植物の傷害応答機構に関する研究


 植物は傷害を受けると、それに応答し様々な生理作用を示します。この傷害応答は環境応答の良いモデル系として知られ、様々な解析が成されてきていますが、現在までの解析は個々の現象論にとどまることが多く、機構全体を総括して解明するための解析を行うことが急務であります。

 植物は傷害を受けると活性酸素群(AOS)を産生し、それに続いてジャスモン酸、エチレンが産生されます。私たちの研究室ではこの活性酸素群(AOS)、ジャスモン酸、そしてエチレンという3つのシグナル伝達物質の相関を明らかにすることで現象の全体像を示すべく、エチレン生合成系の鍵酵素であるACC合成酵素遺伝子の発現調節機構について研究を行っています。

 研究を行うにあたり、傷害により多量のエチレン産生が起こるカボチャ中果皮組織より、3種の傷害誘導性ACC合成酵素遺伝子(CM-ACS1,3,4)をクローニングしました。この内、既知であったCM-ACS1を選択し、ノーザン法を用いて詳細な発現解析を行いました。
 発現解析に先立ち、傷害後のAOSレベルの変動を測定し、傷害後数分以内に一過的にAOSが産生されることを明らかにしました。この結果を背景に、AOS産生阻害剤、除去酵素、産生剤投与下での発現を解析し、AOSが発現に対する誘導活性を持つことを示しました。一方で、ジャスモン酸について解析を行いました。その生合成阻害剤、また、ジャスモン酸投与実験の結果から、ジャスモン酸もまた、誘導活性を有していることを明らかにした。さらに、AOSとジャスモン酸の相関について明らかにするため、それぞれの産生阻害剤を同時投与する実験を行い、その結果、発現に対する阻害効果が相加的であったことから、この2つの物質が独立して発現に関与している可能性を示唆しました。