石原 一郎 指導教官:岡戸 信男
【目的】
我々の研究室ではこれまでに神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリンが生体の中枢神経系でシナプス形成維持に促進的に働いていることを報告してきた。ドーパミンもラット大脳皮質においてシナプス形成維持に関わっているという報告もある。しかし、ラットでは大脳皮質にドーパミン線維は前頭前野にのみ少量しか存在しないが、サルとヒトの大脳皮質はドーパミン線維を広範囲に多量に含んでいる。従ってヒトでのドーパミンの機能を類推するにはサルを用いる必要がある。ドーパミン量を減少させるには従来からカテコールアミン神経毒である 6-hydroxydopamine を中脳に注入する方法がとられてきた。しかし前頭前野へ線維を投射している腹側被蓋野のA10 細胞群は薬に対し耐性がある(ラット)ことや神経毒を注入してA10 細胞群を破壊することは技術的に難しいことだと思われたので受容体拮抗薬を用い、ドーパミンの神経伝達を遮断することにした。以上の結果3才の前頭前野( 46 野 )第汨wの非対称性シナプス数が薬物依存的に減少することが我々の研究室で報告された。本研究ではこの研究をさらに進めドーパミンのシナプス形成維持について汨wだけでなく他の層にも関与しているのかを調べることを目的とした。また、ドーパミン受容体はD1とD2系に大きく分けられる。本研究で用いた受容体拮抗薬はD2特異的であり精神分裂病の薬でもある。D2は精神分裂病以外の精神疾患とも関係が深いとされ、D2 → シナプス → 精神疾患というカスケードが考えられる。
【方法】
本研究では3才、6才のアカゲザル( Macaca mulatta ) を用いた。D2受容体拮抗薬にはネモナプリド( YM-09151-2 、山之内製薬 ) を使用した。薬物は体重1kgあたり1mlの生理食塩水に溶かし、腹腔内に一日一回、3日間連続投与した。3才群では薬物を体重1kgあたり0.5または0.1mg投与したものと生理食塩水のみを投与したものを一頭ずつ作製した。6才群では体重1kgあたり0.5mg投与したものと生理食塩水のみを投与したものを一頭ずつ作製した。薬物の最終投与から6時間後に脳を摘出し、矢状断に半切し、左脳を電子顕微鏡試料を作製するために2%グルタルアルデヒド・2%パラホルムアルデヒド・0.1Mリン酸緩衝液で浸潤固定した。十分に固定された脳より前頭前野( 46 野 )、運動野( 4 野 ) 、体性感覚野( 3-1-2 野 )、側頭連合野( 21 野 )、一次視覚野( 17 野 )の各領野から約1mm 四方で pia matter から白質までのブロックを切り出し、後固定、脱水の後エポン樹脂に包埋した。この包埋ブロックから厚さ1μm の薄切切片を作製し層構造を観察し、スケッチした。さらに包埋ブロックから超薄切切片を作製し大脳皮質第層のneuropil における非対称性シナプス数を透過型電子顕微鏡を用いて計測した。(初期倍率3600倍、最終倍率18000倍)
【結果と考察】
ネモナプリドの投与により3才46野第汨wでは約35%非対称性シナプス数が減少したのに対し、第層ではいずれの領野においても変化が見られなかった。また生理食塩水を投与した動物の46野において第汨wと第層での非対称性シナプス密度の変化は見られなかった。第汨wは皮質6層構造の中で最もドーパミン繊維を多く含むという報告がある。特に腹側被蓋野などの視床皮質修飾系の大脳皮質への投射は第汨wに終止している。第汨wで非対称性シナプス数が減少し第層で減少しなかった理由はここにあるのかもしれない。今後の予定として6才の第層とともに46野の第「層(視床の背内側核から投射を受ける)での非対称性シナプス数について調べてゆくつもりである。
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