合しており、発色団11シス3ヒドロキシレチナールの供
給に伴って糖鎖が切断され、成熟型となることが明らかとなった。このことから我々は、糖鎖がロド
プシンの最終的な機能に必要なのではなく合成過程に必要なものではないかと考え、推定糖鎖付加ア
ミノ酸に変異を導入したロドプシンをin vitroおよびin vivoで発現させ、糖鎖の付加位置とその蛋白
質合成過程における役割について考察した。
 このロドプシンの糖鎖付加可能なアミノ酸はAsn20とAsn196の二カ所である。無細胞蛋白質合成
系およびミクロゾーム膜を用いたin vitroでの糖鎖付加実験では糖鎖はその両方に付加したが、Asn20
の方により付加しやすい傾向が見られた。ついで、これらのアミノ酸に変異を持つトランスジェニッ
クフライを作成し、ロドプシン合成過程を調べた。その結果、Asn196を置換したハエでも野生型と
同様の糖鎖付加と糖鎖切断が観察されたが、Asn20を置換した場合には合成途中での糖鎖付加が観察
されず、糖鎖の付加位置はAsn20と決定された。加えて後者の場合、ロドプシンの合成過程が異常で、
成熟ロドプシン量の低下が観察されたため、糖鎖はロドプシンの成熟に必須であると考えられた。


P-57 ユークロマチン89A領域に存在するサテライトDNAとその近傍の遺伝子
	松林宏、山本雅敏
	京都工繊大・応用生物

 ヘテロクロマチンの主要な構成DNAとして、様々なサテライトDNAが見いだされている。キイロ
ショウジョウバエでは10数種類のサテライトDNAが知られており、それらは5bpから359bpの塩
基配列が高頻度に反復し、全ゲノムの約20%を占める。これらサテライトDNAは動原体近傍ヘテロ
クロマチンにのみ存在し、その機能についてはよく解っていない。我々は、第3染色体右腕ユークロ
マチン領域89Aに存在する遺伝子を解析中、主要なサテライトDNAとして知られているTATAAが
28回タンデムに反復している領域が存在するのを見いだした。この領域のサテライトDNAが系統間
でどの程度保存されているのかを知るために、サテライト領域を挟むかたちでプライマーを設計し
PCRにより解析を行った。その結果、系統により様々な長さの断片が増幅されてきた。この事は、系
統によりサテライトの反復回数が様々であることを示唆している。しかし系統内(個体間)ではその
反復回数は安定に維持されている様に見える。現在この考えを確かめるために塩基配列の決定を行っ
ている。哺乳類では個体間で反復回数の多型を示すマイクロサテライトが数多く知られているが、シ
ョウジョウバエでは今のところそのような例はほとんど見つかっていない。興味深いことに、このサ
テライトDNAより180bp離れた領域にP因子が挿入した系統ではそのP因子上のwhite遺伝子の発現
がvariegationを示す。この事はサテライトDNAによりvariegationが誘導される可能性を示唆する。


P-58 ショウジョウバエの幼虫視神経系の異常変異体の探索
	鈴木崇之、西郷薫
	東大・理・生化

 複雑な神経系がどのように遺伝子によってプログラムされて形成されるのかという問題を解明した
いと考え、まずより単純な神経系においてその形成が異常となる変異体を得ることを考えた。ショウ
ジョウバエは幼虫期と成虫期では異なる視神経系を持っているが、より単純な神経回路という点から
前者の幼虫の視神経細胞の軸索走行に着目し、この神経軸索路形成に関わる遺伝子を単離することを
目的として、その突然変異体の探索を行った。
 具体的には、第二、第三染色体、いわゆる常染色体について、劣性致死のglass-lacZ系統の胚期に
おける幼虫視神経細胞の軸索をX-gal活性染色により染色し、軸索走行が異常となる系統を探索した。
第2染色体で100系統、第3染色体で200系統、また既存の染色体欠損変異株で約100系統の中か
ら探索を行った結果、幼虫の視神経系の形成に関わる幾つかの興味深い変異体が得られ、それらの中
には新しい神経系の形成機構に関わると思われる変異体も存在した。
 得られた変異体は、1)視細胞群と視葉細胞群の分離が異常となった系統(TB40,45, 85, N173系
統)2)視細胞と視葉細胞は正常に移動するのにも関わらず視細胞の軸索が発生の途中の段階で消失
してしまう系統(N60系統)3)視葉細胞群が本来脳の腹側に埋接するはずが背側に移動するために
幼虫の視神経の軸索が胚の背側の表層へと伸びてしまった系統(TB149)等である。
 これらの中でも、3)のTB149系統は、視神経細胞の軸索を先導し脳の正しい位置へ導く役割を担
っていると考えられる視葉細胞群の陥入方向が異常であることが分かった。


P-59 ショウジョウバエ気管融合の解析
	亦勝−田中実穂、林茂生
	総合研究大学院大学、遺伝学研究所

 ショウジョウバエの気管系は、管状に配列した上皮細胞のネットワークである。我々は気管上皮の
融合において、転写調節因子Escargot が細胞接着分子DE-cadherin の発現調節と先端細胞の運動制御
に関与することをすでに報告した(Tanaka-Matakatsu, M. et al., 1996, Development 122: 3697-3705)。
現在、気管上皮の融合に必要な細胞メカニズムを明らかにするため研究を行っている。以前の細胞学
的な詳細な観察より、融合する気管の枝の先端細胞は、融合過程を通じて細胞のapical側に局在する
DE-cadherin のパターンを変化させること、先端細胞間の融合が完了するとapicalマーカーのCrumbs
が新たに局在することなどから、先端細胞のapical-basal 極性が融合過程において劇的に変化するこ
とを見出している。 
 これら細胞極性の変化について、
1. 気管細胞分裂の時の細胞軸
2. Microtubule 上のmotor protein で、プラス端に向かって移動するKinesin、マイナス端に移動する 
Nod 各々のlacZ fusion protein の細胞内の局在パターン を利用して、解析を行っている。
以上のことに関して、最近得られた結果を紹介します。 
 また、先端細胞の細胞運動性の亢進におけるesg、DSRF、pointed の関係についても紹介する。


P-60 ショウジョウバエFTZ-F1遺伝子の転写因子の同定
	増田祥子1、影山裕二2、広瀬 進1,2、上田 均1,2
	1: 総研大・生命科学、2: 遺伝研・形質遺伝

 FTZ-F1は、ショウジョウバエの正常な脱皮・変態に必要な転写因子である。FTZ-F1の時期特異な
発現はエクジソンによって調節されており、エクジソンパルス後に発現が誘導される。我々は既に
FTZ-F1遺伝子の時期特異的な発現には-0.7〜+0.5 kbの1.2 kbがcis調節領域として必要であり、さら
にこの1.2 kb内の-340 bp (site I)、+170 bp (site IIa)、+450 bp (site IIc) に時期特異的に発現
する因子(それぞれ、I-4、II-4、II-7と命名)が結合することを明らかにしている。
 このうちのsite IIaおよびsite IIcの塩基配列が、脊椎動物の核内レセプターの1つであるRORα1
の結合サイトのコンセンサス配列と一致した。RORα1のDrosophilaのホモログであるDHR3の抗体
がII-4およびII-7と結合することから、II-4およびII-7はDHR3であることが示唆された。次に、1.2 kb
のcis調節領域内のsite IIaおよびsite IIcにsite-directed mutagenesisによって変異を導入した断片と
lacZ遺伝子の融合遺伝子を持つtransgenic flyを作製し、lacZ遺伝子の発現を調べた。その結果、DHR3
結合部位に変異が生ずると発現量が大きく低下すること、しかし、時期特異的発現は維持されることが
明らかになった。このことより、DHR3がFTZ-F1遺伝子の発現に正に働く因子であること、また、DHR3以外
にも正と負に働く因子がFTZ-F1遺伝子の発現に関与することが示唆された。現在、他の因子について
解析中である。


