円石藻の培養条件制御による生育速度調節

       有賀孝雄            指導教官・白岩善博 <目的>  円石藻は細胞の表面にコッコリス(coccolith)と呼ばれるCaCO3より成る殻を有している。 従来の円石藻の研究においては、Emiliania huxleyiPleurocrysis carterae 等が生理生化学的 研究材料として主に用いられてきた。その理由として、海洋における生態学的重要性に加え、培 養の容易さがあげられる。しかし、300種を越える円石藻種が報告されており、これらの限られ た種の特性のみから円石藻全体の特性を代表させることは出来ない。また、他の種が実験に使わ れない理由として、培養系が確立されておらず、十分な速度の生育が得られないことがあげられ る。Umbilicosphaera sibogae var. sibogaeもその一つであり、それは大サイズの1コッコリス 内に2細胞が存在する特異な構造を有する点に大きな特徴がある。この種を用いた生理学的研究 は僅少であり、まずその培養系の確立と生育特性の決定を試みた。さらに、円石藻の生育速度の 調節要因を解明するため、微細藻類用バイオリアクターを新規に作製し、それを使用して constant density cultureを試み、Batch culture との生育特性の比較を試みた。 <方法> 1)培養条件  用いた細胞はEmiliania huxleyiUmbilicosphaera sibogae var.sibogaeである。培地として ESM添加培地を含む人工海水Marine Art SF-1 (千寿製薬)を用い、pHを8.2に調整した後、滅菌 した培地に濁度(OD750)が0.01になるように接種し、生育が止まるまで毎日濁度を測定した。濁 度測定にはBosch&Romb分光光度計(島津製作所)を使用した。条件によりNaHCO3または K2HPO4 を添加し、その影響を調べた。 2)バイオリアクターを用いたconstant density culuture  比較として増殖速度の速いChlamydomonas reinhardtii を用いてバイオリアクターの性能を 確認し、必要な条件設定の基礎データを得た。次に、Emiliania huxleyiを用いて一定温度、一定 pHおよび一定濁度での培養を行った。constant density cultureでは基質流入時間から基質流入 量を計算し、一定濁度での基質流入量をグラフ化し、生育速度を求めた。通常の空気を通気し、 pH STAT機能を用いて、酸(0.1N HCl)およびアルカリ(0.1N NaOH)を添加することにより培養し た。光量は73.5μmol/F/s、基質流入速度は1.5N/sとした。 <結果> 1)U. sibogae var. sibogae の生育曲線から、生育速度はE.huxleyiと比べて低かった。その原 因を明らかにするために、無機炭素源および無機リン酸濃度を変化させ培養したが、生育の改善は 認められなかった。 2)E. huxleyiにおいては、20mM NaHCO3添加条件においてその生育は抑制された。一方、低濃度 NaHCO3下では、培地にK2HPO4を添加しても生育曲線に変化は見られなかったが、20mMNaHCO3 存在下においては、K2HPO4添加によって生育速度が増大した。 3)E. huxleyiを用いて、バイオリアクターを用いたconstant density cultureを試み、一定濃度 条件下で培養に成功した。Batch culture での生育とconstant density cultureでの生育とを比較 し、養分欠乏等の制限要因の解析に応用できることを明らかにした。

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