枯草菌ヒストン様タンパク質HBsuにおける
scRNA結合部位の解析
井上 道雄 指導教官:中村 幸治 責任教官:山根 國男
目的
細胞内で分泌タンパク質の膜へのターゲッティングは、シグナル認識粒子(SRP)に
より行なわれている。SRPはリボ核酸タンパク質複合体であり、真核生物のSRP RNAは
4つのドメイン( I〜IV)からなり、グラム陰性菌ではドメインIVのみから、グラム
陽性菌ではドメインI,II,IVからなるSRP RNAを有している。全てのSRP RNAのドメイ
ンIVには、分泌タンパク質の認識と結合を行なうタンパク質が結合することが明らか
になっている。また、真核生物のSRP RNAドメインIには、SRP9,14という2種類のタン
パク質が結合し、タンパク質合成の一時停止に関与している。グラム陽性菌である枯
草菌のSRP RNA(scRNA)もドメインI,IIをもち、この領域に結合する因子を探索したと
ころ、ヒストン様タンパク質HBsuが同定された。HBsuを含むヒストン様タンパク質は
非特異的にDNAに結合し、ヌクレオイド様構造をとらせると考えられている。またヒ
ストン様タンパク質BstHUの結晶構造解析から、HBsuはホモダイマーとして核
酸に結合していると考えられる。このようなヒストン様タンパク質が低分子RNAに特
異的に結合するという報告はHBsuが初めてであり、本研究ではこのscRNAの結合に関
与する構造特異性を決めている因子を探索することを目的とした。
方法
HBsuのscRNAの結合に関与する構造特異性を調べるため、ホモログであるYonNの変
異体を用い、scRNA結合能の比較を行なった。YonNは、HBsu同様分子量約10KDa、92ア
ミノ酸からなるタンパク質で、さらに他のヒストン様タンパク質とYonNのアライメン
トから、YonNもα-β-β-β-αモチーフを持ち、ダイマーになるとサドル型構造とい
う核酸結合構造をとると予想された。しかし、YonNのscRNA結合能を調べたところ、H
Bsuと比較して低い結合能しか示さなかった。このHBsuとほぼ同じ構造を持つYonNに
置換変異を導入し、ゲルシフトアッセイを行ないscRNA結合能が増加するアミノ酸残
基を調べた。
結果及び考察
置換変異を導入した五つの変異体においてゲルシフトアッセイを行なったところ、
二つの変異体でscRNA結合能が増加がみられた。この二つの変異体は、核酸結合に関
与するアーム領域内に置換変異を導入したものである。アームとは、
サドル型構造を形成したヒストン様タンパク質が持つ構造のことであり、二本のアー
ムで核酸を挟み込むとともに、内部のアルギニン残基との相互作用で核酸と結合して
いると考えられている。したがって、HBsuのアーム領域がscRNAへの特異的な結合に
関与していると考えられる。現在、他の領域のアミノ酸残基について置換変異を導入
し、さらなる解析をおこなっている。