植物テロメラーゼに関する研究

 真核生物の染色体DNAは直鎖状二本鎖からなっています。染色体末端はテロメアと呼ばれ、タンデムにつながった短い繰り返し配列(テロメアDNA)と、そこに結合する種々のタンパク質からなる複雑な構造体をつくっています。テロメアは、ほぼ全ての真核生物の染色体末端に存在し、染色体の最低構成要素の一つです。機能的にも染色体の安定化(エキソヌクレアーゼからの保護、染色体末端どうしの癒合の防止、相同組み換えの防止、等)に関わるだけでなく、ヒトでは分裂寿命さらには細胞の老化に関わっていることが示唆されており、多様な機能を担っている領域です。しかしながら、一方で、直鎖状DNAが複製する際にはRNAプライマーが必要とされるため、複製の都度少なくともプライマーの分だけテロメアDNAが短縮されることになります。つまり無限に分裂を行うにはテロメアを修復しなければなりません。テロメア修復は主にテロメラーゼによってなされていることが、近年多くの生物種で明らかにされてきました。ヒトの場合正常体細胞では活性は認められず、癌細胞及び生殖細胞で強い活性が認められています。いわゆる無限分裂能の獲得に関わっていると考えられています。しかし植物におけるテロメア、テロメラーゼに関する研究は未だ少なく、私達は、高等植物のテロメアの機能とそこに関わる因子、テロメラーゼを主としたテロメアの維持機構を明らかにすることを目的に以下の研究を行っています。

高等植物テロメラーゼの構造化学的、生化学的解析
 多くの生物でテロメアの修復にテロメラーゼが関わっていることが示されていますが、その構造に関しての知見は未だ少ないのが現状です。そこで高等植物のテロメラーゼを単離、精製し、構造化学的に解析すると共に、その活性を生化学的に解析しています。

高等植物テロメラーゼの生理学的解析
 高等植物に於いても他の生物同様、テロメラーゼ活性は細胞分裂と密接な関係があると考えられる。そこで、カルス化誘導の系を用い、細胞分裂を誘導した際のテロメラーゼ活性の発現を、時空間的に生理学的に解析しています。

テロメア結合蛋白質のプロテオーム解析並びに生理生化学的解析
 テロメアは多様な機能を担っており、そこには様々な因子(蛋白質)が関わっていると考えられている。そこで、核内蛋白質からテロメア結合蛋白質を検出し、それらをプロテオーム解析により網羅的に解析すると共に、それぞれについて生理生化学的に解析し、その機能を明らかにすることを目的としている。