P-61 転写因子FTZ-F1の機能
	上田 均、山田正明、広瀬 進
	遺伝研・形質遺伝

 FTZ-F1は、nuclear hormone receptor superfamiyに属する転写調節因子で、embryo後期、幼虫の脱皮
や変態期の特定の時期に、エクダイソンのパルスによって誘導され発現する。この幼虫脱皮や変態期
でのFTZ-F1の機能を探るため、FTZ-F1の変異株の解析をおこなった。P-elementのexcisionによって
作成した変異株FTZ-F1el7は、embryonic lethalであったため、hsFTZ-F1遺伝子を導入し、embryoの
後期の本来FTZ-F1が発現している時期に熱ショックを与え、FTZ-F1を発現した。その結果、約90%
のembryoが1齢幼虫に成ることができた。この1齢幼虫は、2齢となる時期になっても、脱皮せず、
1齢にとどまった。そこで、1齢幼虫の後期に、再び熱ショックを与えFTZ-F1を発現させたところ、
約40%が2齢幼虫に成ることができた。この2齢幼虫は、3齢と成る時期になっても、脱皮せず、
2齢にとどまった。そこで、再び熱ショックを与えFTZ-F1を発現させたところ、一部が3齢幼虫に
成ることができた。この3齢幼虫は前蛹期まで発生した。
 以上のことから、FTZ-F1は、時期特異的に発現することが、正常なembryogenesisおよび幼虫脱皮
に必要な因子であると考えられた。


P-62 ショウジョウバエ CaM キナーゼ II 遺伝子の転写制御解析
	高松芳樹1、中越英樹2, 3、西田育巧4、山内 卓5、大迫俊二1
	1: 東京都神経研・細胞生物、2: 国立精神神経センター・遺伝子工学、3: さきがけ研究21
	4: 名大・理・生物、5:徳島大・薬・生化

 カルモデュリン依存性プロテインキナーゼ II(CaM キナーゼ II )は、脳、神経系に多く存在し、
記憶を含む高次機能に関わると考えられる酵素である。我々はショウジョウバエを利用してこの遺伝
子の発現制御機構を調べている。これまでの解析で、CaM キナーゼ II 上流領域とLacZ 遺伝子の
fusion 遺伝子を持つトランスフォーマントでの Lac Z遺伝子の発現を調べた結果、 転写開始点より
上流 については500塩基対があれば、 LacZ遺伝子の発現は CaM キナーゼ II 遺伝子の発現パター
ンを反映した、脳、神経系特異的なものとなることを明かにしている。今回次の点を中心に発表を行
う。1)上流500塩基対について、この領域に結合して転写を制御する核内因子を想定し、これを5
つの小フラグメントに分けた後、ショウジョウバエ胚から調製した核抽出液を用いてゲルシフトアッ
セイを行った。その結果このうち1つのフラグメントについて強いシフトバンドが認められた。さら
に競合実験の結果から、この小フラグメントに対する核内因子の結合は配列特異的であることを確認
した。 2)CaM キナーゼ II の機能から推定してその発現パターンは脳高次機能中枢を中心としたも
のになると考えられる。上流500塩基対までの領域を導入したトランスフォーマントの3齢幼虫の脳
で、発現の局在を見いだした。3)CaM キナーゼ II 遺伝子の神経系での発現に必須の配列があると
すれば、D. melanogasterとD. virilisのゲノム DNA の塩基配列間でよく保存されているはずである。
実際に両者の ゲノム DNA の塩基配列の比較を行った結果、転写開始点付近に、複数の、よく保存
されている塩基配列を見いだした。


P-63 ショウジョウバエH2AvD遺伝子の強制発現による成長阻害
	大塚剛志 1、大迫隆史 1、相垣敏郎 1,2
	1: 都立大・理・生物、2: JST・PRESTO

ヒストン2Aバリアント、H2Av遺伝子は原生動物から脊椎動物まで進化的によく保存されている。他
のヒストン遺伝子とは異なり細胞周期に同調せず、またポリA鎖が付加されたmRNAを産生する。シ
ョウジョウバエのH2AvD遺伝子は成虫雌および胚期で強く発現され、翻訳産物は発生段階を通して
一定のレベルで存在することが知られている。またH2AvD遺伝子を欠失する個体は致死となるが、
hypomorphicな変異は得られておらず、その具体的な機能に関する情報は極めて乏しい。私達は強制発
現による表現型を手がかりにして遺伝子を探索するGene Searchシステムを用いて、幼虫の発育に関す
る変異体の探索を行ってきた。約700株のGS系統について、幼虫組織および成虫原基のほぼ全域に
わたって発現されるGAL系統(29BD)との交配によるスクリーニングを行ったところ、H2AvD遺伝
子にベクターの挿入が起こった2系統(GS3052およびGS3127)を得た。29BD/GS3052では三齢幼
虫期に発育が停止し、約2週間後に致死となり、29BD/GS3127では胚発生初期に致死となった。前
者ではH2AvD遺伝子の第二イントロン内にベクターが挿入されているのに対して、後者では転写開
始点の近傍である。従って強制転写産物は後者が全長のH2AvDタンパクをコードしているのに対し
て、前者は翻訳開始コドンを含む第1エクソンを欠失した産物を生成する。両者の表現型の差異はこ
れらの構造的に異なる産物の生物学的機能の差に基づくものと推察される。これらの変異体の性状に
ついて報告し、H2AvDの機能について考察する。


P-64 性ペプチドの作用経路に関わる突然変異体の探索と解析
	江島亜樹1、中山慎二1、相垣敏郎1,2
	1: 都立大・理・生、2: 科技団さきがけ

ショウジョウバエ雌の性行動は交尾により劇的に変化する。未交尾の雌が雄の求愛をうけると次第に
活動性を低下させて雄のマウンティングを許すのに対して、既交尾の雌は産卵管を突き出して交尾を
拒否し、活発な産卵行動を行うようになる。未交尾雌(処女雌)から既交尾雌への性行動パターンの
変化は、精液中に含まれる性ペプチド(SP)によって誘発される。36残基からなるSPは雄生殖器
付属腺で合成され、交尾の際に雌体内に注入される。雌体内の様々な部位においてSP遺伝子を異所発
現させる実験から、交尾拒否行動と排卵/産卵の促進には共通の標的部位が存在することが示されて
いる。しかしながら、ペプチドの具体的な作用機構についてはほとんど不明である。私達はSPの作用
機構を明らかにするために、排卵制御機構に異常を示す突然変異体のスクリーニングを行った。
P[GAL4]挿入系統のホモ接合体処女雌(ホモ致死についてはヘテロ接合体)の中で自然排卵を起こす
雌の割合を指標とした。現在まで約350系統のスクリーニングを行い、未交尾でありながら排卵を起
こし、且つ雄に対して交尾拒否行動を示すものが7系統得られた。これらの突然変異体においては、
SPにより活性化されるべき排卵制御経路がSP非依存的に活性化されていることになる。脳の一部を
破壊する実験や性モザイク個体の解析から、処女雌では排卵を抑制する積極的な機構の存在が示唆さ
れている。本研究で得られた突然変異体は排卵抑制機構に異常をきたしているものと推察される。現
在、プラスミドレスキュー法によりベクター挿入位置近傍のDNAを解析中である。


P-65 GFPで標識されたショウジョウバエ性ペプチドの生体内挙動
	Peyre Jean-Baptiste1、相垣敏郎1,2
 	1: 都立大・理・生物、2: JST・PRESTO

