ガロアムシ目Notopteraの発生学的研究

─採集法・採卵法・組織学的研究法─

内舩 俊樹     指導教官:町田 龍一郎   責任教官:牧岡 俊樹

【目的】 ガロアムシ目Notoptera は2亜科4属25種の最も小さな昆虫群の一つであり、日本を初め、北 米、韓国、シベリアなど北半球の環太平洋地域に分布し、中でも高地や洞窟など冷涼な気候の地域に生息して いる。体長は約2センチで、扁平な頭部には前方を向いた口器があり、Notoptera(欠翅目)という名が示す ように翅が全く退化している。ガロアムシ目はバッタ目、ハサミムシ目など他の直翅群系の目とともに有翅昆 虫類の中の多新翅類Polyneoptera に分類されている。このガロアムシ目はその形態的・解剖学的視点から同 じ多新翅類に属するこれらいくつかの目に類似する特徴を持っており、それらの目の形質をモザイク的に持ち 合わせているといえ、従来、多くの議論が出てきたがいまだ決着のついていない多新翅類の高次系統ならびに そのグラウンドプランの解明にとって最も重要なグループである。
 このような系統学的な検討において比較発生学的アプローチは最も有効な手段の一つであるが、ガロアムシ 目の発生学的研究に関しては、Galloisiana nipponensis の発生に関していくつかの記載がなされているものの かなり不十分であり、さらに詳細に研究を行う必要がある。そこで卒業研究では、ガロアムシ目の比較発生学 的研究の第一段階として、材料の採集や採卵法、組織学的研究法などの開発を行った。

【研究方法の開発】

〈採集・飼育〉 材料となるガロアムシ目の生息条件や安定した材料の確保を念頭に、実験室近くの山地に てサーヴェーを行った。そして、9月下旬に長野県東部町湯ノ丸において多くの成虫個体を採集することがで きた。これらはヒメガロアムシGalloisiana yuasai Asahina(1959)と同定された。採集個体は、共食いを防 ぐために個別の容器に入れて10℃・高湿下で飼育した。餌としてミルワーム、アリやハエの幼虫などを週に 一度の割合で与えた。現在までに成虫33匹(雄15、雌18)、幼虫10匹を採集・飼育することに成功している。

〈交尾・採卵〉 9月頃からおよそ一ヶ月に一回のペースで産卵がみられた。一回あたり20個前後の 卵が1-10日のうちに産下された。卵は長径1.6mm、短径0.7mmの楕円体で黒色をしていた。卵は、その都 度親とは別の容器に移し、適当な湿り気を与えながら約10℃でインキュベートした。現在までに約500個の 卵を確保することに成功している。ガロアムシの卵期は Galloisiana nipponensis において温度10℃-12℃で 約五ヶ月から長くて三年に及ぶといわれているので、採卵・固定は15-30日ごとに行うこととした。
 また、交尾をしていない雌個体が未受精卵を産卵する例も報告されているので、実験室内で雄と雌を一匹ず つ同じ容器に入れることで交尾させた。現在までに3ペアで成功しており、雄が雌の背後から前胸と中胸の間 の辺りに噛みつき押さえつけて、腹部を雌の右側から伸ばしておこない(下図)、この状態が2時間半から3 時間半継続した。
〈組織学的研究法〉 ガロアムシ目の発生学的研究
に向けて、固定法・切片作成法などの実験方法を工夫
した。固定液としてはブアン液、カルノフスキー液、
パラホルムアルデヒド等、包埋材としてはパラフィン
やメタクリル系樹脂等を試験した。黒色の卵殻は大変
丈夫なため、組織学的処理には卵の穿孔が不可欠であ
った。卵の固定は卵殻に穴を開けたのち、固定液とし
てパラホルムアルデヒドを用いることで良好に行え
た。切片作成法としては、パラフィン包埋法、セロイ
ジン-パラフィン包埋法、メタクリル系樹脂(テクノ
ビット7100+スチレン)包埋法などを試みた結果、メ
タクリル系樹脂による薄切がかなり良好な結果をもた
らすことが分かった。
 

   図:ヒメガロアムシの交尾 手前がオス

【今後】 このヒメガロアムシを材料に、発生学的なテクニックをさらに確実なものにし、発生過程の概略
を記載するなどガロアムシ目の発生学的研究を進めてゆくつもりである。またこれとは別に、ガロアムシ目の
分類は大変混乱しているので、日本各地でガロアムシ類の採集を行い、日本産ガロアムシ目相の解明も目指し
たい。


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