国際交流


 マンチェスターだより   【派遣留学生からのメッセージ】

 2006年9月〜2007年6月派遣留学生


・「外国での研究生活」を体験できました

生物学類4年 田渕 理史

 帰国まであと1週間という段階で、この「マンチェスターだより」を書くということで、何を書けばいいのか、正直とても迷いました(もう少し前段階であれば、或いは迷うこともなかったのかもしれません)。イギリスでの生活面やマンチェスター大学自体に関する情報であれば、先輩の方々が執筆された素晴らしい体験記が既にあるので、私が改めて書く必要も無いかと思われます。そもそも、この文章の1番の読者と成り得るのは誰なのか?それはやはり本留学プログラムの志望を真剣に検討している、学類生の方なのではないでしょうか。留学を実行する上で、その志望動機、つまり「なぜ留学したいのか?留学に何を期待しているのか?」という概念をきちんと構築することは、有意義な留学生活を送る上で非常に重要なことです。そこで「留学に対する私自身の志望動機」と「私が過ごしてきた留学生活の実際」とを対比させることで、果たして本留学プログラムが私の求めていたものにどのくらい近いものであったのかを検証してみることにします。

 手始めに、私の志望動機から紹介したいと思います。すなわちそれは「外国での研究生活」というものに非常に興味があり自分自身で体験してみたいから、学部時代の早い段階で外国の研究生活を予行演習的に体験することはその後の進路の参考にもなり非常に大切だと考えているから・・・と言ったところでしょうか(選考時に提出した志望動機書にも、全く同じことが書いてあります)。しかしながら、留学直前に多くの方から「学部の留学なんてお手伝いのようにしか扱われないのでは?」という戦慄の警告を受けてしまいました。当時の私は割と他人に影響されやすい性格でしたので、早くも留学失敗の可能性を考えました。結論から言うと、実際には全くそのようなことはありませんでしたが、当時はそのような先行きの不安を感じつつ、語学学校(PS5bというコースで、先生方の大変に熱心な指導が印象的でした)終了後、2006年9月12日から研究室生活が始まったのでありました。

 私が所属した研究室は、私とほぼ同時にPh.D Student(D1の大学院生) が1人加入してきました。私は彼女と一緒に研究室のあらゆる実験操作の指導を受けることができました。彼女とは研究室のデスクも隣同士で、とても仲良くなれたのと同時に、良きライバルのような感覚も芽生えました。

 実験と並行して、ボスから、自分に与えられたプロジェクトの分野に関する文献レビューを書くように言われました。執筆は予想以上に難航し、最初の提出までに三ヶ月もかかり、さらにその後の書き直し期間を含めれば、最終的な完成まで四ヶ月近くも費やしてしまいました。文献レビューですので膨大な数の論文を読まねばなりませんでした。しかも論文を読めば読むほど、さらに読むべき論文が芋づる式に見つかってくるため、一時期は本当に疲れてしまいました。たくさんの論文を読み進めるうちに全体の背景がある程度分かってくると、最初に書いていた自分の文章があまりにもバカらしく思えて、今まで書いていたのを全て削除し最初から書き始めたこともありました。しかし、このレビューを書くことで、分野の背景的知識だけではなく、実際に自分が手を動かしてやっている実験がもつ、その分野中での位置、意味、重要性などもきちんと理解することができたように思います。

 研究室では月曜日にラボミーティング、木曜日にジャーナルクラブを行っていました。ラボミーティングは自分のプロジェクトについて、先週自分は何をしたのか、そして今週はどういうことをやる予定なのかを皆の前で話さなくてはなりません。もちろん英語で。かなり英会話の練習になります。しかし、ラボミーティングでの英会話はそれほど問題ではなく、本当に困ったのはジャーナルクラブでした。私が参加した第1回目のジャーナルクラブ、今でも忘れられません。何1つ理解できませんでした。EnglishとScience両方の理解力の欠如という、二重のコミュニケーション障害が起こっていたからだと思います。皆が何をそんなに熱く議論しているのかさえ分からず自分勝手に疎外感を感じてしまいました。もちろん事前に論文はしっかり読んだはずなのですが、そもそも論文を読むときの着眼点自体がズレていたような気がします。この状態はしばらく続きましたが、転機は私が論文を用意する番になった時に訪れました。今思えば偶然だったのかもしれませんが、すごくホットな話題の「ツボを押さえた」論文を用意でき、その回のジャーナルクラブを大いに盛り上げることに成功しました。もちろん、私自身も非常に熱くなって議論したのを憶えています。それからは、ジャーナルクラブを週後半の私の楽しみの1つにするようになりました。