キイロショウジョウバエ雄の副精巣で生成される性ペプチド(SP)は36アミノ酸残基からなり、交
尾時に精液の一部として雌に渡される。雌に渡された性ペプチドは、交尾後の雌で観察される行動お
よび生理的変化を引き起こす(産卵管を突き出すことにより再交尾を拒否し、産卵を開始する)。性
ペプチドは、雌の体液中を通って、標的部位に達すると考えられている。本研究では、Green Fluorescent 
Protein (GFP)をマーカーとして、雌体内における性ペプチドの挙動を解析した。性ペプチドのプロモ
ーター配列の下流にGFP遺伝子を配置した融合遺伝子を構築し、形質転換体を作成した。形質転換し
た雄で発現する融合タンパクは蛍光を発し、性ペプチドと同様に副精巣内腔に分泌され、交尾により
雌に渡された。Gal4-UAS異所的発現システムを用いて、未交尾雌において融合タンパクを発現させた
ところ、約60%の排卵が観察され、SP-GFPが性ペプチドの活性を保持していることが示された。形
質転換した雄と交尾した野生型の雌では、管状受精嚢および受精嚢、輸卵管細胞で交尾後長時間にわ
たって蛍光が観察された。性ペプチドは管状受精嚢および受精嚢において精子と関連した何らかの役
割を有すること、及び輸卵管細胞より体液中に拡散していくことが示唆された。また、精子を欠く
XO/SP-GFP雄と交尾した雌では、授精嚢におけるGFP蛍光が速やかに消失することから、SPの挙動
は精子と密接に連関しているものと推察される。


P-66 ショウジョウバエ感覚器官形成におけるHairy WRPWモティーフとGroucho
	転写抑制ドメインの機能解析
	大迫俊二、高松芳樹
	東京都神経研・細胞生物

hairyは、achaeteの5'上流にあるHairy結合部位に特異的に結合し、感覚器官形成におけるリプレッサ
ーとして機能する。我々はこれまで、HairyのC末端に存在するWRPWモティーフが、転写抑制と
Grouchoタンパクとの相互作用を担うに十分な機能ドメインであること、さらにGrouchoを標的遺伝
子のDNAに繋ぐことによって転写を抑制でき、GrouchoのN末端側にアミノ酸配列が進化上良く保存
された転写抑制ドメインがあることを、培養細胞系を使って明らかにしてきた。今回、HairyのWRPW
モティーフとGroucho転写抑制ドメインが、感覚器官形成において同様の機能を持つかどうかを調べ
た。まず、achaeteの5'上流領域に存在するHairy結合部位をGal4結合部位に置き替えたachaeteミニ
遺伝子をachaete null変異体に導入した。この中には、胸部の背側の感覚毛が回復しhairy変異体にみ
られるようにL2翅脈に感覚毛を生じるものが得られた。一方、エフェクターとして熱ショックプロ
モーター下流にGal4-DNA結合ドメイン(Gal4DBD)のみ、Gal4DBD-WRPWあるいはGal4DBD-Groucho 
1-264を繋いだものを導入した。両方を持つものに蛹化後熱ショック処理を行った結果、Gal4DBD-
WRPWとGal4DBD-Groucho 1-264を持つものは、処理を行う時間に依存して、胸部の背側とL2翅脈
の感覚毛が消失した。このように、WRPWモティーフとGroucho転写抑制ドメインは感覚器官形成に
おいて機能的抑制ドメインとして働くものと考えられた。


P-67 トランスポゾンninjaの種特異性とコピー数の系統特異性
	山本雅敏、金森保志、林秀樹
	京工繊大・繊維・応用生物

 オナジショウジョウバエD. simulansから単離されたレトロトランスポゾンninjaはD. simulans種内
でのゲノム内のコピー数に約20倍の差が存在する.コピー数が多い系統はninjaが遺伝学的に転移す
ることが確認されたw[mky]とその派生系統に限られている.キイロショウジョウバエD. melanogaster
では低コピー数のninjaを持つD. simulansと同等数であると推定されるが,サザン解析で得られるバ
ンドは全く異なっている.
 ninjaの塩基配列と高い相同性がLTRに見い出されるD. melanogasterの“死んだ”トランスポゾン
auroraの全塩基配列を決定しninjaと比較したところ,auroraにはninjaのRT(reversetranscriptase)に相
当する領域が欠失していた.この領域(1.6kb)をninjaに特異的なDNA配列と考えPCR解析を行うと,
D. melanogasterにはこの部位が全く存在しないことが確認された.このことから,ninjaはD. simulans
に特異的なトランスポゾンで,D. melanogasterにはninjaと約95%相同な配列を持つauroraだけが存
在していることが明らかとなった.また,D. simulansのninjaコピー数が少ない系統ではninjaエレメ
ントの崩壊が生じている事を示す数種のDNA断片が観察された.トランスポゾンauroraとninjaは共
通祖先種に存在していたが,現在種特異的な住み分けをしているような結果が得られた.ninjaの崩壊
に伴う構造変化とauroraの構造との比較を考察する.


P-68 Genomic components of P elements in the Australian populations of Drosophila 
	melanogaster.
	Masanobu Itoh1,2, Ian A. Boussy1, and Ronny C. Woodruff3
	1: Dept. of Biology, Loyola University of Chicago, 2: Dept. of Applied Biology,
	Kyoto Institute of Technology, 3: Dept. of Biological Sciences, Bowling Green
	State University 

We studied the genomic complements of P transposable elements in Australian natural populations
of Drosophila melanogaster.  From 45 localities in eastern Australia, 293 isofemale line were
collected in 1991-1994. We digested the genomic DNAs with DdeI and probed with a short P element
probe. The results demonstrated that P elements were present in many copies in all genomes
examined. Full-size P and KP element classes accounted for the vast majority of P elements
in all lines. The SR elements, described as having strong repressor ability and hypothesized
to be important determinants of repressor function in wild populations, were very few,
regardless of repressor ability. We also evaluated the lines using gonadal dysgenesis and/or
singed-weak hypermutability assays. The results indicated that the latitudinal cline in P
element-associated characteristics seen in 1986 had decayed. Both P activity and P susceptibility
have declined, with all populations showing a tendency towards a state with little P activity
potential but with P repressor function (thus Q).


P-69 相同的組換え関連蛋白のショウジョウバエでの挙動
	川崎勝己1、鄭 相民1、赤星映子2、柴田武彦1
	1: 理化学研究所・遺伝生化学研究室、2: 阪大・細胞生体工学センター

 相同的組換えは減数分裂時の相同染色体の正確な分配やDNA修復に関わると考えられてきた。最近
ヒト遺伝的疾患原因遺伝子が相同的組換え修復関連遺伝子として同定され相同的組換えの個体レベル
の役割が明らかになりつつある。ショウジョウバエは組換え研究の蓄積、分子遺伝学的アプローチお
よび試験管内再構成系の面から多細胞生物個体の組換え機構解析のひとつのよいモデルである。
 大腸菌RecA、出芽酵母RAD51、DMCに相同性をもつショウジョウバエDMR遺伝子は、N末端側に
イントロンを有し、第3染色体99Dにマップされる. しかし、この領域に減数分裂や体細胞分裂の変
異株は報告されていない(Akaboshi et al. 1994)。ショウジョウバエDMRタンパクの性質、活性につ
いて検討した結果、DMRタンパクはRAD51型のタンパクであると考えられた。また、特異的抗体に
よりショウジョウバエ発生分化過程におけるDMRタンパク存在様式を解析した結果、DMRタンパク
は卵母細胞および初期胚で多く存在し、それ以降の発生過程でも存在することがわかった。一方大腸
菌RecQに相同性をもつショウジョウバエDHQタンパクについて特異的抗体により同様の解析を行っ
たところ、DHQタンパクが卵母細胞および初期胚で特に多く存在することがわかった。これらの結果
は減数分裂および体細胞分裂においてこれら組換え酵素が組換えを含むDNA代謝などに機能してい
ることを示唆している。また、ショウジョウバエ初期胚での速い核分裂の際に効率的な修復ネットワ
ークが働いていると考え、現在これらの酵素と相互作用するタンパクについて解析中である。


P-70 C. elegansにおける非対称分裂に異常のある突然変異体の同定と解析
	澤 斉1、幸池浩子1、Bob Horvitz2、岡野栄之1
	1: 阪大・医・神経機能解剖学 科学技術振興事業団 CREST 2: MIT、Biology

