油谷 百合子 指導教官: 松本 宏 〔背景と目的〕 活性酸素生成型の除草剤には,光化学系氓フ末端から電子を受け取って自らが還元されそれを酸素に渡して スーパーオキシドを作るタイプと,ポルフィリン生合成経路のProtoxを阻害し,Protoァの異常蓄積を引き 起こして,その光増感作用で活性酸素が生成されるタイプがある。この活性酸素が生体膜を過酸化すること で植物体茎葉部に乾燥,褐変,漂白などの症状が現れる。これまでの研究でハコベが後者のタイプの光要求 型の除草剤に対して抵抗性を示すことが明らかにされており,抵抗性の要因としてハコベではProtoァの蓄 積が少ないことと,元来有している抗酸化酵素活性が大きい可能性が示唆されている。本研究ではハコベ, アオビユ,メヒシバを比較し,ハコベの活性酸素消去能およびその誘導と抵抗性の関係を調べた。 〔実験材料と方法〕 供試植物としてハコベ(Stellaria media Villars.),アオビユ(Amaranthus retroflexus.),メヒシバ (Digitaria adscendens Henr.)を用い,供試薬剤としては活性酸素発生剤であるパラコートを用いた。 1)スーパーオキシド発生剤であるパラコートを散布したときのハコベの光酸化ストレス抵抗性を他種と比較 3葉期まで育てたハコベ,アオビユ,メヒシバの3種に10−6,10−7,10−8Mのパラコートを噴霧処理 し,グロースチャンバーで引き続き1週間生育させた後,茎葉部を切り取りそれぞれのクロロフィル含量 を測定した。 2)抗酸化酵素活性の検討 3葉期まで育てたハコベ,アオビユ,メヒシバの3種に10−7Mのパラコートを噴霧処理し,0,1,2,3 日目の,コントロールとパラコート処理した植物のAscorbate peroxidase, Gltathione reductase, SOD, Catalaseの酵素活性を測定し,経時的な変化を調べた。 〔結果と考察,今後の展開〕 1)3種の植物に10−6,10−7,10−8Mのパラコートを処理した後各々のクロロフィル含量を測定した結果, アオビユ,メヒシバではパラコート濃度が高くなるにつれてクロロフィルが著しく減少したのに対して, ハコベでは減少の程度が小さかった。高濃度のパラコートに対してもクロロフィルが減少しにくいことか らハコベはパラコートに抵抗性をもつと考えられた。また,次の抗酸化酵素の測定に用いるパラコート濃 度は10−6Mでは他の2種が枯死してしまうので,枯死せずにパラコートの影響が強く出るであろうと思 われる10−7Mとした。. 2)抗酸化酵素活性測定の結果,パラコートを処理しないときハコベでは4つの酵素すべてにおいて他の2 種よりも活性が高かった。一方パラコートを処理した場合1日目に活性が大きく上昇し,2,3日目には 無処理のときと同レベルまたはそれ以下に低下した。アオビユ、メヒシバも同様の傾向が見られたが、そ の活性のレベルはハコベと比べてかなり低いものであった。 この結果からハコベのパラコートに対する抵抗性は元来有している抗酸化酵素の高い活性と,パラコート 処理したときにその活性がさらに高まることが一因となっていると推測される。 現在,3種の植物間にパラコートの吸収の差があるのかを確かめるために〔14C〕パラコートを用いた測定 と,1重項酸素発生剤であるローズベンガルに対する抵抗性と抗酸化酵素活性の関係についての検討を行っ ている。