P038


ショウジョウバエの胚発生期および幼虫期の脳における Mushroom Bodies の形成過程の解剖学的解析

遠藤 啓太1, Marco Tettamanti2, Ronny Leemans2, Kazumasa Miyamoto2, Michael Gasser2, Heinrich Reichert2 and 古久保-徳永 克男1,2

1) 筑波大学生物科学・2) Zoological Institute, University of Basel


 Mushroom Bodies (MBs) はショウジョウバエの脳内の特徴的な神経構造であり、学習・記憶や配偶行動などの高次の神経機能に関わることが知られている。近年、MBs に 特異的な enhancer-trap line を用いた解析により、MBs を構成する介在ニューロンやニューロパイルは、遺伝子発現パターンの異なる複数の区画に分かれていることが明らかになった(Yang et al., 1995)。この区画が発生過程においてどのように獲得され、MBs の発達した高次構造をどのように構成していくかを調べることは、MBsの 機能を明らかにする上で重要であると考えられる。

 MBs 様の構造は、既に、一齢幼虫の脳において観察されることが知られている。また、MBs を構成する介在ニューロンである Kenyon cells (KCs) は、胚発生中期に、その前駆細胞である4つの Mushroom Body Neuroblasts (MB-Nbs) からのみ生じると考えられている。しかし、その詳細な形成過程は、脳が体の内部にあって3次元に展開した非常に複雑な構造をしているため、明らかにされていなかった。

 今回我々は、MBs に特異的な enhancer-trap line を用い、さらに共焦点顕微鏡を活用することで、胚発生中期における MB-Nbs の形成過程、および、MB-Nbs から生じた KCs の軸索形成過程を観察した。その結果、1)MB-Nbs は、発生途中の b1 脳分節の、神経軸に沿った最も前端部分に形成されること、2)胚発生中期、MB-NBs が形成された直後から、既にこの MB-NBs の間で遺伝子発現パターンに違いがあることが明らかになった。また、この遺伝子発現パターンの違いは、胚発生後期、MB-Nbs から生じた KCs の軸索形成過程においても継続して観察されることから、成虫の MBs で観察される遺伝子発現パターンの異なる区画の少なくとも一部分は、胚発生期において、既に形成されていることが明らかになった。

 さらに、我々は、幼虫期の脳において同様な観察を行うことにより、幼虫の MBs も 、成虫の MBs と同様の、遺伝子発現パターンの異なる複数の区画に分かれていることを明らかにした。