細胞分裂によって性質や運命の異なる細胞を生み出す非対称分裂は、生物の発生の際、細胞の多様性
を作り出す基本的な機構であるが、その機構は明らかではない。線虫C. elegansにおいては、数多くの
非対称分裂が Wingless様のシグナル分子LIN-44とFrizzled様レセプター分子LIN-17によって制御さ
れている。LIN-44シグナルに基づいて細胞内に極性が形成され、その後の分裂が非対称になると考え
られる。しかし、極性がどのように形成されるのか全くわかっていない。lin-17の下流に働く遺伝子
を同定するため、lin-17変異体と類似した表現型を持った変異体のスクリーンを行った。lin-17変異
体ではT細胞の分裂の非対称性が失われるためphasmidと呼ばれる神経構造が異常になる。また数多
くの細胞の分裂異常のため交尾に必要な雄の尻尾の構造が異常になる。約7500匹のF1からこれら2
つの異常を持った変異体をスクリーンし、得られた6つの新たな変異体について解析を進めている。
現在までに、このうち少なくとも2系統でT細胞などの分裂の非対称性が失われていることを確認し
ている。このうちひとつは既知の遺伝子unc-61のアリルであることがわかった。unc-61変異体は、行
動やvulvaの構造など数多くの異常を持っている。現在、これらの異常が非対称分裂の異常によって
起こる可能性を検討している。また、unc-61遺伝子のクローニングを行い、この遺伝子の非対称分裂
における役割について明らかにしていく予定である。既に、ある特定のコスミドクローン内に遺伝子
が存在することをレスキュー実験により明らかにしている。


P-71 肢及び触角原基の前部区画で発現する遺伝子の単離と機能解析
	菊池美紀子1、小嶋徹也1、道上達男1、川北護一2、村上柳太郎2
	西郷薫1
	1: 東大・理・生化、2: 山口大・理・自然情報

 肢原基において区画特異的に発現する遺伝子を得るため、当研究室で行われたエンハンサートラッ
プラインのスクリーニングにより、肢及び触覚原基の前部区画特異的にリポーター遺伝子lacZを発現
する系統が2系統(PXb41, 415a)得られた。PXb41においてエンハンサートラップされた遺伝子
の遺伝子座は第三染色体右腕89A、415aは第一染色体14Fであった。また、X-galを用いた活性染色、
抗LacZ抗体を用いた抗体染色により発現様式を詳しく調べ、PXb41においては肢及び触覚原基の前
部区画の発現の他に翅原基の前端部及び胚期体節の前部区画にも発現がみられることがわかった。次
に、PXb41においてエンハンサートラップされた遺伝子を単離するため、P因子挿入点近傍のゲノム
DNAを回収し、その断片を用いて挿入点近傍約25kbわたるゲノムDNAを得た。そして、野生型胚に
対するin situハイブリダイゼイションを行ってある程度転写単位の存在領域を特定したあと、cDNA
ライブラリーをスクリーニングし約3kbのcDNAを得た。そのcDNAの塩基配列を決め、推定される
アミノ酸配列からこの遺伝子は約600アミノ酸残基からなる分泌蛋白質か膜貫通型蛋白質をコードし
ていることがわかったが、他の既知の遺伝子との有意な相同性は見出されなかった。さらに、この遺
伝子座の近傍のDNA欠失変異体のなかからin situハイブリダイゼイションによりナル変異体を特定し
た。また、この遺伝子をGal4-UASの系を用いて異所発現させることのできる形質転換体を作製した。
現在、これらのハエ個体を用いて生体内での機能を解析中である。


P-72 ショウジョウバエの肢における近遠軸 (P-D axis) の形成
	後藤聡1、久保田一政1,2、林茂生1
	1: 遺伝研・無脊椎、2: 東京医歯大・歯・発生

ショウジョウバエの肢原基は、胚期で誘導され、同時に近遠軸も形成される。我々は、この近遠軸が
形成されるときに、Decapentaplegic (Dpp) のシグナル強度が関係していることを明らかにした。つま
り、強いシグナル強度では近位 (Proximal) 側が、弱いシグナル強度では遠位 (Distal) 側が誘導される。
我々は肢原基の近遠軸が形成・維持される機構を解明するために、Proximal 側で発現している 
escargot (esg) とDistal 側で発現している Distalless (Dll) の機能を解析している。Dllの突然変異体の
成虫では肢のdistal 側が形成されないし (Cohen et al. 1989)、Dllをproximal 側で異所的に発現させる
と新たにdistal側の構造を持った二次肢が形成される。また、Esgを異所的にdistal 側で発現させると、
肢のdistal 側に形成異常が生じる。これらのことから、肢のdistal 側の構造はDllによって形成され、
Esg によって抑制されることが示された。さらに、我々はDllとEsgの発現を調べたところ、Esgの異
所的発現によりDllの発現が、Dllの異所的発現によりEsgの発現が抑制されることを見い出した。Esg
とDllが互いに抑制しあうことにより、肢原基の近位部と遠位部は安定に維持されていると考えられ
る。


P-73 中枢神経系の一部のニューロンで発現するショウジョウバエの新規ホメオボ
	ックス遺伝子
	田渕克彦1、吉川真悟2、岡部正隆1、岡野栄之1
	1: 阪大・医・神経機能解剖学、科技団(CREST)2: 筑波大・基礎医・分子神経生物学

 Paired-like homeobox 遺伝子群は現在までにショウジョウバエのrepo 遺伝子、aristaless 遺伝子、線
虫のunc-4 遺伝子などが知られており、これらの遺伝子は発生段階において特定の細胞で発現し細胞
の分化に関与している。 我々はショウジョウバエにおける新規のPaired-like homeobox遺伝子群の単
離を目的として、 胚発生期のショウジョウバエから抽出したRNA を鋳型としてRT-PCR を行い、線
虫のunc-4 遺伝子のDNA 配列と相同性の高いクローンを得た。unc-4  遺伝子は線虫のVA 運動神経
細胞で発現し、この神経細胞の特異性の決定に関与していることが知られている。ショウジョウバエ
においても相同の機能を有している可能性を検討するため、このクローンについてcDNA library 
screening を行い解析を進めた。in situハイブリダイゼーション法により胚における発現パターンを解
析したところ、stage 11で各体節の、最前列の表皮の細胞と中枢神経系の正中線に隣接する一部の神
経細胞で発現が見られ、stage13 では中枢神経系のより外側の神経細胞でも発現が開始した。stage 16 
になると、labial sensory organで発現が見られ、中枢神経系での発現は減弱することが観察された。
抗engrailed 抗体との2重染色により、表皮での発現はengrailed 発現細胞に隣接した後列の細胞で発
現し、中枢神経系では一部のショウジョウバエunc-4 相同遺伝子発現細胞は、engrailed 発現細胞と一
致していることが明らかとなった。現在、この遺伝子の上流のゲノム断片とtau-lacZとの融合遺伝子
をショウジョウバエに導入し、発現神経細胞の軸索の走行を観察すると同時に転写調節領域の同定を
試みようと計画している。


P-74 シナプス伝達に異常を持つ突然変異体MY7919の原因遺伝子の発現
	高須(石川)悦子1、吉原基二郎2、城所良明2、堀田凱樹1
	1: 東大・理・物理、2: 群大・医・行動生理

 エンハンサートラップ系統MY7919は、第2染色体59EへのP因子挿入により引き起こされた劣性
半致死の突然変異体で、レポーター遺伝子の発現が運動ニューロンに見られる。電気生理学的に解析
したところ、ホモ接合体ではシナプス前の運動ニューロンから放出される伝達物質の量子数が減って
いることと、シナプス後部の筋細胞側の単一チャンネル電流もわずかに減少していることが解った。
 このような異常がどのような分子の異常によって引き起こされているのかを調べるため、まずP因
子挿入近傍の断片をプローブとしてゲノムライブラリーから隣接領域をクローニングした。次にこの
領域中の断片をプローブとしてin situ hybridization を行ない、シグナルの出た断片をプローブとして
cDNAライブラリーをスクリーニングし、得られたcDNAのアミノ酸配列を決めたところ、既知の遺
伝子とは相同性が見つからない新規なタンパク質をコードする遺伝子であることが明らかになった。
 さらにノザンブロット解析から、この遺伝子は成虫期に2.8kbのmRNAを発現していること、およ
び胚期には2.8kbの他に第1エクソンの異なる2.6kbのmRNAも発現していることが判った。5'RACE
法でそれぞれのmRNAの第1エクソン部分のcDNAをクローニングしたので、それぞれの発現につい
て検討したい。


