霞ヶ浦における溶存態炭水化物の組成と生成過程


岩永千沙子                         指導教官:及川武久 


【目的】
 海洋・湖沼などの水圏に存在する溶存態有機物(DOM)は大気二酸化炭素に匹敵する炭素のリザー バーであり、その動態を知ることは地球の炭素循環を理解する上で重要である。DOMは起源、有機物 種、分子量などによって化学的・生物学的な特性が異なるが、物質循環における溶存態有機物の役割 を知るには、質(分子量、有機物組成)と量(存在量)の両面からのアプローチが有効であると考え られる。植物プランクトンは光合成産物の5〜30%をDOMとして放出するため、主要なDOM源のひと つであることが知られている。DOMを構成する有機物のうち、炭水化物は最大の割合を占めることが明 らかにされてきている。さらに、炭水化物を構成する糖類組成からDOMの起源を推定できる可能性があ るため、現在最も注目されている化合物群の一つである。
 本研究では霞ヶ浦を対象として炭素の安定同位体(13C)をトレーサーとした植物プランクトンの 培養実験を行い、分子量の異なるDOMに含まれる炭水化物の存在量、植物プランクトンの光合成による 生産速度および光合成生産を通した回転速度について、構成単糖レベルで評価することを目的とした。

【方法】
 1999年8月3日、霞ヶ浦土浦港の岸壁から表層水を採取して一部にトレーサー(Na13CO3)を加え、 9lポリカーボネイト瓶を用いて一昼夜培養した。培養前の湖水と培養後の湖水をガラス繊維ろ紙 (Whatman,GF/F)でろ過し、ろ紙上の懸濁態有機物(POM)とろ液の溶存態有機物(DOM)に分別した。ろ 液から2lをとり、フォローファイバーカートリッジを用いてDOMをさらに10kDa以下の低分子量画分と 10kDa以上の高分子量画分とに分けた。各画分に含まれる炭水化物を酸加水分解して単糖とした後、各単糖類 をアセチル化した。ガスクロマトグラフおよびガスクロマトグラフ/質量分析計法を用いて、8種類のアルド ース(ラムノース、フコース、リボース、アラビノース、キシロース、マンノース、ガラクトース、グルコース) について濃度と生産量を測定した。

【結果と考察】
1)溶存態有機炭素(DOC)の70%近くが低分子量分画の有機物で占められていたのに対して、炭水化 物の多くは高分子量画分に見いだされた。
2)生産された溶存態炭水化物の多くは、存在量と同様に、高分子量画分に属した。DOCの生産量の 50%が炭水化物であり、光合成によるDOCの生産における炭水化物の重要性が示された。分子量 画分毎に炭水化物の占める割合は大きく異なっており、低分子量画分でより高い割合が認められた。
3)単糖組成については、低分子量分画 にはグルコースが最も多く全体の5分の1以上を占めたのに対 して、高分子量画分にはラムノース、キシロースが多く、画分間で組成の異なることが示された。高分子 量画分の糖組成から、植物プランクトンが細胞外に生産する粘性多糖類が溶存態炭水化物の主要な起源で あることが示唆された。


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