ラットの子宮におけるプロスタグランジンF
2αの生理作用に関する研究
飯田 佐知子 指導教官 坂本 和一
[ 導入・目的 ]
子宮内膜は卵巣周期に伴って周期的に肥厚と剥離をくり返しており、これは卵巣か
ら分泌されたエストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンの作用によることが明
らかとなっている。子宮内膜症は、この子宮内膜に類似した組織が本来存在している
子宮腔以外の場所に異所的に存在する良性腫瘍で、不妊症の原因の一つにもなってい
ることから最近特に注目されている。子宮内膜症細胞は増殖活性と浸潤性をもち、悪
性腫瘍のような性質を合わせ持っているが、子宮内膜症組織は形態的には正常な子宮
内膜組織に類似している。しかしホルモンに対する反応は全く異なり、ほとんど周期
的な変化を示さないことが分かっている。
一方、卵巣では周期依存的に黄体の形成と退縮が起こっている。黄体の退縮は、プ
ロスタグランジン(PG)F2αが黄体細胞膜上の特異的受容体(FP)に作用し、黄体細胞
のアポトーシスを誘導することによって起こることが知られている。FPは七回膜貫通
型の受容体で、Gqタンパク質と共役することが知られているが、それ以外にも数種類
のGタンパク質と共役して異なるシグナル伝達経路を作動させることが示唆されてい
る。本研究室における研究結果より、ウシFPにおいては、C端のアミノ酸配列の異な
る5種類のvariant form(α〜ε)が卵巣組織から同定され、その時期特異的な発現
に関しても研究が進められている。PGF2αはその受容体に結合することによってPLC
を活性化し、細胞内カルシウム濃度を上げたりPKCを活性化することで子宮に作用す
ることが知られているが、このようなシグナル伝達経路はFPのformの違いによって異
なることが予想される。そこで本研究は、ラットFPのvariant formのcDNAを単離し、
子宮内膜症における発現を調べることによって、FPと子宮内膜症との関連性を明らか
にすることを目的としている。
[ 方法 ]
PMSGとhCGを投与して偽妊娠状態にしたラットの卵巣からtotal RNAを抽出し、olig
o d(T)17 primerと逆転写酵素を用いて逆転写反応を行い、ラット卵巣のtotal cDNA
を合成した。次にこのcDNAを鋳型にし、sense primerとしてウシFPのすべてのvarian
t formの翻訳領域に特異的なprimerを、antisense primerとしてウシFPのgenome配列
の3’非翻訳領域に特異的なprimerを用いてPCRを行った。そのPCR産物を1%Agaros
eゲル電気泳動により分離して、ニトロセルロースフィルターにブロットし、[α-
[ 結果・考察 ]
5種のウシのvariant form(α〜ε)に特異的なprimerとラットの卵巣由来のcDNAを
用いてRT-PCRを行ったところ、β以外の4種においてそれぞれの予想される大きさと
ほぼ一致するバンドが確認された。そこで、すべてのvariant formに共通な4種のpr
imerを用いてPCRとサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、2種のprimerを
用いた場合においてバンドが確認できた。現在、このPCR産物についてpBluescript S
K(+)へのクローニングを行っている。また、Hot Start PCRを用いたりPCR時のMg2+濃度を変えるなど、より効率的なクローニングの検討も行っているところ
である。さらに得られたクローンを用い、RT-PCRやNorthern Hybridizationやin
situ Hybridizationなどを行って子宮内膜症特異的なFPの発現誘導に関して研究
し、子宮内膜症とPGF2αやFPとの関連を調べていきたいと思う。
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