P-75 シナプスに局在するStill life蛋白質の機能解析
	曽根雅紀1、星野幹雄1、鈴木えみ子2、黒田真也3、貝淵弘三3
	中越英樹1、西郷薫4、鍋島陽一1、浜千尋1
      1: 国立精神神経センター・遺伝子工学、2: 東大・医科研、3: 奈良先端大、4: 東大・理・生化

われわれは、成虫において活動性が著しく低下するstill life(sif)変異の原因遺伝子を単離し、その遺伝
子産物がRho類似G蛋白質に対するGDP-GTP交換因子と高い相同性を持ち、シナプスに特異的に局
在することを明らかにしてきた。特に、免疫電顕によって、SIF蛋白質は前シナプスの細胞質の細胞
膜近傍の限定された領域に局在することがわかった。N端欠失SIF蛋白質は、ヒトのKB細胞において、
アクチン繊維の重合を調節して細胞の形態を変化させる活性を示した。以上のことから、われわれは
SIF蛋白質がアクチン繊維の重合調節を通してシナプスの形態変化および形態的可塑性を制御してい
るのではないかと考えている。この仮説を検証するために、われわれは現在sif変異のヌルアリルを単
離して、その表現型を解析することを試みている。また、SIF蛋白質は、PHドメイン、PDZドメイン
などの分子間相互作用に関わる機能モチーフを持っていることから、シナプスにおける細胞内シグナ
ル伝達系の構成要素として、特に神経細胞の活動性や細胞外からのシグナルの下流で機能しているこ
とが期待される。この仮説を検証するために、われわれはまず、それぞれの機能ドメインがSIF蛋白
質の機能の中でどのような役割を果たしているのかを、種々の欠失蛋白質を発現するトランスジェニ
ック・フライの解析を通じて明らかにしようとしている。また、SIF蛋白質の機能発現の時期を調べ
るために、コンディショナルレスキュー実験を行っているので、その結果についても報告する。


P-76 A subset of gap junctions between photoreceptor terminals is eliminated in the 
	shaking-B2 mutant of Drosophila.
	下東 美樹1、I. A. Meinertzhagen2
	1: 福岡大・理・生物、2: Life Sciences Centre, Dalhousie University, Halifax, Canada

 昆虫のgap juctionの分子構造は脊椎動物のそれとは異なっており、ショウジョウバエでは shaking B 
遺伝子がチャネルタンパク質をコードしていると考えられる。ハエでは、複眼から中枢への最初のニ
ューロパイル(ラミナ)の cartridge のなかで、隣接する視細胞の終末が gap junction を形成するこ
とが知られている。突然変異体shaking B2 のラミナの gap junction の発現頻度を電子顕微鏡で調べた
結果、次の知見を得た。
 gap junction のチャネルタンパク質を通常の電顕法で観察することは困難であり、フリーズフラク
チャー法でもその頻度を定量することは不可能なので、通常はglia 細胞で隔てられている視細胞の細
胞膜同志が隣接する頻度を測定した。ラミナの層を深さにより3層に分けて、野生型と突然変異型の
比較を行った。視細胞の細胞膜が隣接する頻度は、野生型では遠位層、中間層で1cartridge, 1section あ
たり0.5であったが、近位層では約1/4に減少していた。突然変異型 shaking B2 では、野生型に比
べて、遠位層、中間層では約1/4に減少していたが、近位層では有意の差はなかった。6タイプの視
細胞(R1-6)の間に有意の差はなかった。また観察した細胞膜隣接像のサイズには、野生型と突然変
異型の間に有意の差はなかった。従って、突然変異shaking B2は視細胞の終末(R1-6)が 形成する
gap junction を遠位層と中間層で選択的に減少させていると結論された。すなわち、複眼視細胞がラ
ミナで形成するgap junctionには少なくとも2つのタイプがあることが推察された。


P-77 筋−神経の特異的なシナプス形成に関与するLRRタンパク質CAPRICIOUS
	の解析
	宍戸恵美子1、竹市雅俊1,2、能瀬聡直1
	1: 基礎生物学研究所・行動制御 2: 京大・理・生物物理

キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)幼虫の体壁の筋肉はhemisegmentあたり約30個の筋肉細胞か
ら成り立っている。各々の筋肉細胞は特定の運動神経の支配を受ける。発生の途中で、筋−神経結合
の特異性がどのように決まっているのだろうか。最近、Tollやconnectinなどの細胞接着分子やnetrin
などの分泌因子がこの過程に関与していることが示されている。capricious(caps)は、胚期に筋肉特異
的な発現をするエンハンサー・トラップのスクリーニングから単離された遺伝子で、背部の4個の筋
肉と、12番筋肉を含む腹部の筋肉、及びそれらを支配する運動神経の一部でレポーター遺伝子の発現
がみられた。UAS-Gal4システムを用いてcapsを全ての筋肉で発現させたとき、及び、capsの欠損変
異体では主に12番筋肉の筋−神経結合に異常がみられた。いずれの場合も、いったん12番筋肉にシ
ナプスを形成した神経がさらに隣の筋肉にもシナプスを形成することが観察された。cDNAの塩基配
列からcapsは細胞膜貫通型のロイシン・リッチ・リピート(LRR)タンパク質をコードすることが予想
された。LRRはTollやconnectinの細胞外領域の大部分を占める約24アミノ酸のモチーフの繰り返し
構造で、タンパク質−タンパク質間の相互作用に関わると考えられる。われわれはCAPSが12番筋肉
とそれを支配する運動神経の細胞表面に限定して発現されることが筋肉特異的なシナプス形成に必要
であると考えている。


P-78 強制発現ベクターを用いた性特異的致死遺伝子のスクリーニング
	大迫隆史 1、R. Nothiger2、相垣敏郎 1,3
	1: 都立大・理・生物、2: Zool. Inst., Univ. Zurich、3: 科技団・さきがけ

 GAL4-UAS異所的発現システムを利用した新しいベクター(Gene Search vector)を用いて突然変異
体を作成し、発生時期を通して全般的に発現するGAL4系統に交配し、性特異的致死を示す系統をス
クリーニングした。現在までに、約700系統のスクリーニングを終えており、雄特異的致死を示す系
統をいくつか得ている。このうち、雌の生存率への影響が少ない1系統(2035)について、遺伝学的・
細胞学的解析を進めている。
 これまでに発見・解析されている雄特異的致死を示す突然変異は、いずれも遺伝子量補正に関与す
るmale-specific lethal (msl)遺伝子群の突然変異である。msl遺伝子群がコードするタンパクは、雄のX
染色体上に複合体として結合し、クロマチン構造を変化させ、雄のX染色体上の遺伝子の発現量を2
倍にすると考えられている。msl遺伝子群の1つに突然変異が生じると、複合体の結合は観察されな
い。2035のベクターは、第2染色体左腕25Bの領域に挿入していた。この領域には、既知のmsl遺
伝子群は存在していない。また、anti-msl2抗体を用いて、雄のX染色体上への複合体タンパクの結合
を調べたところ、結合が観察されたことから、少なくとも、msl遺伝子群の上流で働く遺伝子ではな
いことが示唆された。現在、性転換遺伝子transformerとの相互作用を調べるとともに、強制転写産物
の塩基配列の決定を行っている。


P-79 GAL4エンハンサートラップ法を用いた、キイロショウジョウバエの幼虫中
	枢神経系での遺伝子発現に雌雄差のある系統の探索
	上山盛夫1、伊藤啓2、相垣敏郎1、布山喜章1、山元大輔2
	1: 都立大・理・生物、 2: 科技振・ERATO・山元行動進化プロジェクト

