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otd/Otx遺伝子を中核とする進化的に保存された頭部形成機構の解析

○長尾智子1, S. Leuzinger2, D. Acampora3, A. Simeone3, H. Reichert2, 古久保-徳永 克男1,2

(1筑波大・生物科学系, 2バーゼル大・動物学研究所, 3ナポリ国際研究所)


 otd遺伝子は下等無脊椎動物からヒトにいたるまで保存されたホメオボックス遺伝子であり、ショウジョウバエ及びマウスにおける遺伝子欠損実験より、発生初期胚の脳形成に必須であることが明らかになっている。このことは、進化の過程で保存されてきた脳と頭部の発生機構の存在を示唆するものと思われる。我々はこの仮説を証明するため、otd遺伝子の活性を欠く突然変異株ocellilessの示す頭部形態の発生異常 をヒトOtx遺伝子により救助することを試みている。

 昨年の本大会において、ocellilessの頭部外部形態異常がヒトOtx1, Otx2遺伝子により救助されることを報告したが、今回この頭部形態形成におけるotd/Otx遺伝子の制御機構を免疫学的手法及びin situ hybridization法を用いて分子レベルで検討したので、その結果を報告する。実験は、ショウジョウバエotd遺伝子もしくはヒトOtx遺伝子をocellilessの3令幼虫初期に強制発現させ、ショウジョウバエotd遺伝子の下位で働くと考えられているen,hh,wgの頭部前駆体での発現がどのように制御されているかを調べた。その結果、3令幼虫後期の頭部前駆体上の背側境界部において、ショウジョウバエotd遺伝子の強制発現と同様に、ヒトOtx遺伝子の強制発現によるen, hhの特異的発現誘導とwgの特異的発現抑制がみられた。この結果は、en, hh, wgがotd遺伝子の下位の標的遺伝子であることを支持するとともにotd/Otx遺伝子の頭部形態形成における中心的な機能が、進化的に保存されたホメオドメインによって担われていることを示している。