アラビドプシスの花形成における遺伝子間、細胞間の相互作用について

後藤弘爾  (京大・化研)


 Arabidopsis(シロイヌナズナ)を高等植物のモデル系として用いて行われた研究成果の内、最も成功した例の一つが花のABCモデルである。このモデルは花の形態形成の遺伝的メカニズムに関して、Arabidopsisの花のホメオティック突然変異体を用いた解析に基づいて提唱された。その内容はA、B、Cの3種類の遺伝子活性が、単独あるいは2つの組み合わせによってがく片、花弁、雄しべ、雌しべという花の4つの器官の発生分化を制御しているというものである。その後、各活性を持つ遺伝子が次々とクローニングされ、その発現パターンがモデルから予想された通りであることがわかった。またMADSと呼ばれるDNA結合ドメインを共通に持つことも明らかにされた。さらにこれらの遺伝子を発現パターンを変えて野生型植物に導入することによって、A、B、Cの活性は花の器官分化に充分であることも示された。 本シンポジウムでは、このABCモデルについて概説するとともに、花のメリステムにおける細胞間相互作用を調べるいくつかのアプローチを紹介したい。植物においては、その体制や発生様式から、細胞間の相互作用はこれまで余り重要視されてこなかった。しかしクローニングされた花のホメオティック遺伝子が、非細胞自律的(non cell-autonomously)に働いていることや、核局在する転写因子が、発現している細胞とは別の細胞に移動することが明らかになるにつれて、植物細胞独自の細胞間コミュニケーションの様式があると考えられるようになってきている。われわれは、メリステムの分化過程において細胞間相互作用が果たす役割を明らかにしたいと考えている。