 キイロショウジョウバエでは、当然ながら雌雄で生殖器が異なること、配偶行動が異なることなど
から、雌雄の神経系での構造上の差があることが予測され、実際に確認されてきている。この神経系
を構成する神経細胞は、幼虫期以後に神経幹細胞から産生されることがこれまでの研究によって分か
っている。
 また、キイロショウジョウバエでは、GAL4エンハンサートラップ法と呼ばれる方法を用いて、遺
伝子発現を時間的空間的量的に制御するゲノム中に存在する要素である「エンハンサー」の活性を、
レポーター遺伝子の活性を調べることによって容易に検出できる。
 そこで、この方法を用いて神経細胞の増殖・分化が盛んな3齢幼虫中枢神経系において遺伝子発現
に雌雄差の見られる系統の探索をおこなった。
 325系統のGAL4エンハンサートラップ系統をスクリーニングした結果、遺伝子発現に雌雄差が見
られる系統があった。これらの系統すべてで交尾器・生殖器の制御をおこなう領域である腹部神経節
の先端部において、ラベルされた神経幹細胞が雄では数個あり、雌ではほとんどない、という差があ
った。すでにDNA複製を検出する方法で、この領域の幹細胞の増殖パターンに雌雄差があることが
報告されているが、本研究からこの雌雄の細胞増殖の差が、遺伝子の発現パターンにも反映されてい
ることが分かった。


P-80 ArgosによるRasシグナルの抑制と細胞死誘導に関わる分子の遺伝学的検索
	田口明子1、澤本和延1, 2、金明鑛1, 2、山田知春1、広田ゆき1
	岡野栄之1, 2
	1: 阪大・医・神経機能解剖学研究部、2: 科学技術振興事業団, CREST

 ショウジョウバエ複眼の発生における光受容細胞の分化は、Ras/MAPKカスケードを介したシグナ
ル伝達によって誘導されることが知られている。ArgosはEGFモチーフを有する分泌性の蛋白質で、
Ras/MAPKシグナルを抑制して細胞分化を制御する。Argosの機能欠損型変異体においては眼原基に
おける細胞死の抑制が起こり、一方過剰発現では細胞死を誘導する。今回我々は、この細胞死のメカ
ニズムを詳細に解析した。Argosの過剰発現によって起こる細胞死は、アポトーシス阻害因子である
p35, diap-1, diap-2 の共発現あるいは、アポトーシス誘導に必要な reaper, hid, grimの遺伝子量を半減
させることによって抑制された。また逆に、Hidの過剰発現によって引き起こされる細胞死は
Ras/MAPKシグナルの活性化によって抑制された。従ってArgosによる細胞死はカスパーゼを介した
ものであり、Ras/MAPKシグナルはアポトーシスに対して抑制的に機能することが示唆された。
 ArgosによるRas/MAPKシグナルの抑制とその結果引き起こされるアポトーシス誘導の分子機構は
現在のところ不明であり、未知の遺伝子の関与が予想される。これら未知の遺伝子群の同定を目的と
して、我々はArgosの過剰発現(GMR-argos)による粗複眼(rough eye) の表現型を増強もしくは抑制する
ような変異体の遺伝学的検索を行っている。現在までに約80の第二染色体の欠失変異体を検索し、
有意な効果を示す複数の系統を同定した。さらにEMSを用いた変異誘発も進行中であり、その結果に
ついても報告する予定である。


P-81 キイロショウジョウバエの単為生殖系統gyn-F9の解析(II)
	村松圭吾、布山喜章
	都立大・理・生物

キイロショウジョウバエgyn-F9系統の雌減数分裂では、雌性生殖核が精子核との融合によらない自律
的な2倍体化を起こす。その結果、gyn-F9系統雌と野性型雄との交配では高頻度で3倍体の子供が生
まれ、gyn-F9系統雌と雄不妊突然変異ms(3)K81雄との交配では雄親由来の遺伝子を全く持たない2
倍体の子供が生まれる。後者の現象は、雌性生殖(gynogenesis)と呼ばれるもので、単為生殖の一形態に
あたる。
減数分裂を行い、かつ2倍体の子供を作る類の単為生殖では、減数分裂によって半数化した生殖核が
2倍体性を回復する機構が不可欠である。過去に報告されたショウジョウバエの単為生殖では、減数
分裂終了後の雌性前核の融合、または複製によって2倍体性を回復するものが多い。これまでの研究
により、gyn-F9系統の雌性生殖核に見られる自律的2倍体化は、第一減数分裂の核分裂が抑制された
結果であると推測されている。今回我々は、gyn-F9系統雌で見られる生殖核の自律的2倍体化につい
て、その遺伝的機序の解明を目的として、雌減数分裂の細胞学的観察を行うとともに、他の減数分裂
突然変異との相互作用を調べた。その結果について、これまでの遺伝学的データをまじえて報告する。


P-82 雄減数分裂遺伝子mei-1223を用いた染色体対合機構に関する研究
	平井和之、山本雅敏
	京都工繊大・繊維・応用生物

 キイロショウジョウバエ雄の生殖細胞系列には、精原細胞での体細胞分裂と精母細胞での減数分裂
の異なる細胞分裂機構が共存している。キイロショウジョウバエでは、減数第1分裂での相同染色体
対合のほかに、精原細胞においてsomatic pairingとして知られている体細胞分裂での相同染色体の対
合(性染色体を除く)が観察される。さらに雄では、減数第1分裂前期の各ステージが欠如している
ことから、体細胞分裂での対合が減数分裂での対合そのものではないかとも考えられている。常染色
体の対合機構は体細胞分裂と減数分裂で共通しており、性染色体の対合のみが減数分裂に特異的であ
る、という仮説が提唱されている。
 本研究では、体細胞分裂から減数分裂への移行のメカニズムを明らかにすることを目的に、雄特異
的な減数分裂突然変異体mei-1223[m144]を用いて、減数分裂と体細胞分裂での相同染色体の対合を細
胞学的に比較した。その結果、相同染色体対合の失敗が減数第1分裂で見られるにもかかわらず、精
母細胞における体細胞分裂では常染色体は正常に対合していた。このことから常染色体の対合は、性
染色体と同様に、体細胞分裂と減数分裂では異なった機構で制御されていることが示唆された。mei-
1223の唾腺染色体と脳神経芽細胞におけるsomatic pairingについても調査したので、併せて報告する。


P-83 ショウジョウバエ新規細胞周期因子Gp99に類似した酵母遺伝子群の解析
	三井真司、杉山伸、西田育巧
	名大・理・生命理学

Gp99遺伝子は、ショウジョウバエの発生における増殖、分化に必要なMAPキナーゼカスケードにか
かわる新規の遺伝子である。また、Gp99突然変異ホモ接合体母親由来の胚が卵割期に核分裂を停止
し、ショウジョウバエサイクリンA,サイクリンB遺伝子の量を半減する変異の導入によりGp99変
異体の生存率の著しい低下がみられたことことからGp99は同時に細胞周期制御因子としても機能す
ることが予想されている。このGp99とアミノ酸配列において類似している遺伝子が、出芽酵母にお
いて4つ存在することが判明しており、分裂酵母、線虫でも存在している。本研究では、この出芽酵
母遺伝子群の解析を行なうため、遺伝子を単離し、遺伝子破壊実験による解析を行った。出芽酵母遺
伝子群の内、Sc1は必須遺伝子であり、遺伝子破壊によりG1期停止することが確認されている。今回
新たに、他の3つの遺伝子Sc2,Sc3,Sc4について遺伝子改変による欠失変異体を作製した。Sc2,Sc3そ
れぞれ単独の破壊株では生存可能であったが、この2つの遺伝子はアミノ酸配列において非常に類似
しているためredundantである可能性があり、二重変異体による解析を行っている。Sc4の破壊株では、
増殖の遅れが見られ、低温感受性を示した。現在Sc4の破壊株の表現型から細胞周期との関連を調べ
ている。


