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速筋・遅筋キメラ筋繊維は何を語るのか?

○中田和人、宮崎淳一、平林民雄

(筑波大・生物)


 筋繊維は、筋分化の決定を受けた筋芽細胞が互いに融合する事によって形成される多核細胞体である。このような筋繊維は機能的、生化学的に速筋型と遅筋型の2型に分類され、多くの筋収縮調節タンパク質の場合、速筋繊維では速筋型アイソフォームを、遅筋繊維では遅筋型アイソフォームをそれぞれ発現している。我々が今回報告する速筋・遅筋キメラ筋繊維は、成鶏の背中の筋肉である菱形筋(rhomboideus)から見出された非常に不思議な筋繊維である。このキメラ筋繊維は、筋原繊維の細いフィラメントの構成タンパク質の1つであるトロポニンTアイソフォームの発現において、速筋型アイソフォームは筋繊維全体でその発現が観察されるが、遅筋型アイソフォームは筋繊維の一部の領域でのみその発現が観察された。つまり、この筋繊維は、一部は速筋、一部は速筋と遅筋の両方の性質を持つと考えられる。また、興味深い事に、孵化後1日目のヒヨコの菱形筋からは、筋核の周りの細胞質でのみ遅筋型アイソフォームを発現している筋繊維を見つける事ができた。

 これらの結果から以下のように結論した。1)トロポニンTアイソフォームの発現において、生体内に速筋・遅筋のキメラ筋繊維が存在する。2)キメラ筋繊維は、異なった発現決定を受けた筋核が単一筋繊維に含まれている証拠である。3)異なった発現プログラムを持つ筋核が細胞質を共有しても、それぞれの筋核は決定されたプログラムに従ったアイソフォームを安定的に発現する。