高等植物の雌雄性分化における植物ホルモンの作用に関する研究


 高等植物の花は一般に雄しべと雌しべを持つ両生花ですが、幾つかの植物では雄しべのみを持つ雄花や雌しべのみを持つ雌花といった単性花をつけます。また、単性花をつける植物では、その雌雄性が植物ホルモンによって調節される例が知られています。

 キュウリの発生初期の花芽は、雄しべと雌しべの両生殖器官の原基を持っています。その後、一方の原基の発達が停止し雄花または雌花に分化します。この雌雄性分化はエチレンレベルにより制御され、エチレンレベルが高いと雌花に分化し、エチレンレベルが低いと雄花に分化します。

 


 私達は植物ホルモンによる雌雄性制御機構を解明するために、キュウリを材料として以下の研究を行っています。

1)性発現パターンの制御機構の解明
 キュウリの性発現パターン(雄花と雌花の分布)は遺伝子型や環境条件(温度・日長)の影響を受けます。これらの性発現を制御する因子は、花芽のエチレンレベルの調節を介して、各節の花の性を制御していると考えられます。これまでの研究により、キュウリの性発現パターンはACC合成酵素(エチレン生合成の鍵酵素)遺伝子の発現レベルで調節されていることが明らかとなりました。さらに花芽のエチレンレベルを制御するACC合成酵素遺伝子は品種間で異なり、混性型(同一個体に雄花と雌花を形成する)品種ではCS-ACS2により制御されるのに対し、雌性型(一個体に雌花のみを形成する)品種ではCS-ACS1GとCS-ACS2の2種類のACC合成酵素遺伝子により制御される可能性が示唆されました。そこで、これらの遺伝子の発現調節機構を分子レベルで明らかにすることにより、キュウリの性発現パターンの制御している遺伝子の単離および制御機構の全体像の解明を目指しています。

2)花の性決定におけるエチレンの作用機構の解明
 キュウリの雌花形成はエチレンにより誘導されます。エチレンによる雌花誘導機構を明らかにするために、キュウリの花芽でエチレンにより誘導される遺伝子のクローニングを行っています。現在までに2つの遺伝子(ERAF16、ERAF17)が雌性決定および分化に関わる遺伝子の候補として単離されました。ERAF16は未知の遺伝子で、雌花に分化する花芽で強く発現します。一方、ERAF17はMADSボックス遺伝子をコードしており、雌花に分化する花芽で特異的に発現します。そこで、これらの遺伝子の機能を明らかにすることにより、雌花形成機構および性決定機構の解明を行っています。