発生学の新しい夢

岡田益吉  (筑波大学)


 試みにDevelopment & Arabidopsisのキーワードで 期間1987年 - 1996年の、MedLine を検索してみた。無論植物の発生学にはシロイヌナズナだけが材料として使われているわけではないが、黎明期には植物のショウジョウバエと云われていたことでもあり、ある程度の傾向はわかると思ったからである。検索された合計361編の論文は1987年(0), 1988年(3), 1989年(4), 1990年(7), 1991年(22), 1992年(24), 1993年(53), 1994年(49), 1995(75), 1996年(79)のように分布している。どうやら、植物を材料とする発生学は1991年頃から次第に普及し始め、1994、1995年頃から発生学の一分野としての地位が確立した、つまりそれほど珍しいことではなくなった、と窺われる。さて日本発生生物学会に目を向けると、残念ながら植物発生学はまだ珍品と云わざるを得ない。無論、個々の研究者の活躍の場は発生生物学会のみではないが、会長ともなると、世界の発生学の傾向を反映する学会であって欲しいと思うのである。1980年代、私はショウジョウバエの発生遺伝学を日本にも定着させたいと夢見ていた。この夢は実現したが少し遅すぎた。私の今の夢は、21世紀の発生学を燃え立たせる新たな概念が日本の植物発生学者から出てくれることである。