P-84 ショウジョウバエ及び出芽酵母で保存された新規細胞周期遺伝子の解析
	杉山伸、三井真司、西田育巧
	名大・理・生命理学

 我々はMAPKシグナル伝達系に関わる新規細胞周期因子Gp99をショウジョウバエで同定し、解析
してきたが遺伝子配列を決定したにも関わらずその生化学的作用機作は不明である。そこで単細胞生
物の方が細胞周期因子の解析に適していることからその出芽酵母ホモログを解析した。出芽酵母の4
つのGp99ホモログ(Sc1,2,3,4)にはハエGp99と共通の約150アミノ酸の相同領域がみられ、機能ド
メインだと期待される。
 ハエGp99と最も相同性が高いSc1の遺伝子を破壊したところ、細胞周期がG1期に停止し、細胞周
期に関する機能がハエ-酵母間で進化的に保存されていることが判明した。現在はSc1と遺伝的相互作
用する因子を同定することで生化学的作用機作を解明するためにSc1破壊株のmultiple copy suppressor
を検索すると共に、Sc1の表現型の解析を容易にするために温度感受性突然変異の作出を試みている。
さらにハエGp99もしくはSc1相同ドメインをハエ相同ドメインと交換したSc1遺伝子によりSc1破壊
株が相補されるか否かを検定し、相補される場合はハエGp99の温度感受性突然変異を酵母で検索し、
ショウジョウバエの温度感受性突然変異系統を作出する計画である。


P-85 翅脈のパターンに異常を生じる突然変異plexusの解析
	亦勝和1、2、田所竜介2,3、蒲生寿美子1、林茂生2
	1: 大阪府立大・総科、2: 遺伝研、3: 北里大・理

 ショウジョウバエの翅は翅脈によって一定のパターンに区切られている。翅脈の形成は成虫原基で
のシグナル分子による位置情報の確立、そして翅脈の細胞の分化を誘導するEGF receptor, N, Dlを含
むシグナル伝達系によって支配されており、パターン形成を理解する上でよいモデルを与える。
 そこで私たちは翅脈のパターンに異常を生じる突然変異plexus(px)を解析している。hobo因子を
用いたenhancer trap lineのスクリーニングから過剰な翅脈を生じるhb246系統を得た。マッピング、
相補性検定の結果から既知の突然変異px座位に突然変異を生じたことが明らかになった。三齢幼虫の
wing discで将来翅脈になる細胞で発現するrhoは翅脈の形成で重要な役割を担っている。そこでpxと
rhoの相互作用について調べると、px突然変異体のwing discではrhoの発現は本来発現しない領域ま
で広がる。rhoが異所的に発現した領域とpx突然変異体で過剰に翅脈を生じる領域は一致する。また
rho, pxの二重突然変異ではpxの表現型は抑制される。よってpxの機能はrhoの発現を抑える効果が
あると予想される。すでにhobo因子の挿入部位付近をクローニングしており現在転写物の同定を行っ
ているので併せて報告したい。


P-86 ショウジョウバエ初期胚に発現する新規核内セリン・スレオニンキナーゼ
	Dmnkの解析
	大石勲1、杉山伸2、山村博平1、西田育巧2、南康博1
	1: 神戸大・医・一生化、2: 名大・理・生物

発生過程においてタンパク質キナーゼは重要な役割を担っていると考えられる。これまでに我々はシ
ョウジョウバエの発生過程において重要な役割を担う新規タンパク質キナーゼの同定を発現の時期、
部位特異性を指標として行ってきた。その結果、ショウジョウバエの初期胚発生過程において特徴的
な発現様式を呈する新規セリン・スレオニンキナーゼ、Dmnk(Drosophila maternal nuclear kinase)遺
伝子のクローニングに成功した。Dmnk転写産物は、初期胚前部における濃度勾配的かつ一過的な発
現様式を呈し、さらに極細胞を含む後極領域に限局して発現が認められる。また、成熟雌の卵形成過
程においても特徴的な発現様式が認められることから母性効果遺伝子である可能性が考えられた。塩
基配列の解析からDmnk蛋白質は476アミノ酸からなる分子量約50kDaの新規セリン・スレオニンキ
ナーゼと予想され、そのC末端には核移行シグナルが認められた。さらに抗Dmnk抗体を用いてDmnk
蛋白質の詳細な発現解析を行った結果、興味深いことに核の胚表層への移動に伴いDmnk蛋白質は一
過的な体細胞核での発現および極細胞核での発現が認められた。また、極細胞核での発現は原腸形成
期においても観察された。これらのことからDmnkが核内において転写制御因子等をリン酸化しそれ
らの活性を制御することにより、細胞化さらには生殖細胞の形成過程に関与することが考えられる。
現在、Dmnkの初期胚発生過程における機能解析並びに既存の各種変異体との関連について解析を行
っているのでその結果も併せて報告する。


P-87 HNF-33/fork head domain を持つ遺伝子HP126の解析
	杉村勇、安達卓、西田育巧
	名大・理・生物

 HP126はrough eye、翅脈の欠損、過剰剛毛などの表現型を示す突然変異体であり、null alleleは胚
期致死となる。
 HP126遺伝子は、110アミノ酸にわたりHNF-3/fork head DNA binding domainと高い相同性を持つ
ことから、転写因子と考えられ、whn(nude mouse の遺伝子)と最も高い相同性を示しDNA binding 
domain においてアミノ酸で約80%の相同性を示す。
 Hp126遺伝子は、embryoでは細胞性胞胚期から全ての体細胞で発現し始め、後に神経系の細胞及び
生殖巣のみでの発現へと移行する。eye disc ではmorphogenetic furrow の前端部及び後半部全体で発現
を示すが、R8でやや強い発現を示す。
 Hp126突然変異体では、成虫で個眼の融合及びinter ommatidial bristle の欠損がみられる。個々の
個眼において特定のphotoreceptor cellの異常はみられなかったが、3齢幼虫期のeye discでは初期から
個眼のspacing 及びcluster formation に異常が見られることからHP126のrough eye phenotype の主因
は個眼形成の初期の異常に起因するものと思われる。
 またこの遺伝子を、強制発現させることにより、過剰のphotoreceptor cell、翅脈、剛毛が誘導される。
現在これらの表現型に着目して解析を行っている。


P-88 嗅覚突然変異geko (gk)の発現とphenotype の関係
	白岩 敬1、仁田坂英二1, 2、山崎常行1, 2
	1: 九大・医・分子生命、2: 九大・理・生物

 geko[1] はエタノール誘因能について3000系統のP element 挿入系統をscreeningして得られた突然
異体である。本来、野生型はエタノールによく誘引されるが、この系統は誘引される度合いが1/3度
に下がっていることが観察されている。発現部位をlacZの染色にて調べた結果、幼虫の先端の嗅覚の
器官であるAMC (anteno-maxillary complex)や、成虫の触覚の第二〜第三セグメントの間で発現してる
のが明らかになっている。gkのtranscriptは、P-element の挿入のごく近傍に見つかっており、3つの
exonを持っている。さらにcDNAは全長1356 bpであり、予想されるタンパクは206 A.A. であった。
 今回、この遺伝子の発現量の変化によって嗅覚応答がどのように変化するか報告する。gekoを完全
に欠失した系統がX線照射によって作製されたが、いずれも致死であった。また、gk[1]のP-element
をexciseした系統のうち、excisionについてホモにならなかったものはこの領域に大きな欠失を持って
いた。次に、gkのtransgeneをgk[+]の系統に形質転換したところ、その表現型はgk[-]のものと同じく
エタノールに誘引されなかった。さらに、成虫において野生型とgk[1]についてgkの発現量を比較し
たところ、gk[1]の方がはるかに大きい発現が観られた。これらのことから、gkが無いと致死、適切で
はない発現(量的、組織特異的)によって、このmutant phenotypeが得られると考えられる。


