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Wnt遺伝子による神経冠細胞形成の制御

池谷真1、Scott M.K.Lee2、Jane Johnson3、Andrew P. McMahon2、高田慎治1

(1京大理、分子発生学研究センター、2ハーバード大、3テキサス大)


 Wnt遺伝子は多数の遺伝子からなるファミリーを形成し、分泌型蛋白質をコードする。各々の遺伝子は中枢神経、原条、肢芽、器官などで発現しており、ノックアウトマウスの解析からそれぞれの発生過程で重要な働きをしていることが示されている。

 中枢神経系においては、神経管の背腹軸方向に沿っていくつかのWnt遺伝子が固有の発現パターンを示している。しかし、これまで解析されてきたWnt-1、Wnt-3aおよびWnt-4遺伝子のノックアウトマウスには、この発現パターンから考えられるような異常は観察されなかった。

 そこで我々は、背側正中線で重複して発現しておりかつ同様の活性を持つ、Wnt-1およびWnt-3a遺伝子の両方を欠く二重ノックアウトマウスを作成し、その表現型を抗体染色、in situ hybrydizationおよび骨染色などにより解析した。表現型は後脳から脊髄にかけての広い領域で、神経冠細胞由来の組織に顕著にあらわれ、頭部神経の5、9、10番、舌軟骨、舌骨大角、甲状軟骨、あぶみ骨、背根神経節などが、小さくあるいはなくなっていた。しかし、メッケル軟骨、舌骨小角、感覚神経節、といった比較的腹側の神経冠由来の組織には異常が観察されなかった。さらに、CRABP1、TRP-2等の分子マーカーを用いた解析から、後脳領域の遊走中の神経冠細胞の数が減少していることが明らかになった。また、この領域では神経管の背側領域においても欠損が観察された。このことから、我々はWnt-1およびWnt-3a遺伝子は神経管の背側領域の細胞増殖を制御していると考えている。