 年が明けるとFinal year project student が加わり、研究室がとても賑やかになりました。彼らは日本でいう卒研生に該当しますが、日本と違い研究室に所属する期間はおよそ三ヶ月と比較的短いです。私が所属した研究室には3人やってきました(1つの研究室は3人までしか入れないという規定がありました)。彼らの専攻は、それぞれNeuroscience, Biomedicalscience, Pharmacologyということでしたが、彼らの専攻に対する意識レベルの高さには驚かされました。また、単に意識レベルが高いだけではなく、実際に彼らは非常に勉強熱心で、あらゆることに対して積極的な姿勢で臨んでいました。私など、そこまで専攻については意識してなかったので、彼らに、専攻は何なの?と聞かれた時は内心焦りました。ちなみにその時思わず Molecular genetics と返答してしまったので、以降のジャーナルクラブでは、geneticな内容が話題に上がると真っ先に私へ質問が飛んでくるようになってしまいました(笑)。私が彼らに実験を教える機会も何度かありましたが、私の英語が下手なのも手伝って非常に苦労させられました。しかし私が教えたことで彼らの実験が失敗するような事態だけは絶対に避けたかったので、私も必死でした。最終的に彼らの実験でキレイなデータが手に入った時には私自身も本当に嬉しく感じ、ガッツポーズなどしたものです。

 彼ら3人が去った後は、自分の実験を続けデータを解析し、卒業研究論文としてのレポートをまとめ、発表用のスライドも作り、今に到っているわけです。

あまり冗長になってもいけないのでこのくらいにしておきますが、これらの内容を踏まえて、私の志望動機書に書いてあった志望動機は、実際の留学生活に反映されているか?本留学プログラムは私が求めていたものに近いものであったのか?その答えはズバリ「Yes!」だと思います。その最大の要因は、本留学プログラムの最大の売りでもある「自由度の高さ」にあるのではないでしょうか。その自由度の高さをもってして、本留学プログラムは、自分が求めているものに限りなく近く、如何様にもアレンジすることが可能なのです。ですから私は、私の志望動機である「外国での研究生活」を体験するのに、最適な形として本留学プログラムをアレンジさせてもらいました。

 というわけで、私は自分自身の体験に基づき、「留学に対する私自身の志望動機」と「私が過ごしてきた留学生活の実際」とを対比させ、本留学プログラムの意義を検証しました。その結果として、本留学プログラムの志望を真剣に検討しているフレッシュな学生の方、特に「外国での研究生活」を将来の予行演習的に体験してみたいと考えている学生の方に、私は本留学プログラムに参加してみることを強く推奨します。きっとすごく面白い1年間になるはずです(表裏一体的にすごく苦労もするかと思われますが・・・)。

・・・追伸として、上記から判断すると研究しかやってないように見えますが、実のところはしっかりと遊んでもきました。ロンドンに行って大英博物館を見学したりロイヤルアルバートホールで開催されるBBCプロムナードコンサートを鑑賞したりなどの定番系だけではなく、バイクをレンタルしてマン島のTTレースで有名なMountain Courseを走ってみたりお気に入りのヘヴィメタルバンドのライブに行って楽しんだ後すぐにDrum'n'Bassのクラブに行き、朝まで踊ったりなどの、ちょっと変り種系な遊びもたくさんしました。また、語学学校で知り合った友達の1人とは特に親しくなって、コース終了後もよく会っては色々な話をしたり、お互いの国の料理を作りあったり(私は五目散らし寿司を作りました)、一緒に少し遠出の旅行をしたのもとても良い思い出です。英語はお互いに下手でしたが、クリスマスを過ぎるころには何の違和感も無く会話できるようになっていました。また、クリスマス前後の一週間の休みでは、スペインやモロッコにも足を運び、観光を楽しみました。

 と、まぁ、言っていけばキリが有りませんのでそろそろ止めることにします。
最後になりましたが、この留学を支えてくれた多くの方々のサポートには、心から感謝しております。本当にありがとうございました。