P-89 ショウジョウバエの味覚受容細胞特異的遺伝子のスクリーニングと同定
	広実朋子、谷村禎一
	九大・理・生物 

 ショウジョウバエの味覚器は唇弁、肢、翅に感覚子として存在する。感覚子基部にある4個の味細
胞は、神経突起を感覚子先端の開口部に伸ばしている。我々は、ショウジョウバエの味覚受容体遺伝
子を単離するために、味覚特異的遺伝子に富むcDNAライブラリーを作製する方法を開発した。まず、
味細胞以外の細胞の数と種類が比較的少ない翅を用いることを検討した。翅の感覚子先端の開口部か
ら蛍光色素DAPIを浸透させ、感覚子基部に存在する味細胞の核の染色を行ったところ、唇弁と同様4
個の味細胞をもつことがわかった。電気生理学的に調べたところ糖に対する応答がみられた。ライブ
ラリー作製のために2種類の突然変異体の翅を用いたサブトラクション法をとりいれた。poxnは化学
感覚子が完全に欠失し機械感覚子のみからなる。cutは機械感覚子が減少しほとんどが化学感覚子であ
る。cutで発現している遺伝子からpoxnで発現している遺伝子を差し引けば、味覚特異的な遺伝子が
得られる。2つの突然変異体の翅から得たcDNAをPCR法によって増幅後、サブトラクションを行い、
cDNAライブラリーを作製した。その後、differential screeningにより22個の化学感覚細胞特異的な
cDNAクローンを単離した。単離したクローンは、唾腺染色体上へのin situ ハイブリダイゼーション
によりマッピングを行い、さらに組織切片へのin situ ハイブリダイゼーションにより、1つのクロー
ンは感覚細胞の細胞体で発現していることを確認した。




一 般 公 開 講 演 会「行動から遺伝子へ」

『ショウジョウバエ入門』
布山喜章(東京都立大学・理学部・生物)

 ショウジョウバエという名前を聞いたことがないという人は、おそらくいないでしょう。それほど
有名でありながら、これがどんな生き物であるかを知っている人は案外少ないようです。私達の身の
回りにもたくさんいるにもかかわらず、あまりにも小さいためか、見たことがあるという人はさらに
少なくなります。
 ショウジョウバエが、モーガンの研究室で使われ始めてから、そろそろ90年になります。当初は、
遺伝学の研究に用いられ、その発展に大変貢献したショウジョウバエですが、次第にその守備範囲を
広げ、現在では、発生生物学を始め、神経生物学や分子生物学など、生物学のあらゆる方面で大活躍
しています。体長3ミリに満たないちっぽけな虫が、なぜ、これほどもてはやされるのでしょうか? 
教科書では、世代が短いとか子供の数が多いといった特徴がその理由にあげられるのが普通ですが、
このような生物はショウジョウバエに限ません。唾腺染色体やP因子のように、モーガンが予想もし
なかった幸運に恵まれたこともありますが、最大の理由は、何といっても、その長い歴史の中で蓄え
られてきたぼう大な数の突然変異に代表される遺伝的資源、それを活用したさまざまな遺伝的テクニ
ックの開発、また、これらに関する情報の交換と蓄積にあります。
 こうした遺伝的資源やテクニックを活用することによって、他の生物にはとてもまねのできないよ
うな離れわざが可能です。その代表的なものをできるだけやさしく紹介し、高校の教科書でおなじみ
の”古典的ショウジョウバエ”と、生物学の最先端で、時代の花形として活躍するショウジョウバエ
の姿とのギャップを少しでも埋めたいと考えています。


『ショウジョウバエの性行動を決める遺伝子』
山元大輔(三菱化学生命科学研究所・科学技術振興事業団) 

 動物行動の研究の歴史は古い。しか行動を生み出す神経の仕組みを、一つ一つのニューロンのレベ
ルで解析する試みが軌道に乗ったのはわずか20年前であり、その神経の組み立てや働く仕組みを分
子レベルで研究できるようになったのは、実にここ数年のことである。
 私たちは本能行動の制御機構を、個体、細胞、分子の各階層にわたる研究で明らかにすることを目
標として、キロショウジョウバエを材料に、性行動に異常の起こる単一遺伝子突然変異体の分離を行
ってきた。2000 に及ぶ P 因子(動く遺伝子)挿入系統をスクリーニングした結果、雄の性指向性が
異性愛から同性愛に変化する satori 変異や、雌のかたくなな拒否行動により交尾の起こらない 
spinster など、8 つの新しい突然変異体を分離できた。その一部については既に変異の起こった原因
遺伝子を取り出す(クローニングする)ことに成功し、遺伝子産物の一次構造が明らかになっている。
また変異体に正常型遺伝子を導入することによって、表現型を野生型に回復させる「遺伝子治療」実
験も進行中である。個体から分子へ、分子から個体へ、という両方向のアプローチにより、動物の行
動を制御する仕組みの本質にどこまで迫ることが可能か、論議したい。


『動物界で最も単純なヒドラの散在神経系を考える』
小泉 修(福岡女子大学・人間環境学部)

 私の研究対象のヒドラは、イソギンチャク・クラゲ・サンゴの仲間(腔腸動物)で、淡水にすむ小
動物である。ヒドラは、腔腸動物の中でも最も単純な神経系を持つ。そのため、ヒドラの神経系は現
在生きている動物の中で最も単純な神経系を持つことになる。この神経系を散在神経系と呼んでいる。
 神経系の出現と発達の歴史を考えるとき、最も原形に近いと思われるこの神経系の性質は、示唆に
富んでいる。
 この神経系は、良く発達した中枢を持たず、全身に網目状神経ネットをはっている。人の神経系を
スーパーコンピュター・システムに例えると、ヒドラの神経系はその反対の極に位置するパソコンを
つないだローカルネットワーク・システムである。
 ヒドラの神経細胞は、感覚神経細胞、運動神経細胞、介在神経細胞、神経分泌細胞の全ての働きを
になうマルチタレントである。ちなみに、人の神経系の場合は、ひとつひとつの神経細胞は、例えば、
特定の筋肉のみを制御する神経細胞のように、特殊化している。
 これらの事情は、神経系が進化の過程で集中化と分業化の方向に発達してきたことを如述に示して
いる。
 このヒドラの神経系の構造・機能・回路網形成を調べてみると、今まで言われていたことと色々違
うことも明らかになった。
 今回の講演では、この神経系の構造・機能・形成をお話しし、もっと複雑な集中神経系との比較に
よって、神経系におけるハードとソフトの関係、神経系の起源と進化を考えるよすがにしたい。


『エレガントな線虫の行動と遺伝』
森 郁恵(九州大学・理学部・生物)

 1960年代にイギリスのシドニ−・ブレナ−という分子生物学者は、今後、動物の発生や神経系のし
くみを解き明かすためには、遺伝学的な解析に適し、体細胞の数が少なく、しかもきちんとした神経
系をもっている動物を研究材料にしなければならないと考え、いろいろな動物種について検討しまし
た。最終的に、彼が到達した動物は、今、私の研究しているCaenorhabditis elegans(通称C. エレガン
ス)という体長わずか1mmの土壌自活性線虫でした。とはいえ、その当時、C. エレガンスについて
の生物学的な知識が蓄積していた訳ではありません。まず、ブレナ−自身が、8年がかりでC. エレガ
ンスの突然変異体を多数単離し、それらの遺伝解析方法を確立しました。これをまとめた論文は、1975
年に発表されました。その後、彼の後継者達も、いくつかの偉業を成し遂げました。ジョン・サルス
トン達は、C. エレガンスの受精卵が、どのように分裂して成虫になるかを10年がかりで観察し、1983
年にC. エレガンスの959個の全細胞系譜を明らかにしました。また、ジョン・ホワイト達は、C. エ
レガンスの横断面の電子顕微鏡写真2万枚を15年もかけて詳細に検討し、1986年にC. エレガンスの
302個の神経細胞(ニュ−ロン)の全神経回路を推定しました。さらに、最近では、ジョン・サルス
トンとボブ・ウォ−タ−ストンらが中心となって、C. エレガンスの全DNA配列を決定しようという
プロジェクトが進んでいます。現在8割程度決定しており、1998年の末までには、終了する予定だそ
うです。
 現在、C. エレガンスの研究者は、これらの情報を財産として、生物学のあらゆる分野の研究を進め
ています。私は、神経系の機能を研究するために、C. エレガンスの行動を解析しています。今回の講
演会では、C. エレガンスの行動が、いかにエレガントであり、これを研究することで、神経について
どのような事が明らかにできるかについて、お話したいと思います。